コード294「荒野に入っては荒野に従え」
第294話
前回、冒険者達がお酒を飲み始めて
冒険者達が、お酒を飲み始めた。ウーズが先導し、ドワーフ達もそれに便乗して飲んでいる。ドワーフはお酒が大好きな種族であり、自分達でも作ったりするほどである。
「ん~、この酒は安酒だな。まあ、無いに越した事はない。ふぃ~」
ドワーフ全員がお酒を飲んでいる。ローンが必死に止めている様子が見えるが、誰も彼の話を聞こうとしていない。
「おい! だから、辞めておけとあれほど言ったんだ! 早くその飲む手を止めろ! 他の皆さんも不思議そうに見ているじゃないか!」
今回来ているソリナのメンバーはその全員が未成年であり、もちろん飲めないし、飲もうとも思うはずもない。
「だからさぁ、酒は普通に飲むんだって。冒険者なら普通だって。あ、そいつらはガキだろうから、俺らの常識には当てはまらねぇよ」
つまり、指摘をする人物が居ない。に思えた。そこへずかずかと歩みを進み、指摘する大人が居た。
「あら、私はそれ、知らなかったんだけど、詳しく聞かせて貰えるのかな~? 私も冒険者やってるけど、クエスト中にお酒を飲んだ事なんて一度も無かったんだけど? あ、私が変わり者って事なのかな~?」
声を上げたのは、ウミューシーだった。冒険者達は一瞬、たじろぐのだが、ウミューシーの言葉を都合よく解釈してしまう。
「ん?あぁ~……そうだなぁ。あんたが変わり者って事だよ。ここは、『荒野に入っては荒野に従え』だ。冒険者なら知ってるだろ? 俺達はこれが普通なんだよ。従う従わねぇ関係ないんだよ。俺達には俺達のやり方がある。それをわかってないようじゃ……まだまだお子ちゃまって事だな」
ウミューシーは、こめかみがひくつくが、声を荒げて怒ったりはしなかった。そもそも、冒険者とは、荒くれ者の集まりという事を思い出したからだ。
「ねぇ……委員長、あれって、『郷に入っては郷に従え』ってやつじゃない?こっちにもそういうのあるんだ……」
羽島唯香が黒見藍の耳元で小さく囁く。元の世界にあったことわざに似たものがあるとは思わなかったそうだ。
「ウミュー、もうそこまででいいよ。私らは飲まない。警戒をする。でも、私達には私達なりのやり方をすればいい。向こうがそう言うんなら、私達も荒野に入って荒野のやり方をすればいいだけ。例え仮に痛い目を見たとしても、それは向こうのせいだからね」
リーナは割り切った。割り切るしかできなかった。過半数の冒険者が酒を飲み、強引に取り上げ、空気が悪くなるくらいなら、いっそのこと、このまま続けさせ、少しくらい痛い目見れば良い。そう思っていた。ウミューシーは顔を逸らし何も言わなかった。
「はぁ……、飲みすぎるなよ。あと、私達の邪魔もするなよ。もし邪魔したら、もうそれっきりだと思え」
天音ユウリもリーナのその様子を見て、何かを感じ取り、割り切った。割り切るしかできなかったが正しいだろうが。冒険者達は天音ユウリからの言葉に適当に返していた。
「クソ……僕のせいだ」
ローンだけはまだ納得がいってない様子であった。
飲酒をしていない組は、リーナとウミューシー、ソリナ、ローン、コール、マイナール、数名の冒険者。交代で警戒を続け、目的地へと向かって行く。
「こんな事になるなんて。なんだか、嫌な感じですね……。はぁ」
黒見藍がため息をつきながら、中学生組も肩をすくめる。
「あれはあいつらが悪い。というか、これを想定出来なかったクランも悪いよ~仕方ないとは言わないけど、次からはちゃんと想定して気を付けよう」
ウミューシーがばっさり切り捨てた。酒を燃料として用意させた冒険者達も悪いが、それを疑わずに用意し、運び込ませたクラン側にも非があると言いたいようだ。もちろん、それを阻止できなかった自分達も悪いと付け加えた。
「少しくらいは、懸念があっただろうな。だが、それは結果論だ。あとは現場に任せるという感じだろうな。となると、まあ、私達にも責任の一端はあると言う訳だな」
天音ユウリはその意見を聞いた上で共感していたが、少し苦い顔をしていた。自分達の年齢がもう少し上だったなら、ウミューシーと共に、指摘が出来ていただろうと。
「この話は一旦終わりだ。だが、あいつら、本当に大丈夫なんだろうな……」
「まあ、やる時はきちんとやってくれると信じたいですね。はぁ……、気分転換に話を戻しますか。カナリーさんについてのお話、続けましょうか」
気を取り直し、カナリーの話題に戻る事となった。
「カナリーさんって、さっき優しいって言いましたけど、こっちの事を考えながら行動してくれますよね~……、こう、タイミングばっちり! みたいな」
黒見藍がターミナルベースにて、作業をしていた時にちょうど喉が渇いたタイミングでカナリーが飲み物を持ってきてくれたというエピソード。
「それは分かるかも。私も以前、調査報告書を書いていた時に、夜までかかりそうだと思っていたのだけど、その時にカナリーがやって来て、手伝ってくれたんだ。あの時は確か……、『もし、良かったら手伝いましょうか? もし、良かったらですけど』って言っていたな。ココアも持ってきてくれてな……、あれは美味しかった」
リーナは鼻が高そうだ。自分のことじゃないのに、まるで自分のことのように嬉しそうに笑っている。
「君たちソリナって、普段は何しているの? あ、話せない事があるなら、ごめんね~」
ウミューシーはカナリーの事を聞くついでにソリナの普段が気になり、聞いてみることにした。それに対しては、黒見藍が答える。
「あ! それなら私が説明します。良いですよね? ユウリさん」
ユウリも表情を崩しながら軽く頷いたことで、許しを得た。
「普段の私達は拠点で過ごしています。調査依頼があれば、調査に向かい、調査が無いと訓練やらですかね。他で言うなら書類整理とかでしょうか」
「あ、ちなみにお休みはちゃんと出ていますのでそこは安心してくださいまし。最近、少し人が増えたのでその辺りもちゃんと整備しましたものね」
黒見藍の言葉に笠井澪が追加する。ソリナとの面々との雑談はしばらく続いた、
「そう言えば、少し小腹が空きましたね。食堂車にでも行ってもいいでしょうか?」
「そう言えば、朝食も軽くしか取ってなかったな。軽くお腹に入れておくのも悪くない。行こうか。リーナさんとウミューシーさんも一緒にどうですか?」
断る理由も特にない為、リーナ達は快く了承していた。
「それなら、見張りは私達でしておくからゆっくりしてくると良い」
見張りは宮本夢月と羽島唯香、月見里先生が残る事となった。
食堂車には、ナカ、天音ユウリ、黒見藍、笠井澪、リーナ、ウミューシーの6人が向かう事となった。食堂車では、酒を飲んでいなかった冒険者の一部が軽食を取っていた。手を見るとレーションやら、干し肉をかじっていた。そこに、コールとマイナールも一緒に居た。あの二人の周りだけ、オーラが違って見える。とても優雅だ。
「あら。皆さんもいらっしゃったのですね。少し聞こえていましたよ。他の冒険者の皆さんが、お酒を飲んで騒いでいると。困ったものですね。まあああいうのは、結局は自分に返ってきますからね」
コールは硬そうなビスケットにかじりつきながら答えていた。
ふと視線をマイナールに向けるのだが、目の前には水の入ったコップだけ。何も食べていないように見える。甲冑のまま、微動だにしていない。
「まあ、そうですよね……、はぁ。お食事中でしたか。私達も軽食を取りに来たんです。ご一緒しても良いですか?」
ビクっと甲冑が動いたように思えた。その様子をコールが見て、にこっと笑った。
「良いですよ。でも、この人、凄く人見知りだから、話すのは私だけでも良いのでしたら」
「えぇ、もちろん全然構いませんよ。では……、机を少し近づけてと」
いくつかの机を寄せて、準備万端である。勇者達が取り出したのは、携帯食品ではあるのだが、その見た目が、ブロックバーであった。それを作ったのは、ターミナルベースに居る、同じ勇者の小豆野 実乃里である。栄養満点かつ、お腹に溜まる優れもの。これ一本で、お腹が6割は満たされる軽食であった。
「わぁ、それ美味しそうですね。四角くて、パンのように見えますけど……少し硬そうで。あら?良い香りがしますね……、ふんわりバニラのような、フルーツのような……」
「これはバニラ味とメープル味、それから、ミックスフルーツ味ですわね。とっても美味しいんですよ」
笠井澪が美味しそうに上品に食べていた。
そのブロックバーを指を咥えながらコールは見つめていた。
「あ、あの……もし、よろしければ、一つ頂けませんでしょうか。それすごく気になってしまって……」
「それなら、私のを一つどうぞ。その代わりに、そのビスケットと交換で!」
ナカが、自分の分と交換という条件でコールに渡した。
「あ、ありがとうございます!」
コールは受け取ったブロックバーをまず、匂いを嗅ぐ。甘い香りでメープル味。口に運ぶと、さくっと簡単に噛み砕くことが出来た。芳醇な香りがコールの体を巡っていく。
「え……、おいし……何これ……」
コールは異世界のブロックバーに舌鼓を打ってしまう。コールはハンカチで口回りを丁寧に拭いながら、上品に笑う中にあどけなさを残していた。リーナはその光景を見ながら、笑みがこぼれる。
(リーナ?どうかしたのか?)
ザミエルがリーナに語りかけた。
(ううん、何でもない。ただ、幸せそうだなって。ああいう顔を見てると、カナリーさんを思い出しちゃって。不思議だよね。なんだろう。笑い方っていうのかな)
不思議だった。顔も体も声も違うのに、どこかそう感じてしまっていた。どこか被ってしまう。
そんなゆったりした時間は突然終わってしまう。現実に引き戻される二つの大きな音が列車内に響き渡る。
パァン!パァーン!
明らかに銃声だった。連続して、二発が放たれた音だ。まさか、魔物が出たのか。その音に全員が警戒する。その音の発生源は後方車両からだった。二発の銃声によって、現実に引き戻される。それが、この魔列車に乗る乗組員全員を巻き込む事件となるとは、誰も予想出来なかった。
冒険者達はどうしてもお酒が飲みたかったようですね。これ以上話しても意味が無いと判断したのも早かったようですが、ローンは納得してないようですね。ここで補足ですが、リーナ達ももちろん、納得はしてません。ただ、割り切っただけですね。普通に怒ってます。でも、ここで怒ってエネルギーを使うよりかは、クエストに備えたい気持ちが勝ったようです。ローンはその辺も慣れてなかったようですね。
勇者達のブロックバーは、元の世界にもあるようなエナジーバーのような見た目ですね。小豆野 実乃里の調理スキルはかなり便利ですね。ちなみに、これ、疲労回復の効果もあるのでだいぶ優れものです。
そして、最後の銃声。一体、何が起こったのでしょうか。クエストはどうなるのか。
第294話、読んでいただきありがとうございます。




