コード293「誰もが話を聞こうとしない」
第293話
前回、クエストが始まり
魔列車が岩石地帯のレールを進む中、車窓に映るのはクエストに向かう冒険者達。リーナ達が話す、少し前の事。ローンと冒険者が後部車両にて、何か秘密の会話を行っていた。
「……だから、それはこちらも支払っただろうと何度言ったら分かる。何が不満なんだ。お前達は何を求めている?」
ローンは苛立ちを抑えながらも、話し合いのテーブルにつこうとしていた。
「いや、俺達はもう少し追加料金を支払って欲しいって言ってんだよ。ほら、前日まで整備を頑張ったんだからさぁ。な? 良いだろ?」
こめかみを抑えざるを得ない。その整備は、ローン自身も手伝った。何なら、一番大変な動力炉の点検から、ちゃんと動くように整備したのはローン自身だったからだ。
「それはダメだ。だが、安心して欲しいのは本来の金額はきっちり支払う。こんな危険なクエストに来てくれているのだから。あまり困らせないでくれ。だが、クエストから逃げたり、ちゃんと仕事をしないというのなら、支払いは無いと思っておいた方がいい」
冒険者は乾いた舌打ちをしたが、まあ納得した。少し吹っ掛ければ、なびくとでも思ったのか、良い性格とは思えなかった。
「はぁ……わーったよ。ちゃんとやる。それは分かってる。あの龍を退かさねぇと俺らも困るからな。だが、てめぇも分かってるだろうが、こちとら疲れてんだ。少しくらい労ってくれても良いんじゃねぇか?例えば……、あの酒を少し飲むとかさぁ」
(……は? こいつは何を言っているんだ? クエスト前に……)
クエストの前日に飲むのなら、まだ分からなくもない。だが、今、飲むと目の前のこいつは言った。あまりにも非常識だ。そんなの……
「それは許可出来ない。クエスト前だぞ。いや、クエスト中と言っても良い。酔った状態でお前達は戦えるのか? いや、言い方を変えよう。酔った状態で、我々の邪魔をしないと言えるのか?」
邪魔をしないのか。その言葉が冒険者の耳に届いた時、男は大きなため息をつく。
「分かってねぇのはそっちだろ。冒険者はいついかなる時でも、戦えるようになってんだよ。てめぇの物差しで測ってんじゃねぇよ。出来るって言わなくても分かるだろ」
ローン自身、どこかの貴族の男だ。そう言われてしまえば、実際の事なんか分からない。現場の事を知らない。だから、強く拒否出来なかった。
「そ、それは……僕も知らない……すまかった。が、せめて、他の冒険者の意見も聞いてから……」
だが、男はその言葉を遮り、酒樽を一つ肩に担ぎ始めた。
「うるせぇな。持っていくぞ。少しだけだ。安心しろ。それに俺らはそんなに酔わねぇからよ」
ローンはそれを見ている事しかできなかった。
少ししてから、そんな話を知らないリーナ、ウミューシーと、ソリナのメンバー達が情報交換をする事になった。
「改めて、私はリーナ。元々、ロードベルトのオービット魔術学園に通ってたんだけど……、色々あって、今は冒険者をしてる。学園に通う前に……カナリーさんに救われて、とても……とっても大切な人なの」
リーナは胸に手を当てて、大切な人の事を思い出し、目を閉じていた。
「私は、ウミューシー。元アトラベルト出身で、まあ色々あって、この子と一緒に旅をしてる。カナリーの事は詳しくは知らない。顔を一瞬見たくらいかな? って感じ。あ、元警察だよ~悪い事したらダメだからね?」
黒見藍が、ソリナの事を話す。と言っても、内情の機密的な部分は話さない。
「私達は、異世界から転移してきた勇者です。この世界に魔王が誕生し、それの騒動を止める為に派遣されたと言えばよろしいでしょうか」
「と言っても、勇者も別世界から来たり、元々の世界が違う勇者も居るんだ。私がその例。天音ユウリ。よろしく。で、こっちのが……あれ?あ、居た。ナカ。こっちに」
呼ばれた少女。かつて、リーナにとって大切だった人に似た少女と改めて、面と向かって話す。
「初めまして。私、アイトリ・ナカって言います!よろしくお願いします」
黒い鍵状の杖を手に持ちながら、ペコリと礼儀正しくお辞儀をしてくれた。可愛い。そう思ってしまった。それにしてもやはり似ている。似すぎている。その様子に気が付いた黒見藍が口を開いた。
「あ、やっぱり思いますか?私も見比べて、似てるなって思ったんですよ。カナリーさんとナカちゃん。あと、ソリナに居るのが、カリナさんとセリンさんですかね。カリナさんの方は、うちのクラスで……セリンさんは……」
「黒見、話しすぎ。この場に居ない者の事までは良いだろう。話が逸れてるぞ。カナリーについてだろう」
リーナはソリナじゃない為、そこまで話す必要もないだろうと天音ユウリが止めに入った。
「あ、すみません。リーナさん悪い人に見えなかったので……つい」
「つい、で内情をペラペラ話すのは感心しないな。気を付けるんだよ」
怒っては無いが、天音ユウリは黒見藍に窘めるほどの声量だった。
「そうだ。話が逸れていた。カナリーについてだったな。私達から見て……うーん、そうだな。とにかく優しい。と言った印象だな。私達の手伝いをしてくれるようなそんな感じだな」
それを聞いて安堵した。優しい。そうだ。カナリー・アステライトという人間は優しい。誰かの為に動いてくれる人である。リーナは誰よりもそれを知っている。
「えぇ……あの人は、とっても優しいんです。私達の為に……あの、他にも色々と聞かせてください。カナリーさんの話、もっと聞きたいです」
リーナが前のめりになり、もっと聞きたいと言った。それはまるで今までの空白を埋めたいようなそんな言い方だった。
「もちろんです!まずはどこから話そうかな……ソリナに来た所から話しましょうか!私達もあたふたしていたんですけど、あれは……まだソリナが設立してからの話で……」
カナリーについての話は続いた。みんな相槌を打ちながら、楽しそうに話してくれている。ナカも会話に参加してきた。
「私も……少しだけ。私、この前、調査中に昏睡状態になってしまったんですけど、カナリーさんが調査から帰って来てから、ずっと看病してくれてたんです。毎日、ずっと病室に来てくれてたみたいで。そしたら、私の不調も少しずつ楽になっていって……あ、まだ、完全に治ったわけじゃないんですけどね……あ、これ、言うと……無茶するなって言ってくれて……」
「それに関しては、私も同意。でも、目の見えない所で何をするのか分からないくらいなら、私の近くで見てる方が良いし……それに、別の調査の方が……私的には危険そうだった……あ、これは部外者に話すような事でもないな。すまない」
ソリナは今、少々、立て込んでいるらしい。少し気にはなるが、あまり首を突っ込まないことにした。こちらも、紫青龍の件もある事だし。そう言えば、忘れていた。リーナとウミューシーの目的、それは、紫青龍が仲間の、メイスィ・サーヴィリアという人物かもしれないという事を。
「そう言えば、忘れていた。私達の目的は、紫青龍の事。ソリナの皆なら、話せる……かな。少し聞いて欲しいんだ」
ウミューシーと共に、自分たちの事情を話した。メイスィという人物を探している事。その人物が、紫青龍かもしれないという事を。
([勇者様方。少々よろしいでしょうか。以前、大噴海という事件があったという記事にアクセスが出来ました。そちらの被害者かもしれません])
マターシステムがナカ以外の勇者の皆に声として届く。
「大噴海……そういえば……」
そんな声を遮るかのように、冒険者の一人が息を荒くして、こちらに走ってきた。
「た、大変だ!あいつら、酒に酔って、大騒ぎし始めちまった!」
その男の頬も見ると、ほんのり染まっていた。この男も飲んだのだろう。
「酒……。あ。そういえば、燃料として積んでるって言ってたような」
後部車両。客室車両の方から、男達が酒を飲みながら、騒ぐ声が聞こえて来る。
「ぎゃははっ! 少しくれぇ、いいよなァ! 俺達ぁ、あんなに整備頑張ったんだからよぉ、女共に見張りでもして貰おうぜ。うぃ~、もう一杯だ!」
「そうだそうだ! ちょっとくれぇ、いいよなぁ! 誰も文句言わねぇって!」
現場は阿鼻叫喚である。特に、ウーズが一番飲んでいた。そこへ、ずかずかと歩んでいくのは、天音ユウリ。
「ちょっと、あなたたち。何をしているの。そのお酒は列車の燃料のはずよ。なんで飲んでるのよ」
冒険者の一人が一瞬こちらを見たが、酒を飲む方が大切らしく、視線は既に酒の方を見ていた。
「なっ、ちょっと! 無視しないでよ! なんで飲んでるのかって聞いてるんだけど!」
「あぁ~?あー、勇者サマか。別に良いじゃねぇか。俺達ぁ、整備も頑張ったんだ。少しくらい良いだろ。何が問題なんだ?駅もまだまだ先。大丈夫大丈夫、本番はしっかりすっから」
そういう問題ではない。仕事中に酒を飲むバカが居るとは思わなかった。
「それ絶対、酔いが残るやつ。今すぐやめなさい! そんな状態で戦えるわけないでしょう!」
ローンと同じ事を言われてしまう。だが、男達は飲むのをやめなかった。
「うるせぇ。黙れ。騒がさせろ。あとから来たお前らに何が分かるってんだよ。俺達が整備してなかったら、この魔列車も動いてなかったんだぞ。感謝して欲しいくらいだわ」
自分のことを棚に上げ、あとから来た者が悪いとまで言った。空気は最低最悪だった。こんなんじゃ、連携もくそも無い。いや、それどころか、喧嘩が始まりかねない。
魔列車は、進んで行く。日の光は指し込まずに、雲で覆われているが、列車はそれでも岩石地帯をガタゴトと進んで行く。外は静か。静寂。列車の中は、誰もが、己の言いたい事を口にし、誰もそれを聞こうとしない。喧騒。収集が付かなくなろうとしていた。
一つ。すべての命は等しく尊ばれなければならない。誠実に。
二つ。受け取った幸せは、必ず世界に還元すること。平等に。
三つ。救われた喜びを、次の誰かへの■■■にすること。愛情を。
「……私は……私って……」
クエストが始まり、雰囲気は最悪な状態です。特に、ウーズは元から酒を飲むつもりだったようです。この先、クエストは無事に終われるのでしょうか。現時点の状態で言えば、確実に死人が出てしまいかねませんね。果たしてどうするのでしょうか。
第293話、読んでいただきありがとうございます。




