コード292「刻一刻と黒金の箱が進む束の間」
第292話
前回、クエスト前日の整備の後
そして、ついに輝鳥歴224年 12ムーン15ピリオドの朝。グレイロック・バレー、イースト・キャニオン第4ステーションに集まったシルバーランク以上の冒険者達が総勢30名以上がこの日、集まっていた。駅に集まっているのは、冒険者達だけじゃなく、鍛冶師、冒険者の家族や冒険者組合の職員など様々であった。
皆に送り出されながら、冒険者を乗せた魔列車が汽笛を鳴らし、グレイロック・バレーから発車する。皆が手を振りながら、送り出された。岩石地帯のレールを魔列車が進んで行く。
屈強な冒険者の一人がリーダー格だけでも顔合わせしようぜと言い出し、お互いに顔合わせする事となる。パーティのリーダーをしている者や個人で活動している者、様々居るからだ。
「まずは言い出しっぺの俺からだな。俺はパーティ「赤剣の狼牙」のリーダー、ウーズだ。ランクは俺だけシルバーランク+でうちのパーティは他がシルバーランクだ。人数は俺を含めて6人。よろしく頼むぜ」
魔力はそこまで高く無いが、赤色の術式剣を腰に装備しているのが見える。見た目は屈強な男の冒険者だ。
次に前に出て来るは、少々小洒落た青年が爽やかに名乗りを上げてくる。
「僕はソロで活動しています。ローンと覚えてください。前衛よりかは後衛支援を得意としています。どうぞよろしく」
名前を覚えて欲しいという事と、身なりを見るに、恐らくどこかの貴族が冒険者をしているのだろうと推測する事が出来る。ローンという名も恐らくは偽名であるだろうとリーナは想像している。
「次は、俺達だな。コークスブリッジ国から来たドワーフ部隊だ。全員、こいつを持ってる」
コークスブリッジ国とはロードベルトの東側に位置しているドワーフ達の小国の一つである。ドワーフ達が手に持つ物はマスケッツァー合計20門に、魔術起爆装置、その他にも魔道具をいくつか持っていた。
ドワーフ達は魔列車から降りずに戦う予定であり、前衛はこちらに任せるらしい。
「あ、それ、うちの仲間も一丁持ってるぞ。便利だよな。弓を引く時代も終わるのかねぇ」
ウーズがまじまじとドワーフが持つ銃を眺めていた。
「あんまし触んなよ。暴発でもしたら、体に穴開くぞ」
触れようとしていたウーズが簡単に引き下がる。というか、人の武器に触ろうとしたの、何。とリーナはその様子を目を細めて眺めていた。
リーナは小声でウミューシーに耳打ちする。
「ああいうの嫌い……。私、最初は旧式でやるよ……触られたくないし」
「まあ無難だね。ってか、他人の武器に触るとか信用無いし有り得ない。それが良いと思うよ」
次に現れるのは、とんがり魔女帽を被った女性とごつい甲冑を着た人物であった。
「初めまして。私はコールと言います。吟遊詩人をしている冒険者です。こちらは……私と共に旅をしてくれている、マイナールと呼んであげてください」
コールの方は、髪の毛を後ろで三つ編みにしており、背中に大きなヴァイオリンを担いでいる。まさかとは思うが、あれは魔道具なのだろうか。
そして、ごつい甲冑の人物、マイナール。顔は全く分からないフルフェイスプレートだった。手には何も持っていない。まさか、素手で戦うのだろうか。もしくは、何かしらの術を使うのだろうか。
「おいおい、甲冑なのに、魔術士か?どんだけビビりなんだよ。ま、前衛は俺らに任せろよ。あんたは、後ろから魔術をチクチク撃ってくりゃそれでいいさ」
あの言い方、ちょっと腹立つな。まあ私が言われてる訳じゃないのだが、後方組がまとめて非難されたような気分だったからだ。それに、魔術士は後衛だけじゃない。この男、魔術士を下に見ている。嫌な奴に変わりない。
マイナールは何も言わない。ただ、そこに佇んでいる。無骨な男だ。良く分からない。が、恐らくこの人物はとても強いのだとそう直感した。いや、男なのかどうかも分からない。
「……」
やはり、何も喋らなかった。ふと、視線を感じた。コールだ。こちらを見ていた。こちらというより、リーナの方をじっと見ていた。何かを探るように。
「ねえ、リーナ見られてるよ。なにかしたの? 知り合い?」
全く身に覚えがない。あのコールとかいう人物の事は全く知らない。話した事はおろか、見たことも無い。ザミエルにも聞いてみるが、ザミエルも知らないと返した。本当に赤の他人である。そのはずだ。
「いや……、私も知らない。ザミエルも知らないって言ってるし、本当に他人だと……思うけど……」
一瞬だけ、カナリーが頭をよぎった。が、顔も体も全く違う。ただ、コールの顔はとても綺麗だと思ってしまった。コールの口元がふっと緩んだかと思ったら、彼女はマイナールの隣に立っていた。
「次は、我々が。世界輝鳥自遊調査局・ソリナと申します。今回、仮代表、勇者のユウリだ。よろしく頼む」
若干、圧強めで受け答えをしている。その様子に、星鳥学園の勇者が反応していた。小声で黒見藍にどうしてなのかを聞いていた。
「それは多分、舐められない為にだと思います。ソリナって王立司書委員会が設立した組織でしょう。そんな組織の者が軟弱者集団って思われたら、どうなると思いますか? 舐められて最悪、信用が落ちちゃう。普段はもっと柔らかくても、あの場は、ユウリさんの判断が最適だったかと。私が行ってたら、多分、何だこのガキって思われてたんじゃないかな」
「むぅ……確かに子供だけど、委員長は結構大人っぽいのになぁ……そういうものなのかな」
顔合わせが続く。腕に自信のある者がほとんどだった。まあ、腕に自信がある者でなければ、このようなクエストには挑戦しようとは思わないだろう。
しばらく続き、リーナ達の自己紹介は最後となった。全員の目線がリーナとウミューシーに向けられる。
「リーナ。シルバーランク+。マスケッツァーで遠近どっちも行ける。よろしく」
「ウミューシーでーす。どっちかというと近距離が得意だけど、私もどっちでも行けるよ~よろしくね~」
簡潔で飾らない紹介だった。リーナはザミエルやヌーマイトの事は黙っていた。それもそうだが、一番は装備の事を黙っておきたかったからだ。面倒な事を避けたがるリーナにとって、他人の武器に触ってくるような人が近くに居るだけでも、黙っておくという選択肢を取るのは必然だった。ふと多くの視線を感じた気がした。周りを見渡すが、誰もこちらを見ていなかった。気のせいだろうか。
一通り顔合わせが終わった。リーナはカナリーを探す。居ない。どこにも。ただ、ナカの姿は確認できた。似ている。あまりにも。髪の色も目の色も。ロングヘアだったカナリーだが、ナカはショートボブ。ソリナメンバーと話している彼女がにへらと笑った。その笑顔に、リーナはやられてしまう。ウミューシーが背中を叩いてきた。
「ちょっと、しっかりして。これから魔物討伐に向かうんだから~。相手は紫青龍だけじゃないんだよ~? 少なくとも数百体は居るって思っておいてよね~」
改造魔列車が線路を進んで行く。揺れはそこまで大きくはなく、流石は元大陸列車。壊れていても、十分使えるものだった。だが、防御術式が焼き切れている。それだけでも、致命的だった。戦える者が乗る分には問題ないかもしれないが、客を乗せての運行は明らかに無理だと分かる。もったいないが、仕方ないだろう。
「うぃ~、しばらく、走るんだよな?これ。だったら、少し休ませてもらうぜ。昨日までずっと作業してたからよ。疲れて仕方ねぇんだわ。確か、ベッドのある客室あったよな。目的地付近になったり、魔物が襲ってきたら、教えてくれ。それじゃ」
ウーズが仲間達を引き連れ、客室へ向かって行った。それを見た他の者達も、俺も僕も私もと言うようにぞろぞろと客室へ散っていった。この魔列車は20両はある。冒険者達の部屋も余る事だろう。後ろの方には、貨物車両もあるが、ほとんどが燃料やら予備の弾丸や装備ばかりだった。
「私達はそこまで疲れてないから、見張りでもしていようか。私の短期予報があれば、どこからでも魔物の襲撃に備えられるからさ。手伝ってよウミュー」
困ったようにそう言うリーナはどこかでカナリーの事を考えているのがウミューにはバレバレだった。無理もないだろう。ここ数日でカナリーの痕跡を見つけることが出来た。なのに、いざ蓋を開けてみれば、中身が空の宝箱のような現状だ。
「ん、分かった。でも、無理はしないでね。数秒先の未来が分かるって言っても精度も100%じゃないんだろうし、お姉さんに頼りなさいね」
こういう時だけ、ウミューはお姉さん面する。分かってそれをやっている。ずるい大人だ。
「あの、私達も見張りやります。ソリナ一同、冒険者の皆さんほど疲れてませんし、それに、少しお話したかったので。カナリーさんの事……とか。居るって言ってしまったのに、いざ今日になると居なくて、その……嘘を突いたみたいになってしまって。申し訳ありません」
黒見藍がリーナに頭を下げている。純粋で、心優しいが、自分の責任だと感じているのだろうか。
「あ、謝らないでください。私も……ちょっとなりふり構ってなかったかもですし……カナリーさんにも何か事情があるかもしれませんから、グレイロック・バレーに残っているのかもしれません。それから、今はクエスト中ですので、気にするのは後にする事にしました。うじうじ引きずるのも良くないですから」
リーナは黒見に気にしていないという。本当は少しは気にしているだろう。というか、かなり気にしている事は見て分かる。我慢している。我慢させてしまった事が、黒見からすれば、少しの罪悪感があった。でも、相手が飲み込んだのだから、こちらもずっと謝るのも良くない。少し気分転換したかった。
「分かりました。まあ、こちらとしても、何故急に居なくなってしまったのか気になるところですが、少し、カナリーさんについて話しませんか。リーナさんの知っているカナリーさんの話、私、気になります。あ、もちろん、私達が知っているカナリーさんの話もしますので」
そう言っていると他のソリナメンバーもやって来た。
「黒見委員長。こちら異常ありませんでしたわ。冒険者の皆さん、部屋でおやすみなられて……あら?その方は……宿の時の……」
笠井澪。防御系スキル持ちのお嬢様風な話し方をする勇者の一人である。
「あ、皆さん、見回りありがとうございます。リーナさん、紹介しますね。私の仲間達です」
クエストがついに始まりました。
魔物を討伐するってだけではなく、人間関係もそりゃもちろんありますよね。
ウーズは見た目は髭の生えた40代の男性。冒険者歴も長いが、自分達は魔術士達とは違うと思っています。もちろん、魔術士が強いのも知っていますが、彼は魔術士ではなく、魔術師に敬意を払っています。逆に言えば、魔術士を少し下に見ているという事ですね。
冒険者達が少し疲れているというのも、彼らが前日までずっと整備をしていたからになりますね。これがクエストにどう影響してしまうのか。
第292話、読んでいただきありがとうございます。




