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『幾星霜のソムニア -私とAIの異世界転生!-』  作者: 星廻 月華
【勇者編:アイゼンヴルグ章】
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コード291「湯煙漂う国の黒金の魔列車」

第291話

前回、宿に入ってから

 軽くご飯を済ませた二人はタオルを体に巻き、宿の温泉へと向かう。真っ先に声をあげたのはウミューシーだった。

「うわぁ~~!! すっご! アトラベルトのよりも色がなんか……赤茶色い! これが、魔石やら鉱石やらのおかげなのかな?」


 いつもよりも少しテンションが高めである。温泉ではしゃいでいた。ウミューシーは体中に毒が流れているが、彼女は意識してそれを外に出さないように心がけている。体の節々にヒレのような器官があるが、上手く隠しているようだった。今の時間はお客さんもそこまで多くはなかった。体を洗い、湯船に体を沈めていく。


「はぁ……流石に気持ちいい。ずっと水浴びだったから……。そういや、温泉はアトラベルトの温泉以来かも? 宿屋の浴場には入った事あったけど温泉は久しぶり」


 ちなみに、ヌーマイトを連れてきている。その理由としては至ってシンプルだった。

 魔素が多く含まれた温泉に入る事で、体内の循環が良くなり、魔力が回復する。それは人だけではなく、従魔にも十分すぎるほど効果が期待できるためだ。ヌーマイトは周りの石を全て外し、小さな魔核だけがリーナのそばに浮かんでいた。


「ヌーマイトも気持ちよさそうだね。ザミエルは?」

 ザミエルには実体がないが、リーナを通して温泉を感じ取っている。


(あぁ。ばっちりだ。魔素が体の芯から満たしてくれてるぜ……めっちゃ気持ち良いわ……)

 ザミエルもヌーマイト同様に、魔素をエネルギーとして補給する事が可能であった。


 リーナがふとウミューシーの方を見る。そう言えば、まじまじと見た事が無かった。

「……すごく綺麗。青色で」

 ウミューシーのヒレの部分が青く輝いていた。


「ちょっと、そんなにじろじろ見ないでくれる~? セクハラで捕まえるよ?」

 ぷっとリーナが口を抑えて笑う。


「ウミュー、今、警察官じゃないじゃん。それに触ってないもーん。てか、触ってみてもいい?」


 それに関しては、ウミューシーは真面目な顔で抗議する。

「それはダメ。毒を抑えてるとは言え、直接触ったらかぶれるし、最悪の場合皮膚がただれるから。せめて……見るだけにして?」


 ほんのり顔を赤らめて言われると破壊力がそれなりにあった。リーナは鼻を鳴らす。

「ま、それなら、ガン見しちゃおうかな?」


「ちょ、それ反則~なら私も見ちゃうもんね~」


 その日の温泉では、二人の楽し気な声が響いていた。


 輝鳥歴224年12ムーン14ピリオド、朝。食事やらを済ませたリーナとウミューシーは午前中にとある場所へ向かう。グレイロック・バレー内、イースト・キャニオン第4ステーション内部、魔列車格納庫に赴いた二人を待っていたのは、黒い車体に金色の細工が施されたまるで豪華列車の旧モデルのような魔列車であった。翌日のクエスト出発に向け、それを改修すべく、ドワーフ達と冒険者達が時間を惜しんで一丸となって作業に当たっていた。


「おーい! こっち、資材が足りねぇぞ!早く持ってこい!」


「うるせぇ! こっちだって手一杯だ! てめぇが自分でやれ! 俺達が手伝ってやってんのにガタガタ文句言ってんじゃねぇよ!」


「ほら! そこ! 喧嘩しない! あとちょっとで終わるんだから、シャキッとして! ドワーフの皆さん、本当にありがとうございます。そこ! 手を動かす!」


 口をはさんだのは、受付嬢の制服を着た女性だった。恐らくはクランの受付嬢だろう。手が足りない彼らの手助けをしてくれているようだ。


 それにしても、魔列車がまだ完成していないとは。それに、車体に張り付けられているのは、鉄板やら、良く分からない装甲などがあった。


「あれ、大丈夫かな……。私達が乗るのって、本当に魔列車だよね? 黒金の棺とかそういうのじゃない……よね?」


 ウミューシーが心配するのも頷けてしまう。


「はぁ……手伝いに行こうか。ヌーマイトが居れば、準備も早く終わるだろうし、それに状態も見れるからね。行くよ。ウミュー」

 ヌーマイトは昨夜の温泉でばっちり魔力を回復させている。抜かりはない。


「はいはい。私も行きますって。いや、ほら私が言いたいのは、クエスト前に重労働するのがしんどいって話なんだけどね」


 二人は小走りにステーションへ向かうと、ざっと見て、50名ほどが作業をしていた。冒険者だけじゃなく、それほどの人達が手伝ってくれている。そう思うと、なんだか嬉しくなる。


「すみません。私達も明日のクエストに向かう者です。何か手伝う事はありますか?」


 クラン職員に話を聞いてみる。こういうのは現場責任者に話を聞くのが早いと知っている。


「あら! それはとても嬉しいです! しかし、もう少しで終わりますが……、それならば、お言葉に甘えて。全体を見て足りなさそうな所が無いか見て回ってみてください。分からなくても全然大丈夫ですので。では、よろしくお願いします」


 リーナとウミューシーの二人は列車の外、中を見て回る。気が付いた事はいくつかあった。二人の思った通りだった。


「やっぱり……この魔列車、元々は大陸を走るタイプのやつだ。超長距離走れるやつだよ。でも、魔術的な防御系統が壊れてる。だから、廃棄される予定だったんだ。てか……これ蒸気でも動くやつだよ」


 リーナは壊れた防御術式をなぞる。魔術陣が途切れ、大きな傷が出来ていた。恐らくは大きな魔物、魔獣にやられてしまったのだろうか。その時の乗客はどうなったのか少し気になった。


「リーナも気が付いたんだ。これ、客席には届いてない。当時の人達が怪我はして無さそうだね。蒸気タイプって、アトラベルトでも見た事無いかも。だいぶ貴重なのに、もったいない」


 そう言って、ウミューシーはリーナの頭を撫でる。手袋だが、それが何故かこそばゆい。不快感は無かった。


「ちょっと……、急に撫でないで。あれ?あの人達……もしかして」


 そんなやり取りをしているとソリナメンバーらがこの場にやってきた。彼女達は白い大きめのジャケットを羽織っており、少しだけ高貴さを感じさせてくる。


「我々もクエスト参加予定なので手伝います。何か手伝えることはありますか」

 少し長身の女性。腰に剣を携えており、他の子達よりも歳上に見える。


「これは失礼。私の名前は、天音ユウリです。今回のソリナの仮代表として捉えてもらえれば幸いです」


 ソリナメンバーは少数精鋭で来ているらしく、少人数ながらも精鋭揃いらしい。その中の一人。フードを深く被った女性が一人居た。


 あの人……立ち振る舞いがどこか……あの人に似ている……。

(あぁ、俺も思っていた。なんとなく似ているような……気がする……が、顔が見えない。そっちもそうだけど、小さい方も気になってる。あれは……紛れもなく……)


「……カナリーさんを小さくしたみたい。妹が居たなんて聞いてない……でも、ミナリーさんの事とかあるし、ちゃんと聞いてなかったけど……接触してみないと分からない」


 リーナとザミエルが小声で何やら話しているのをウミューシーは隣で見ていた。そして、視線をソリナメンバーに移す。ウミューシーの勘が何かを告げている。このクエスト中、何かが起こりそうな、そんな気がしていた。


「ウミューも……気が付いた?やっぱり……何かあるよ。あとで、話しかけに行ってみる」


「もちろん良いんだけど、なんか……良く分からないけど、気を付けた方が良い。理屈とかそういうのは無いんだけど……でも、私の勘がそう言ってる」


 リーナはウミューシーの顔を見て、ふっと笑みがこぼれる。

「それ、警察官としての勘? それとも……」


「女の勘ってやつだよ~」


 リーナはウミューシーの脇腹に軽く肘鉄を入れる。

「ん、そっか。分かった。気を付ける。ウミューも気を付けてね」


 とりあえず、魔列車の点検を先に行う。仕様書を読み込みながら、点検作業を続けているのだが、特段、不備は無さそうだ。


「これって……もしかしてお酒?なんでこんな所にお酒があるの?」


 そう言うとクラン職員が困ったように説明してくれる。


「それ、お酒なのは重々分かっているんですけど、実は燃料にもなるそうなんです。だから、ありったけの酒樽を積んでくれって冒険者の方から……」


 ウミューシーは酒樽を見つめながら思考を巡らせていた。恐らく、途中か帰りに絶対飲む人現れるだろうなとため息をついた。クラン職員は他の点検に向かい、そんな話をした後、リーナがソリナメンバーの方をちらちらと見ているのがバレバレだった。


「行っておいで~こっちはもう大丈夫だから」


「……ありがとう! 行ってくる! ごめん!」

 そう言うと、リーナはソリナメンバーの元へ小走りで向かって行った。


 やっと……会える。ずっと会いたかった。ずっと探していた。世界中、あなたの仲間、友達みんながあなたを探していた。やっと……


「あの、すみません。少しよろしいでしょうか」


 昨夜と同じく、黒髪ボブカットにしている少女に話しかけた。子供ながらも大人びていて、話が通じそうだったから。


「あ、はい。大丈夫ですよ。って、昨日の。あ、カナリーさんでしたっけ。さっきまで一緒に……って、あれ? どこかに行ってしまわれたようで。そう言えば、昨夜もいつの間にか帰ってきてらっしゃったようで。お話が出来てなくて。今度ちゃんと伝えておきますね」


「そう……なんですか。分かりました。ありがとうございます。私、リーナです。リーナという者が会いたがってると伝えて頂ければ……大丈夫……ですから」


 会いたかった。今は会えなかったのが少しだけ残念だ。少したどたどしかった気がする。本当は今、この場で会いたかったけど、仕方ない。また後程、クエスト前かクエスト中、顔合わせの時にでも会えたら。リーナはそう思いながら、頭を下げていた。


 ウミューシーは酒樽を見ながら、ふと視界の端に何かが動いたように見えたが、気のせいだろうと踵を返した。

ウミューシーは体中に猛毒が巡っているので、直接素肌に触れると少しかぶれてしまいます。

温泉に入る程度なら全く問題ないようです。


今回のクエストにソリナとしてカナリーが来ているようです。リーナはずっと会いたがっていますが、まだその時ではないようですね。


不穏な空気が少し流れていますね。果たしてどうなるのか。


第291話、読んでいただきありがとうございます。

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