コード289「グレイロック・バレーとクラン」
第289話
前回、リーナとウミューシー視点から始まり
グレイロック・バレーに無事到着した二人は宿を探す前にまず冒険者組合へと足を運んでいた。
断崖絶壁、渓谷の隙間にある街。『グレイロック・バレー』中規模国であり、鉱石の国交をとり行っている事で有名な国でもある。また、武具などの工房も多く存在している。
冒険者組合にて、リーナとウミューシーは受付嬢の元へ向かう。
「すみません。緊急レイドクエストを見て来た者です。こちらの街で集まっているとかを見て来ました」
「少々お待ちください。確認しますね。えーっと……」
受付嬢は魔道具を使い、情報を閲覧している。確認が終わったようだ。
「確認できました。ステーション・アイゼンヴルグの奪還クエストの件ですね。お二人の冒険者ランクはおいくつですか?すみませんが、規則なので、教えて頂けばなと。お手数をおかけします」
冒険者組合はならず者が多く、魔術大教会よりも、荒っぽい者が多いという認識だった。それは間違っていないのだが、一概には言えず、丁寧な受付嬢だって存在している。
(この受付嬢さん、物腰が柔らかくてクランって感じがしないかも)
リーナとウミューシーの2人はクランカードを提出する。二人とも冒険者になり数ヶ月、二人ともランクはシルバーランク+に上がっていた。
冒険者組合、クランランクは簡単に言えば、ブロンズ、シルバー、ゴールドの三つであり、それぞれに、+(プラス)が挟まり、下から上に上がるシステムである。また、ゴールド+の上にブラックランクが存在しているとの事。これはその支部における冒険者のトップであるという事が分かる。世界に数十人ほどしか居ないらしい。だが、その能力は魔術師Sランクと同格と言われているとの事。魔術師ランクとは違うようで、判断基準も違う。魔術師ランクは細かく設定されているのに対し、冒険者ランクは魔術師ランクほど細かくはなかった。
「はい、確認できました。本案件は、シルバーランク以上の冒険者のみが受注する事が出来ます。報酬などは参加者一律同額で提示させていただきます。また、報酬はクエスト完了後、後払い方式であるという事をご理解いただけますようよろしくお願いします」
そう言われると線路地図、本案件の詳細が書かれたスクロールを受け取った。
「ご無理なさらずに。クエストは二日後です。ご武運を」
受付嬢に深々と頭を下げられた。それほど今回の案件が難しいのだろうことが良く分かった。
今回のクエストは成功すれば報奨金が手に入る為、逆に言えば、失敗してしまえば、お金が手に入る事は無いのだ。受ける者も多くないかと思いがちだが、報奨金が高額に設定されている為、各地のシルバーランク以上の冒険者が参加しに来ている。今回、リーナ達は報奨金目当てというよりも、仲間探しが主な目的ではあった。が、それはそうとまずは宿を探さなくてはならない。
結構、大掛かりだったな……大丈夫かな。ちょっぴり不安。
(大丈夫だ。オレ達が居る。もし、危険だったら、離脱すればいいさ。なに、急ぎではないんだし、気楽に行こうぜ。リーナ)
ザミエルやヌーマイトが居る。それに、ウミューだっている。きっとなんとかなるよね。
(ありがとう。ザミエル。いつも頼りにしてるからね)
そんな事を考えながらグレイロック・バレーの街中を歩く。街中は少々暑い。流石は温泉の観光地。何故温泉が湧いているのか。それはこの地域に秘密があった。
グレイロック・バレーは岩石地帯であり、魔石や鉱石が多く採れる。鉱石が採れるという事はつまり、地下深くのマグマが鉱石物質を含んだ地下水が熱され、温水となり、地表へ出てきている。そう、温泉が湧いているのだ。
「ねえ、リーナ。知ってる? この街、温泉があるんだって。絶対入りたい! ね、いいでしょ?温泉のある宿に入ろうよ」
ウミューシーはアトラベルトから飛ばされてから一度も温泉に入っていない。それはリーナも同じなのだが、ウミューシーは以前毎日温泉に入ってた為、温泉が恋しくなっていたわけだ。お風呂ではやはり何か物足りないと分かるらしい。いつもの喋り方ではなく、ちょっとだけハキハキとした喋り方になっている。
「まあ……確かに私も入りたいかも。でも、混んでないかな。ほら、今って冒険者が集まってるでしょう? 混雑してないか少し不安かな」
リーナの予想は的中。この街は少しだけ活気づいていた。通り過ぎていく冒険者の数が多い。峡谷の下にあるとはいえ、そこそこ大きめの街であり、とにかく縦に長い。宿屋も数十軒と点在している為、心配はいらなそうだ。
「あそこの宿に入ろうよ。良い匂いするし。もうお腹ペコペコだよ~」
二人が入ったのは、『鋼脚の脱兎』という宿だ。なんでも、この宿を経営している親父さんの足が義足であり、元冒険者らしい。
「二人で、五日ほど泊まりたいと思ってます。個室二部屋。もし、無いなら一部屋でも構いません。あ、そうそう……これがクランカードです」
クエストは明後日からであり、その間は居ないが、キープしているという扱いになるのが通例である。リーナとウミューシーの二人はクランカードを宿の受付の奥さんに見せる。
「あいよー。んー、これは……本物だね。ちゃんと紋章が刻まれてる。透かしと間違いないね。あ、ちなみに今、団体さんが来てて個室は空きが無いから、ベッド二つ部屋、温泉、鍵付き部屋があるよ。五日だね~……それなら、5銀貨と言いたい所だけど、最近、冒険者さん達が多いから、3銀貨にまけてあげるさね。はい、クランカード返すよ。どうする?泊まるかい?」
「え、良いんですか? それは……とても助かります。では……お言葉に甘えます。泊まります!」
「よし、決まりだね。部屋は二階奥の208の部屋だよ~。タオルは宿賃に入ってるから言ってくれれば貸し出すからねー! あ、でも、タオルは一人二枚までだから、部屋で乾かしながら使いなー! あぁ、それと、もし期限内に帰ってこなかったら、その時は組合規定に則り、組合にあんたらの荷物を届けるからね。飯が食いたいなら、表通りにそれなりにあるから、好きなとこで食いな。はい、これ鍵。ゆっくりしていきな~」
この宿は冒険者組合と連携しており、冒険者が帰ってこなかった場合は泊っている者の荷物を全て組合に預けに行く形を取っている。帰ってこない冒険者。クエストに行って帰ってこなかった冒険者はそこそこ居るものだ。命のやり取りもある。残酷な話だが、こういった話も存在する。
そんなこんなで奥さんからタオルを受け取り、宿の階段を上がっていると、屈強な男達とすれ違った。筋肉マッチョな男、細マッチョだが姿勢の良い男など、明らかに冒険者だという事が分かる。
「そういやこの前、シルバー+ランクの双剛剣、帰ってこなかったらしいぜ。腕が立って、これからって時によ。まだ若かったのにな」
「そうだな……遺品だけでも取りに行ってやりたいが、最近魔物が活発化してるだろ?俺らもこの前危なかったじゃねぇか。盾役の片腕も飛んでたしよぉ……それに」
冒険者をしているなら避けて通れない話題だ。会話に入り込まずにこの会話だけが聞こえてきていた。暗い話だ。気分が沈んでしまう。二階に上がると、そんな二人の耳になにやら楽し気な話し声が聞こえてきた。
「あー! ちょっと! 宮本さんそれは私のタオル! あなたのはこっち! 二枚だけなんだから贅沢使いしないでってば!」
「これは私のタオルだ。委員長こそ、どこかに失くしたのでは?」
「あ~、喧嘩はダメですからねぇ~仲良くしてくださいな」
「それとこれとは話が違います! ナカさんからも何か言ってくださいよ~」
とても、賑やかだ。女の子達でパーティでも組んでいるのだろうか。団体というのはこの子達か。もしかしたら、共同クエストで顔を合わせる事もあるかもしれない。そう思っていると、耳に残る声が一つだけあった。残るというよりも、聞き覚えのある声が一つあった。
「私のを使って良いので、喧嘩はしないでくださいね?私は黒星の鍵杖で乾かしますから」
思わず、扉を開けてしまった。だって、その声は私の、ううん、私達が探していた声の主と全く同じだったから。あぁ……ここに居たんだ。ずっと、ずっと会いたかった。
「カナリーさん!!」
思わず涙声が混じったが、気にしない。ウミューシーもびっくりしたような顔をしていた。ショートボブの銀髪に緑色の瞳の少女がこちらを振り返る。見た目10歳ほどの少女が。
「「「え?」」」
まさかの声が重なった。
(え?今、この人、カナリーさんって言った?)
(え?カナリーさんが縮んでる……?)
(え、誰。この人)
(リーナ、部屋、間違えてるんだけど……)
(……)
冒険者組合と宿屋は連携している事が多く、特に、冒険者だと分かるとカードを提示すると冒険者向けのサービスを受ける事が出来ます。その中の一つに、帰ってこなかった場合、宿屋の従業員が遺品などを組合が一時保管してくれるので、宿の人が組合に届けてくれるというシステムですね。
また、組合では一時保管として、数日から数ヶ月間は保管してくれていますが、ランクの度合いによって保管できる日数が変わってきます。
この世界の1銀貨(1シルスペス)は約1万円です。つまり、二人で5万円ほどでしたが、3銀貨(3シルスペス)=3万円相当になりましたね。
リーナがソリナメンバーと鉢合いましたね。
リーナはナカの声をカナリーの声と間違えてしまいましたね。
どうなっていくのでしょうか。
第289話、読んでいただきありがとうございます。




