コード286「ー天龍と天女」
第286話
前回、ハイブヘイヴンの過去話
少女は灰色の剣一つで戦い続けた。
その姿は一騎当千の如く、それでいて、誰も殺さずに
各国のトップの陣営を連れ去り、集めた。
その後、各陣営たちと話し合い、共に飯を食い、
なんとか休戦協定にまで持ち込む事が出来た。
少女は満足した後は大人達に任せようとしていた。
「あとは全部任せれば問題なさそうだ。」
だが、鳥の少年がぽつりとつぶやいた言葉により、
少女の人生が大きく変わる事となる。
「他国と戦争をするのなら、一つの大国にしちゃえばいいのに。」
何気ない一言であった。そこへ、天龍が口をはさんでくる。
「大国か。それならばこの者を我が巫女…いや、天女とし、大国の女王にすれば問題無かろう。さすれば、我が恩寵も考えてやらない事もない」
それぞれの国のトップらは驚いてしまうが、
誰よりも驚いていたのは紛れもなく少女であった。
「はぁ!?天女?女王だぁ!?やだよ!めんどくさそうじゃん!別にあたしは元の暮らしでも十分なんだよ!」
少女は変化が嫌いだったが、天龍はそんな少女に別の生き方もあるのだと
伝えたかったそうだ。
「お前が天女とならなければ、今後の食事も出さない。さて、どうする?」
「はっ!それなら、もう自分で狩りをして暮らすから問題ねぇよ!もう白トカゲの力なんて必要なくなったんだからな。」
天龍の本当の目的はもう自分のせいで戦争が起こるのが見ていられなかった。
だが、自死する事は不可能であった。天龍は不死身の存在である為である。
「……仕方ない。聞いてくれるか?」
天龍はゆっくりと話し始める。
この五ヶ国が戦争を始めた本当の理由は天龍を巡っての事だった。
天龍にとって、願いを叶える事は容易い。
だが、それだと人としての生きる力が弱くなってしまう。
それを天龍は懸念していたのだ。
「国々が我が力、願いを求めた結果の戦争だった。もう、うんざりだ。我は自分で死ぬことも許されていない。だからこそ、そこの少年が言った案に興味がある。大国であるなら我はそなたらに全面的に協力する。さすれば、戦争は無くなり、皆が手を取り合って暮らせる世の中に近付く。」
それぞれの国のトップらも顔を伏せていた。
「だけど、そんな大国のトップは誰が務める?お前しかいないのではないか。」
灰色の剣を持った少女を白き龍が見つめる。
「そんなの、急に言われても無理だよ。もっと適任がいるんじゃないのか?言い出しっぺのこいつとか…」
少年が首根っこを掴まれてしまうが、五つの国のトップらは少し話し合った後、
彼らの緊張の糸が切れたのか、顔つきが変わった。そして、少女の前に跪く。
「あなたにはカリスマ性があります。誰も殺さずに戦争を終わらせた。あなたしか居ません。天女様。」
「だーかーら!天女じゃねぇってば!やらないよ!知らないから!」
そう言うのだが、戦争のない大きな国になるというのは、彼女も悪くないとは考えていた。
廃墟街のスラムのガキだったあたしが…女王?
無理無理。そんなの、誰もついて来ないって。
そもそも、今回もただ守る為にやってただけだし…
……
結局数年間、頼まれ続け剣の少女は天女、女王となった。
五つの国はひとつの国となり、ここで『ハイブヘイヴン』がここで生まれた。
国の基盤を作り、安定してきたころ
「はぁ……なんで、あたしが女王だなんて……」
天女は多忙の日々に追われており、
数年が経ったが、女王に慣れる事は無かった。
「ぜっんぜん慣れねぇ…早く飯食いてぇ……」
そこへ、王配殿下こと、鳥系獣人の男性がやってきた。
「女王様、お疲れさま。僕も手伝うよ。書き物、苦手でしょう。」
王配は優しく微笑みながら女王を生涯支えた。
女王になる少し前、剣の少女は幼馴染が夫なら良いよと冗談で言ったのだが、
それならばと、成り行きで女王になってしまい、そして、幼馴染が夫となってしまった。
「まさか、本当に女王になるなんて思ってもなかった。」
「僕もだよ。でもね、すごく嬉しかった。やっと、ゆっくりできそうだなぁって。あ、こういう事務的な忙しさはあるかもしれないけどさ、もう戦わなくていいんだなって思うとすっごく嬉しかったんだ。」
それは確かにそうだった。
もう、戦わなくても良い。
もう、逃げなくても良い。
慣れないけど、もう、良いのかな。
あたし、幸せになっても良いのかな。
「……幸せなのかな」
ふと口について言ってしまった。
彼は優しく微笑んでくれた。
天女は元々気の強い性格だったが、
彼女が丸くなったのは、子供、王女殿下が生まれてからだった。
彼女は女王よりも先に母親に慣れる事となった。
天龍はハイブヘイヴンの守り神となり、
天女の子供を代々守り続けていった。
―――
"…つまるところ、初代天女一族は今の女王様、マヤリース様のご先祖となります。"
「ふむ……なるほどね。ねえ、ルクス。聞きたい事があるんだけどさ、その時ってルクスが天龍じゃないでしょ。なんか違くない?」
"……その話をしようとすると更に長くなりますが、それでもよろしいでしょうか?"
「いや……長くなっても良いけど。あ、分かった。凄く簡単にで良いから、教えてよ。」
"分かりました。今の話の天龍は私の父です。不死身の存在でしたが、とある事件にて私がそれを引き継ぎ、父は亡くなりました。さっきの話は昔、父から聞いた話と父の記憶を見たからですね。"
ルクスは誤魔化している様子は無いが、何かを隠しているような気がした。
だけど、何か違和感を感じた。
「あ、分かった。違和感の正体。ねえ、ハイブヘイヴンって最初は空飛んでないよね?なんで飛ぶようになったの?」
"それは……、言えません。申し訳ございません。ただ、言えるのは、そうするしかなかったからです。初代天女と天龍が当時にした事です。それ以上の事は教えられず、すみません。"
ルクスは申し訳なさそうだった。
その代わりに、天女の最期を教えてくれた。
―――
天女の最期は、とても幸せな最期だったという。
彼女は90年ほど生きて、夫、子供、家族に囲まれて最後を迎える。
「あぁ……あたし……、幸せだったなぁ……。ずっと、言いにくかったんだけどさ……、聞いて欲しい。」
王配や家族の手を取り、夫の目を見て、ちゃんと伝える。
「愛してる」
窓の外を見ると、大量のシャボン玉が浮かんでいた。
天女が子供の頃、家族と共にしていた遊びで、一番好きだったのが、
シャボン玉だった。
それは、王配や家族がみんなに頼んで、
この日に国民全員でシャボン玉を空に飛ばしていた。
昔、好きだった遊びを聞いていた。
天女は安らかに安心したように息を引き取った。
―――
話を聞いていたエルナは目を潤ませていた。
「すごく良い話……。それが今の天泡祭に繋がるんだね……。そう言うの好きだなぁ」
エルナは深呼吸をし、空を見つめた。
昼の青みがゆっくりと溶け出し、気がつけば空は琥珀色から
深い朱色へと塗り替えられていた。
"申し訳ございません。マスター。言えない事が多くて"
「大丈夫だよ。ちゃんと理由があるんだよね。分かってるよ。」
初代天女の話でした。
彼女は幼少期に両親を失い、一人で逃げて、
そして、家族を手に入れ、守りたいものの為に戦争を止めに行きました。
この時、天女は天龍から、天光の力をひっそり授けられており、
これにより、身体能力が向上し一騎当千の力を持っていました。
ハイブヘイヴンが空に飛ぶようになったのは、少しだけ話すと、
天女がまだ若い時です。ハイブヘイヴンが出来てからしばらく経ってからになりますね。
その時に何かがあり、空に浮かぶようになりました。
初代天女の最期は紛れもなく幸せだったことでしょう。
第286話、読んでいただきありがとうございます。




