コード283「黒渦を穿つ天光の奔流」
第283話
前回、エルナと悪魔、龍が相対して
ハイブヘイヴンの夜は渦のような魔力、そして天光に満たされている。
五天柱の一柱が一人、レオノーラ。現在はレオナールに体の所有権を奪われている。
国の英雄と謡われた女性には今、禍々しい山羊の仮面を被りて、
悪魔に憑依され破壊と絶望を振りまいていた。
そこへ現れたのは天の光を放つ、一人の少女。
レオナールの振るう重鎚が空気を爆砕し、
一撃ごとに都市の区画が震える。共にある飛渦竜の鋭爪が、
石畳をバターのように切り裂き、そこへ風撃のブレスが追い打ちをかけた。
「ぶっ潰れろ!お前は、今、俺達にとっては邪魔な存在だ!てめぇみたいなのが居るから、俺達は!!」
エルナは天光を纏いて、奴らの攻撃を防御している。
いや、防御しているというより、ただ、そこに居るだけ。
飛渦龍の腕が彼女を掴み、そのまま巨大な大聖堂の壁へと叩きつけた。
石壁が轟音と共に崩落し剥がれ落ちる。エルナの華奢な体躯が瓦礫に埋まる。
というより、瓦礫に溺れさせようとしているのが見てわかる。
エルナは痛みを感じずどう反撃しようかを思案していた。
(少し出力を抑えながら……)
天光を多少解放すると、飛渦龍は弾かれ、
向かいの建物に倒れ込みそうだった。
「危なっ。」
エルナは瞬時に反対側に移動し、飛渦龍を蹴り上げる。
その巨躯は天使の慈悲なる一撃により、空を舞う事となった。
(ふぅ~。私が建物を壊したらあとが面倒だし、多少なら直せるけど、あんまり壊して欲しくないかな。)
そこへ、重厚なる一撃が飛渦龍を救いに振り下ろされる。
だが、その一撃は片手さえも使わずに空中で止まる。
まるで透明なガラスにでも当たったかのように。
「くそがっ!なんで……!」
レオナールは今のままじゃ絶対に勝てない事を悟る。
だが、やられっぱなしじゃ性に合わなかった。
(なんとかして……考えねぇと。あいつの天光、硬すぎだろ)
エルナは浮いた飛渦龍の前に移動し、
その小さな手が飛渦龍の中心を捉える。
「なっ!?」
エルナはさっきされた事を飛渦龍に空中で返す。
建物の壁をガリガリと削るのではなく、自身の天光で作った物理的な壁を使って。
「あなた、結構、頑丈だね。」
エルナは飛渦龍を軽々と投げ飛ばす。
天光の壁が飛渦龍をピンボールかのように空に打ち上げたのち、
飛渦龍は天光の天井に叩きつけられ白目を剥く。
「さて、次は…」
くるっと、次はレオナールだと言わんばかり振り返る。
(僕は……どうして勝てない……進化した……強くなったはずだ。それなのに、あんな女の子ひとりに圧倒されて……)
かつて、竜達に、虐められ、蔑まれて、
屈辱的な日々を送っていた。
今なら、変われる。そう思っていた。
その矢先に、これだ。
僕は……
僕は…、まだ…
「まだ負けられないんだ!!!」
「飛魔之龍魔術<スペル・飛渦之息吹>!!!」
エルナに向かって、渦からの魔力波が放たれる。
彼女に致命傷を与えるほどでもない魔術だったが、
エルナを2秒、止める事が出来た。
その2秒の中、飛渦龍はレオナールと合流し、
互いの魔力を合わせた。
ハイブヘイヴンの渦が広がり、魔力が更に満ちていく。
(うーん、あの渦……元は何かの魔術だろうか。ルクス、解析しておいて。)
もう一つ考える事があった。それは、どうやって悪魔を浄化するか引き剥がすかだ。
ただ浄化させるだけなら簡単だろう。
だが、中身が中身だ。
レオノーラさんがハイブヘイヴン、天守評議会に糾弾される可能性がある。
エルナが考えている間も渦はどんどん広がっていく。
「もうこの街は終わりよー!どうしてこんな事に!」
「マヤリース様は一体どこで何をなさっているんだ!?」
「うわぁぁぁぁん。ママ~!私の帽子なくなっちゃったよ~!」
下を見ると軽くパニック状態だ。
小さな帽子がふと視界に入った。
「はい、これ、あなたの帽子でしょう。もう失くしちゃダメだよ」
エルナは顔を発光させ、その少女の帽子を拾って渡してあげた。
「あ、思い付いたかも。私に任せて。全部何とかするから。」
エルナはそう言い、飛翔する。
(あの仮面に悪魔を押し込もう。そして、仮面のせいにすれば、レオノーラさんも減刑されるかもだし、無罪は無理かもだけど、うん、これなら何とかできそう)
方向性は決まった。
決まったところで、この事件、終わらせないとね。
ふと視界の端に白い閃光が見えた気がした。
(……気のせい、かな?まあいいや。今はこっち優先)
レオナールと飛渦龍はハイブヘイヴンの周りの魔力を極限まで集め、
ひとつの大きな塊として圧縮していた。
「飛渦龍……、行くぞ。結界ごとぶち抜く勢いでだ。」
「……もう、僕は負けない。レオナール、力を貸して。」
"マスター。魔力の収束を確認。あれが放たれた場合、衝撃波による干渉で、ハイブヘイヴン内の浄化システムが一時的に機能停止に陥ります。再起動までの空白時間計算中…"
「ルクス、計算しなくていいよ。全部なんとかするから。」
"承知致しました。天光制御のサポートに徹します。"
ルクスはエルナの体の中に戻り、彼女の天光の輝きが更に強まった。
向こうの準備も整ったようだ。魔力が収束し、
そして、魔力波とブレスの融合技が放たれる。
「俺達の前から消えろ!塵と化せ!」
「「黒渦双流魔術<スペル・黒渦龍波>!!!」」
レオナールと飛渦龍の合わせ魔術が、
空間を切り裂く濁流となって、エルナに向かい黒いブレス、
いや、ビームが射出される。
"マスター、天光全解放します"
対する天使は、ただ、片手を前に掲げる。
その濁流に対し、放たれたものは
「―――癒光。」
エルナのただの癒光だった。
それは、天の柱が横向きとなり、そして、
極太のビームとなって、押し合いが発生するが、
それは数秒だけであり、どんどんブレスを押し返していく。
更に、空間の魔力値をどんどんと浄化してゆき、レオナールがかつて、
霧のように散布していたものまでも、全てを浄化していく。
「ぐぅっ……!耐えろ!!飛渦龍!!!俺達ならこんなの!!!」
レオナールの仮面にヒビが入る。飛渦龍の羽がどんどん散っていく。
痛ってぇぇぇ!クソクソ!体中、くそ痛ぇ!!けど……!
強く……なりたかった……、僕は……ただ、それだけ……
飛渦龍の毒気がどんどん抜けて行き、力も抜けていく。
「お、おい……!飛渦龍!行くな!お前はそっち側じゃないだろ!!!俺と一緒に天下取るって言っただろ!!お前まで裏切るつもりかぁ!?ぐぅぅぅ!!!」
ねえ、レオナール……僕、もう満足だよ。
少しでも強くなって、楽しかったよ……
「嘘つくんじゃねぇぇぇぇ!まだこれからだろうが!!!何良い奴気取ってんだよ!お前の本質はぁ!!ただの魔物だろ!!!!俺と……!はぁ……!はぁ……!ほぼおんなじだろうが!!!」
飛渦龍が空中で意識を失う。
「くっそがぁぁぁぁ!耐えてみせる!!!ぐぅっ!!!痛ってぇぇぇ!」
レオナールも何とか耐えてみせていたのだが、エルナは涼しい顔で、更に出力を上げていく。
「……なかなか頑張るね。ルクス、準備しておいて。穿ち貫いた後、仮面に引っ張るから。」
「う、裏切りやがってぇぇえぇ!ぜってぇ許さねぇ!!!クソがぁぁぁ!飛渦龍の野郎!!!」
「ルクス、出力全開で行くよ。」
"了解。癒光出力、フルパワー"
「お、俺はぁ!!偉大なる大悪魔になる者!!!レオナー……」
その悪魔が名をあげるまでもなく、光の奔流に飲み込まれ、
ハイブヘイヴンの結界ごと、ぶち抜いて、結界に穴が開いた。
背後の雲が割け、天候が一人の天使により変えられてしまった。
星天の光がハイブヘイヴンに降り注ぐ。
結界を構成していた光の欠片達が、天使の羽のように街に舞い散っていく。
それと同時に、一人の女性の手から、魔力が抜けてゆき、落下していったが、
エルナがそれをお姫様抱っこで受け止めたのだった。
レオナール&飛渦龍、共にダウンしましたね。
流石はカナリーのひとかけら、エルナですね。
レオナールはザ・悪魔なキャラでしたね。
彼は悪魔としての役割を最後まで全うしてくれました。
黒渦双流魔術<スペル・黒渦龍波>
レオナールと飛渦龍の合わせ魔術。
魔力と天光、そして、龍の力を合わせて放つ本来強力な魔術ですが、
相手が悪すぎましたね。
最後、名乗りが間に合わないレオナールのシーンは見物でした。
エルナの癒光。
本来、癒す為の力ですが、エルナレベルとなると、
浄化にも攻撃にも使えますね。
これ、飛渦龍に何が起こったのかというと、
かすっただけで悪の心そのものが浄化されてしまったんですね。
だからこそ、レオナールは痛みとしてそれを受けてしまった。
まあ、ただの癒光で結界ごとぶち抜くってのもエルナにしかできない芸当ですね。
ハイブヘイヴン編もそろそろ終わりが近づいてきましたね。
ただもう少しだけ続きます。
第283話、読んでいただきありがとうございます。




