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『XLVIII :地下の蔦1』


「あれ、おかしいな…。こっちの方向だったと思ったんだけど…」


不安げな表情を浮かべながら実紀みきさんは薄暗い地下を進んでいく。


今は実紀さんを信じるしか無いのは分かってるけど不安になって思わず声を掛けてしまう。


「あの…なんか、地上から遠のいていってる気がするんですが…」


「いやぁ〜そうなんだよね。…あ」


すると彼女は立ち止まって僕の方へ振り向く。


「見て見て、ここなんか入れそうだから入ってみよっか?」


そう言った彼女の指はぐらぐらに歪んだ鉄のドアを指していた。


「…実紀さん」


「呆れた目で見るのは止めてよ〜。実紀だって一応ちゃんと考えてるんだからね?」


「えぇ…本当ですか?ここ入ったら絶対出れないですよね…?」


「ホントだってばー。だってさ、ほら、ドアの横に指紋認証のパネルがあるでしょ?ドアもそれなりに綺麗だし、絶対今も普通に使われている場所だよ。もしかしたらこの先に誰かいるかも!」


ため息を吐いた僕は自分達が歩いて来た真っ暗な道を振り返る。


「まぁ…どちらにせよ今引き返しても意味ないですね…」


「うんうん、そうでしょ?よし!じゃあ、元気出していっくよ〜〜!」


実紀さんは無邪気に拳を突き上げると、せかせかと入っていった。


「本当に地上に出れるのかな……」


自分達が事実上の迷子であることも不安だったが、何より地上で今も凶獣ランデルが暴れていると思うと気が気ではなかった。


清白すずしろっち、暗いから離れないようにね」


「あ、はい。今行きます」


一瞬躊躇するものの彼女の腰に付いている太陽光の燃料瓶の光が見えなくなり、僕は彼女を見失わないと今にも外れてしまいそうな分厚いドアを潜り抜けた。


小走りで彼女を追いかけるが、ズキズキと足が痛み自分が怪我をしていたことを思い出す。


「結構血出てるな…」


暗闇でよく見えないが、ふくらはぎを触ると暖かい液体の感触があった。


「どうしたの?清白っち大丈夫?」


「あ、ちょっと足が…。でも大丈夫です」


手についた血を服で拭くと僕は実紀さんの背中を追って再び歩き出した。


「結構暗いですね…実紀さんも足元に気を付けてくださいね」


「もぉー、実紀だって転ぶほどドジじゃないよー」


辛うじて実紀さんは見えるが、奥に進むに連れどんどん暗くなっている。


「…なあにー?不安なのー?はぐれないように実紀が手繋いであげよっか?」


「え…!?いや、そういうわけじゃ…」


女性と手を繋ぐことに抵抗があった僕は反射的に手を引いた。


「もー、普通にはぐれたら困るでしょ?」


すると僕の右手が力強く引っ張られ、僕の手のひらに柔らかい感触が伝わる。


「み、実紀さん…!?」


「ほら行くよ…!早く外出たいんでしょ」


僕の手を握った彼女はスタスタと歩き出した。


「……」


ポツン…ポツン…と、真っ暗な通路で天井から落ちている雫が音だけが響く。


「あ、あの…。一つ聞きたいことがあるんですけど」


先程よりも少し小さな声で僕は恐る恐る声を掛けた。


「何、どうした?」


息を整え心を決めると、僕はずっと心に引っ掛かっていたことを言葉にした。


「第三部隊雨夜班のみんなは元気にしていますか?」


「…………。」


その場に長い沈黙が流れる。


彼女は今どんな表情をしているのだろうか、聞いてはいけなかっただろうか…。


だけど、知りたかった。それだけは、これだけは…。


「聞いてはいけないのは分かっています。僕にはもう関係ないといくことも。だけど…だけど…」


無意識に僕は握られた右手を強く握った。


「大丈夫よ…」


するとしばらくの沈黙のあと、彼女はゆっくりとそう言った。


「え、…え、それはどういう?」


彼女の言葉の意味が分からず一瞬言葉に詰まる。


「あなたが心配するようなことは無いってこと…。私から言えるのはそれだけ…」


「じゃあ、みんな………」


肩の荷が一つ降りたような気がして、思わず安堵の息を吐く。


すると彼女は突然足を止めた。


「待って、何か聞こえない…?」


僕たち二人に緊張感が流れ、実紀さんはギュッと僕の手を握ったのだった。

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