『XLVII :僕たちの記憶』
小雨が屋根を叩く音が響く中、少女はベンチの裏で小さく蹲っている。
傘を差さずに雨の中を歩きでもしたのだろうか。
その小さな体はびしょ濡れで、少女の周りには小さな水溜まりが幾つも出来ている。
雫が一筋、二筋と彼女の白い頬を伝っては水滴を小さな水溜まりに落としていった。
「君、どうしたの…?」
少年は思わず声を掛ける。
「…………」
自分を守るように体を丸めて、紅髪の彼女はただ頭を振った。
「風邪、ひいちゃうよ」
ベンチの裏へと回った少年は、彼女の隣に体育座りをする。
「……」
少年は蹲った彼女の顔を覗きこもうとも、何があったかも聞こうとはしなかった。
ただ彼女の隣に寄り添い、時間だけが過ぎていく。
「私って人間……?」
そして、雨粒の音に紛れてしまいそうな程静かな声で、彼女はそう呟いたのだった。
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「清白っち…!清白っち…!清白っち…!!」
口横に激しい衝撃が走り、甲高い声が耳元で繰り返し叫ばれる。
「起きて清白っち!」
遠のいていた意識が体に戻ったような感覚と共に、僕はゆっくりと目を開く。
ボヤけてはいるが、白髪に小さなリボンのシルエットが見える。
「あ、清白っち!よかった、やっと起きた!」
少女は僕の顔を覗き込むと、安堵の表情を浮かべた。
しかし、何故か頬辺りに激しい痛みが走り続けている。
「清白っちだよね!?…本当に起きてる!?」
パチパチと音を立てて、僕の右頬が繰り返し平手で叩かれる。
「いっ、痛いですよ実紀さん!!もう起きましたから、ビンタやめてください」
僕は動き続ける彼女の右手を力強く握ると、不機嫌そうに起き上がった。
「あ〜ごめんごめん。…つい」
申し訳なさそうに、彼女は両手を合わせる。
「所で、僕はどれくらいここで気を失っていたんですか…?」
確か実紀さんの網に着地して、それで…気を失った気がする。
「30分ぐらい」
「あ、30分」
僕は胸を撫で下ろした。
長い夢を見ていたたので、二時間ぐらい眠ってしまったと思っていた。
すると、彼女は頬を膨らませながら、可愛らしい顔で僕に怒りの視線をぶつけた。
「も〜清白っち運ぶの大変だったんだから。怒ってないで、ちょっとぐらいは感謝してよね」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます…」
よく見ると、周りが壁に覆われた薄暗い場所に僕らはいた。
「ここは…?外ではないようですけど」
「多分地下じゃないかな。取り敢えず一番近くて安全そうだったから」
「確かにここなら凶獣に見つからなそうですね。実紀さん、どうやってこんな場所?」
「いや、なんか地面が隆起して地下に入れる大きい穴が出来てたから。実紀の記憶が正しければ、多分施設の近くだと思う」
「あ、施設の?結構僕たち街の端まで飛ばされたんですね」
自分の置かれた状況に少し驚きながら、僕は軽く笑って見せた。
「清白っち動けそう?取り敢えずここから移動しようと思うんだけど」
「そうですね。ここでは外の状況が分かりませんし…」
まだ少し重い体に違和感を感じながらも、僕はゆっくりと立ち上がる。
「実紀あっちの方から清白っち引きずってきんだよね」
彼女は微かに光が差し込んでいる方角を指さした。
「え、引きずってきたんですか…」
言われてみればTシャツの腰部分が少し破れている。
「え、だって重かったんだもん」
彼女は何事も無かったかのように僕から顔を背けると、そそくさと歩き始めた。
「え、実紀さん、ちょっと待ってくださいよ!それじゃあ、結構な距離僕のこと引きずり回しましたよね」
「…………」
「あの〜、実紀さん…聞いてますか?え、実紀さん!本当にそんなに引きずったんですか…?実紀さん!!」
まるで僕から逃げるようにどんどん先へと進んでいく実紀さんを、僕は急いで追いかけるのだった。




