『XLVI :論争』
スーツを着た男達は薄暗い部屋で四角いテーブルを囲んでいる。
「これは緊急事態です!早急に手を打たなければ」
小太りの男はテーブルに手を着くと、慌てた様子で立ち上がった。
「ヴィクテマに任しとけって…アイツらがどうにかしてくれるから」
もう一人の男は興味なさそうに彼を一瞥すると、背もたれに寄り掛かった。
「君嶌さん…!これは凶獣がどうこうではなく、マリサントラが攻撃されてるんですよ!あの化け物集団に一任するべきではないと私は考えます!」
「じゃあ〜、取りあえす桐王に早く連絡しろよ?」
「だから!桐王さんは今任務に出ていてですね…」
「あ〜、わかった、わかった。じゃあ、誰でもいいから早く連絡しろよ」
君嶌は目の下の傷を触りながら不満そうな表情を浮かべた。
「池太幹部!ヴィクテマの副隊長と電話が繋がりました」
そう言いながら部下らしき男性が急いで部屋へと入ってくる。
「やっと繋がりましたか…!」
池田は安堵の表情を浮かべた。
「それが、繋がったには繋がったのですが…、なかなか会話が噛み合わなくて…」
彼は難しい表情を浮かべながら携帯を差し出す。
「わかりました、私が直接話します」
池田は携帯を受け取ると、スピーカー機能をオンにした。
「もしもし、北密さんですか?」
「そうだけど…。あんた誰?」
高圧的な態度で電話越しの彼女は聞き返した。
「マリサントラ幹部の池田です。以前お会いしたと思いますが…」
「あ〜〜〜〜……、うん」
しばらくの沈黙の後、彼女は素っ気なくそう返答した。
「失礼ですが、北蜜さんはこの都市の幹部の名前も覚えてないんですか?」
「うちイケメンの名前しか覚えないから」
間髪入れずそう返答した彼女に、池太は大きな溜め息を漏らす。
「まぁ、今はそんなことはどうでもいいんです。それより、ヴィクテマのこれからの作戦について教えてください。このままではこの都市が崩壊してしまう!」
「作戦?何それ...。それよりさ〜、さっきから揺れてね?今何が外で起こってんの?」
「は?…………。」
彼女の予想だにしなかったその一言に、全員が顔を見合わせる。
「いや〜さっきからなんか外騒がしいなと思ってたんだよね」
「き、き、北蜜さん…。あなた今何処にいるんですか?」
「風呂入ってる」
「は?……………。」
「おい、頼むから私の裸の姿とか想像すんなよ」
あまりにも陽気な彼女の返事に、池田は痺れを切らし声を上げた。
「あなた…!!今マリサントラがどうなってるか分かってるんですか!外では第4区域級の凶獣が大量に暴れているんですよ…!」
「だって私今日休みだもん」
「では、お風呂を出たら早急に出動してください!」
池田はもう一度大きな溜め息を漏らすと、呆れたように頭を抱えた。
「え〜、あと30分は風呂に入ってるけど、その後でいい?今、一昨日胸元に入れ直した死神のタトゥーを拝んでるんだよ」
「さ、さんじゅっぷん!あなたねー、もっと早く出ようとは思わないんですか?!」
「レディーの風呂を急かすのは紳士じゃないっすよ。これだから童貞は…」
まるで自分に非はないと言わんばかりの口調で、彼女は溜め息混じりに吐き捨てる。
「あ〜もういいですよ!」
我慢の限界を迎えた池田はそう怒鳴りつけると、電話を投げ捨てた。
ピー、ピー、ピー。
「あ〜あ、電話切っちゃたってよかったの?」
横から見ていた君嶌の表情はどこか楽しそうである。
「これだからあの化け物達は…理解できないんです!」
地面に転がる電話を睨みながら、池田は勢いよく椅子に腰を下ろした。
「おいおい、一応聞いとくけど、その『化け物』には俺は入ってないよな?」
「君嶌さんに関しては、もともと理解できません!そもそも、何故あなたはこんな状況でヘラヘラしていられんですか!?マリサントラのトップであれば、もう少し都市のことを考えるべきでは?」
「そう言われてもね〜……」
「植物軍器に脳みそでも喰われたんじゃないですか?」
「池太くん…!それ以上のヴィクテマの侮辱はいくらなんでも看過出来ませんよ」
すると一番奥で静かに座っていた白髪の老人が遂に口を開いた。
「すみません…つい感情的になってしまいました」
池田は申し訳なさそうに視線を下げる。
「ヴィクテマの肩を持つわけではないけど、彼らは選ばれし優秀な団員の集まりだ。副隊長が休んでいても他の団員が手を打っているに違いないでしょう。凶獣の処理は彼らに任せて、私たちは他にやるべきことがあるのではないのかね」
二人を見つめる老人の瞳は冷徹ながら、何処か力強い何かを宿していた。
「そうですね…鏑木さん。とにかく今は私達に出来ることを考えましょう」
池田と君嶌は椅子に深く座り直す。
「じゃあ、真面目な会議始めますか〜」




