『XLI :追憶3』
「僕は…僕は…僕はっ…」
記憶を失っていた自分への恐怖。
最後まで自分を信じてくれた彼への罪悪感、頭を過ぎる周りへの不信感…。
その全てが、僕の背中を押し潰さんと乗っかってくる。
…苦しい、苦しい、苦しい。
押し寄せる頭痛と吐き気から少しでも逃れようと、必死に頭の中で言い訳を考える。
僕がやったのか、
唯一の親友を…この手で。
いや、…違う、僕じゃない、僕じゃないんだ。
理由なんて何でもよかった。自分の気持ちが少しでも楽になる、言い訳を…。
…そう、しょうがないんだ。もうこの手は自分の物では無いのだから。僕であって僕でない、もう一人の自分が殺ったんだ。
僕は一心不乱に自分の知らない自分に罪を擦りつける。
…そいつが全部悪いんだ。僕は悪くない…。悪くない……はず、なのに。
どんなに自分を騙そうとしても、心の底で疼く罪悪感がそうはさせてくれなかった。
…クソ、何なんだこの気持ちは。まるで自分の意思で親友を手にかけたかのような、それほど強く、心の奥から湧き上がってくる罪悪感。
その時、僕が零したお茶の小さな水溜りの中から不意にもう一人の自分が語り掛けた。
『当たり前じゃなの〜。そんなの、君が、君自身があの瞬間、彼を殺したんだから〜』
必死に隠そうとしていた事実を、さも当然かのような顔で突きつけられた。
僕は認めたくなくて、耳に残ったもう一人の自分の言った言葉をかき消すように叫んだ。
「黙れぇぇーーっ!!!」
これ以上何も気付かされたくなくて、隠した真実を突きつけられたくなくて、僕は咄嗟に水溜りを手で振り払った。
…こんなにも僕の心は弱かったのか。自分勝手で、愚かで、自分のやった事から目を逸らす。
初めて心の底から自分という存在に呆れた。
そしてその瞬間、背中を押していた罪悪感が遂に僕を押し潰した。
「もう殺してください…。僕を、殺してください…」
自分の罪に向き合うことも、言い訳を考える事さえも疲れた僕は、顔面を地面に擦り付け、死を乞いた。
「誰か、このどうしようもない自分を、殺してください…」
「清白っち!!何さっきからどうしたの!ほら逃げなきゃ、顔上げて!」
実紀さんは傷だらけの僕の顔を無理矢理持ち上げる。
僕の無様な顔に一瞬戸惑いながらも、彼女は自分の頬をつねり続けた。
「逃げるの、分かる!?逃げなきゃ本当に死んじゃうの!」
「僕は、僕はもう少し此処にいれば死ねるんですか…。そしたら親友を殺した罪を償えますか…」
無気力に弱々しく、僕はそう問うた。
何も知らない彼女に聞いても無意味なのは分かっている。
でも、もう誰にでもいいから問いたかった、僕が死ねば罪は償えるのか……許しは貰えるのか。
…もし此処に留まるだけで死ねるのであれば、それは僕にとって望んだまでもない幸運だろう。
本気で、そう思った。
「清白っち、もしかして記憶が……」
なにやら彼女は突如顔を青ざめると、少し離れた柊音さんを一瞥した。
ゆっくりと視線を落とすと、彼女はポケットに手を突っ込み何かを探す。
一瞬だが植物軍器の燃料瓶のような物が彼女のポケットから覗いた気がした。
「………」
しかし無言で僕の表情を見つめると、彼女はポケットから手を抜いた。
「絶対死なせないんだから…」
彼女は耳元でそれだけ呟くと、柊音さんを呼んだ。
「ちょっと失礼」
駆け寄って来た柊音さんはヒョイと僕を担いだ。
「下ろしてください…」
「清白君、すまないがそれは出来ない」
力尽くで抵抗することも出来たが、そこまでする程の気力や意志は今の僕には無かった。
「よし、行くよ!」
僕を連れて二人は出口に向かって駆け出した。




