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『XXXIX :追憶1』

[3時間前]


「ねぇー清白すずしろっち〜、喉乾いたー!なんか買って〜!」


白髪の少女はその整った顔で僕を見つめると、可愛らしい体を右腕に擦り付ける。


遊園地内の全てのアトラクションを遊び尽くす勢いで移動して半日。


喉が乾く気持ちも分からなくもないが、それなら自分で買えば良いのに…と少し思う。どうか分かって欲しい、三人分の昼飯を払って僕の家計はカツカツなのだ。


「え〜、まぁいいですけど」


しかし、彼女の捨てられた子犬のような表情を前に僕は渋々了承した。


「清白っち、あそこの自販機にしよう!ちなみに実紀みきはコーラね!」


決して彼女に気があるとかでは無い。…にも関わらず、こうお願いされると断れないのは、彼女の、この無駄に洗礼された可愛らしい態度のせいだろう。


俗に言うパパ活と呼ばれる物でもすれば、彼女は一生不自由無く暮らせるに違いない。


「わかりました…」


僕はカードを財布から取り出し、自販機にかざす。


『コーラ120円: お支払いありがとうございました』


陽気なボイスが自販機から聞こえると、ゴトンと音を立ててコーラが取り出し口に現れた。


柊音しおんさんも何か飲みます?」


実紀さんにコーラを手渡した僕は、後ろから付いて来ていたもう一人の美少女にも声をかける。


「悪いな清白君。では、お言葉に甘えて…暖かいお茶で」


『お〜ひお茶(Hot)110円:お支払いありがとうございました』


「はいどうぞ…」


「ありがとな」


「どこか座る場所探します?」


僕は銀色のカードを財布にしまい、辺りを見渡す。


ちなみにこのカードはクレジットカードでは無く、「マリン」と呼ばれる電子マネー。ここマリサントラでは九割方の買い物は電子マネーである。


「あそこのベンチが空いてるぞ!よし、みんなあそこに移動しよう」


腰を下ろせる場所を見つけた柊音さんは早く休みたかったのか、嬉しそうに声を上げた。


「どこどこ?実紀には見えないよ〜」


背丈が低い彼女は柊音さんの目線の先を見ようと、人混みの中でピョンピョンと跳ねる。


「実紀さん、こっちです。行きましょう…」


彼女を人混みから引っ張り出そうと手を伸ばしたその時、


足元が大きく揺れだす。


「地震…!?」


経験した事のないほど巨大な地震が起こる。


「うっ、長いな…」


20秒経っても止まず、地面の一部が次第に隆起し始める。


それに伴い足元のコンクリートにひびが入り初め、あちこちで悲鳴が上がる。


「実紀さん、柊音さん…大丈夫ですか!」


慌てて彼女達を確認するが、意外にも二人共平気そうな顔をしていた。

…あまりこういうのに動揺しないタイプなのだろうか。


すると地面に大きな亀裂が入り、少し離れた場所で足元の一部が分裂した。


「危ない…!」


辺りで飛び交う悲鳴は一層悪化し、人々はさらにパニックに陥る。


早く終わってくれと全員が願っていたその時、地震はピタリと止んだのだった。


「止まった…」


人々が安堵の表情を浮かべていると、園内にアナウンスが流れた。


『先程マグニチュード9.3の揺れを観測しました。全てのアトラクションを一時停止し、速やかに開けた場所へと避難してください』


パニックの人、泣き出してしまった人、呆然としている人…全ての人がその場を少しでも早く離れようと一斉に移動を開始する。


「私達も避難した方が良さそうだな。ほら清白君、早く行くよ」


「そうですね、急ぎましょう…」


ズドァァーーーン!!!


すると突然…信じられない程の大きな波動と衝撃音が響いた。


僕たちは反射的に破壊音がした背後の方を向いていた。


「何これ…」


目を大きく見開いた実紀さんは恐怖で染まったその瞳で、地面から突き出た黒い化け物を見つめる。


長い体に鋭い牙…"蛇"という一言では明らかに足りないその凶獣ランデルは、先程地面に出来た大きな亀裂からその姿を現した。


凶獣ヘビは体を大きく振ると、痛烈な叫び声を上げながら、その蒼い瞳で辺りを見渡す。


「入団試験の時の……」


するとその蒼い眼光が僕を襲い、無意識に体が固まる。


不安と絶望でこんなにも手足は震えているのに、見覚えのあるその化け物から目を逸らすことが出来ない。


…なんで、コイツがここに。


脳裏に刻まれた記憶が目の前の光景と重なり、カチッ…と僕の心の何かが外れたのだった。


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