表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/51

『XXXVIII :崩壊の音2』

8人しか乗っていない古びた機関車はカタンコトンと音を立て、その薄暗い森を駆け抜けていた。


「ねぇ〜ねぇ〜、帰ったら焼肉食べようぜ〜」


二日ぶりに帰還するマリサントラに、上杉うえすぎは興奮気味に声を掛ける。


グゥ〜〜〜〜!!


突然お腹を鳴らす音が響き、その方向へ全員が視線を向けた。


「え、なんですか?みんな私のお腹が鳴ったと思ってるんですか?それなら確実に空耳だと思いますけど」


恥の席に座っている天國あまくには、何事も無かったかのように視線を逸らす。


「天國〜、お前も可愛いとこあるじゃ〜ん!まぁ、そもそも俺の班に可愛くない子はいなけどね、ハッハッハッ〜〜」


上杉は心底嬉しそうに笑う。


「元はと言えば上杉さんが焼肉の話をしたのが原因ですからね…!ちなみに私は行きませんよ、焼肉。めんどくさいですし…、早くお風呂に入って寝たいんで…」


「相変わらずつれないな〜、でもそういう所も可愛いぞ!」


どストレートに誘いを断られたにも関わらず、良い笑顔で親指を立てた。


しばらくすると機関車は高い金属音と共に減速し、古びたホームのような場所で停止した。


皆足元に置いていた大きなリュックを背負い、手前に座っていた雨夜から下車して行く。


「ん…?これ誰か忘れてませんか?」


天國は黒い羽の付いたストラップを高く上げる。


「まぁ、大体誰か見当はつくけど…」


すると彼女は雨夜あまやの名前を呼び、右手のストラップを彼女に向かって投げた。


「ちょ…ちょ、天國!私の宝物をそう気安く投げるな!」


雨夜は飛んできたストラップを両手でキャッチすると、怒りの視線を彼女にぶつける。


「もし落ちたらまた買えば良いだろ、そんなもん…」


「おい!今最後に余計な一言が聞こえたぞ!なんて言った天國、もう一回言ってみろぉ」


「はいはい、わかりました。あー、めんどくさ…」


適当にそう呟いた彼女は、詰め寄る雨夜を他所にやっと圏外ではなくなったスマホをいじる。


「あの二人ってなんであんなに仲良いんすか?名前も呼び捨てだし…」


不思議そうに天羽あもう三芳野みよしのに問いかける。


「二人は…同期なんだよ…。ちなみに綱元つなもとさんとも…。だから…多分施設の時から一緒なんだと…思う」


「じゃあ、何で雨夜先輩は綱元先輩の事を呼び捨てで呼ばないんすか?」


「それはね、雨夜が施設に後から入ってきたからよ」


綱元が後ろから声を割り込ませてきた。


「え…施設に途中からとかあるんすか?だって俺たちって全員、生まれも育ちも施設の中じゃないっすか」


「それはね、話すと少し長くなるんだけど…」


「お、おい嘘だろ…、何だよこれ!?」


突然、くうを切る様な上杉の掠れた声が会話遮る。


そこにいた殆どの人間が先程までとの彼の差にその絶望に震えた声が誰のものか一瞬、判ら無い程だった。


今までの何処か緩んでいた空気が嘘のように全員に緊張が走り、一斉に声の方に駆け出す。


「上杉!大丈…っ!?」


言葉を掛けようと口先まで来ていた言葉が次の瞬間…全員の口の中で膠着こうちゃくした。



競争しているかのように建ち並んでいた高層ビルは大きく歪み、いくつかは跡形もなく崩れ落ちている。


地面には大きな亀裂があちこちに入り、よく見ると数え切れない程の暗煙が空に上がっていた。


信号、建物、電灯などの照明も何処かへ行ってしまい、街は人々が住んでいた事を疑わせるほど深い闇に包まれている。


脳裏に刻まれた輝かしい景色とは程遠く、規律を失ったゴミのようなマリサントラの姿に冷たい汗が背中を伝った。


「一体何が起こっているの……」


自分の住んでいた場所の豹変ぶりを受け入れられない綱元は、ふらふらとした足取りで歩き出す。


砂埃で視界は決していいとは言えないが、耳を済ますと聞こえる人々の弱々しい悲鳴が、この街の危機を嫌でも実感させた。


何が…何処で…何故起こったのか。

無根拠の憶測が無数に彼女の脳内を飛び交うものの、正常ではない彼女の心情が彼女に深く考える事を許さない。


すると彼女の足元から鈍く泥臭い音が響き、妙にぬかるんだ感触が足裏に走った。


地面に落ちた瓦礫がれきとは明らかに違うその感触に、彼女は恐る恐る視線を落とす。


…そこには力を失った人間の右腕が、赤茶色の水溜りに浸っていた。


付け根からは赤い血が噴出し、地面に染み付いた手型は、その腕が先程までもがき苦しんだ事を想像させる。


「ひっ……」


慌てて足を退けるが、感情の許容量を遠に越えた彼女の口から漏れたのは、とても悲鳴と呼べるものでは無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ