『XXXVII :崩壊の音1』
「いや〜、今回もひと仕事しましたな〜!満足、満足!」
戦闘後と思えないほどピンピンしている上杉真琴は、薄暗い空へと声を上げる。
しばらくしてやっと収集の着いた上杉班は、マリサントラに帰るべく皆で駅に向かっていた。
…いや、正確には上杉&雨夜班だろうか。
「あれ!?無い、戦闘前に外した筈のネックレスが…」
すると、突然綱元は青ざめた表情で自分のリュックを漁り出す。
「ネックレスって、あの白い宝石が付いたやつっすか?」
天羽の問いに彼女は首を縦に振ると、全員が辺りを探し出す。
「リュックのポケットにいつも入れてたはずなのに…」
いつも平静を崩さない綱元が珍しく焦ったようにリュックをあさる。
「どうしよう…あれ、大切な物なのに」
「凛ちゃん、それって俺の上げたネックレス?」
「う、うん………」
小さく呟くと、彼女は申し訳なさそうに俯いた。
「元気出してよ〜凛ちゃん。大丈夫だって!ほら、また同じのプレゼントするから!」
少しでも彼女の気持ちを和らげようと、上杉は必死に明るい言葉を掛ける。
その時、
「えーいっ…!!」
突如雨夜が綱元に抱きつくと、彼女の体を弄り出した。
「!?あ、雨夜!?ちょ…やめ、やめてって」
必死の抵抗も虚しく、雨夜は彼女のありとあらゆるポケットに手を突っ込み続ける。
「うーん、あっ!あった!!」
大きな声を上げた彼女の右手には白い宝石が付いたアクセサリーが握られていた。
「やっぱり!綱元殿は昔に何回か似たような事をしてたからねー。ふふふ、私の記憶力を舐めるなよ?」
「ありがと〜雨夜、と言いたいところだけど…。それなら普通にポケット見れば教えてくれればいいじゃない!こんなくすぐったい事する必要ないでしょ!」
「ごめん、ごめん」
半笑いの雨夜は顔の前で両手を合わせる。
「でも、本当によかったぁ」
安堵の表情を浮かべた綱元は嬉しそうにアクセサリーを抱きしめた。
「大事な物を無くすと焦りますよね。本当に見つかってよかったです」
「そうなのよ…!紅林さん分かってるわね、心臓が止まるかと思ったわ」
同志を見つけたかのように振り向いた彼女は何かを見つけたのか、目を細める。
「ねぇ。紅林さんって、もしかして左腕になんか付けてる?」
「あ…これですか?はい、綱元先輩のような高価な物ではありませんが」
彼女は左袖を捲り上げると、真ん中に蒼いガラスのような物が埋め込まれた銀色の腕輪を見せる。
「大切な人から貰った大事な物なんです」
「え、全然気付かなかった!」
「これだから男子は…」
無邪気に驚く西園に、綱元は呆れた視線を一瞬送る。
「それって誰から貰ったの?好きな人とか?それとも…生き別れた家族とか?」
綱元はまるで少女漫画の主人公を見ているかのように、キラキラと目を輝かせる。
「生き別れた家族とか、そんなロマンチックな物では無いんですけど……」
「そもそも紅林さんは家族と生き別れて無いですよ」
最後尾からトボトボ着いて来ていた天國が珍しく口を開く。
「それくらい分かってるわよ。だって私たちの部隊に同じ苗字の姉がいるじゃない」
「苗字一緒だからもしかしてとは思ってたけど…やっぱり紅林さん達、姉妹だったんだ。いや〜ずっと気になってはいたんだよね」
西園先輩は何処か嬉しそうな表情を浮かべながら続ける。
「そういえば、その肝心のお姉さんが見当たらないみたいですけど?今日は体調不良とかで任務から外れてるんですか?」
「残念な事に、この前上杉のセクハラが原因で他の班に移動したわ…」
悲しそうに綱元がそう呟くと、皆が上杉に軽蔑の視線を向ける。
「あー…なるほど」
「やっぱり…」
「存在がセクハラですもんね…」
「おいおいおい、な訳ないでしょ!!凛ちゃ〜ん適当な事言わないでよ〜!」
彼は涙目になりながら綱元に抱きつく。
「もう、離れて!分かった、分かった…ごめんって」
「では何故姉は今日いないんでしょうか?」
紅林は不思議そうに上杉先輩に問く。
「それは俺も知らされていないんだよ。なんか、極秘任務とかでもう一人うちの部隊にいる筈のちっこい奴と一緒に駆り出されてて」
「それ本当?ただ上杉が理由聞き忘れたとかじゃなくて!?」
「何回も言ってるけど本当に知らないんだって!俺はただ人数足りないだろうからその間雨夜班と合併してって言われただけで…」
「なるほど、お互いの部隊の人数が足りないから私たちの部隊とこうして任務してるんですね。でも姉は一体何をしてるんでしょうか…」
彼女は少し不安げな表情を浮かべ、溜息をつく。
「正直見当もつかないけど、第二部隊班長の僕にも言えないとなると相当な重要任務だと思うよ。それこそ、マリサントラの危機が掛かっているような。まぁ、大丈夫だと思うよ!なんて言ったって二人とも僕の見込んだかわい子ちゃんだから!」
すると上杉は突然何かを思い出したかのように目を見開く。
「そうだ!話変わるけど紅林ちゃん僕の部隊に入ったりしない?もう僕はその美しい紅髪の虜なん…ダッ!」
台詞を言い終わる前にグーパンチが上杉の顔面にのめり込むと、彼は大きく横へと吹っ飛んだ。
「紅林さん、ほんとにごめんねー。コイツ気に入った女子をヘッドハンティングするのが趣味なんだわ」
申し訳そうな表情を浮かべながら綱元はパキパキと拳を鳴らす。
「ハハッ…大丈夫です。もう何となく分かってきましたので」
打ち上げられた魚のように痙攣している上杉は明らかに大丈夫そうではないが、彼女は精一杯笑顔を作ったのだった。




