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『XXXII :偽実3』

「ね〜ね〜!実紀みきにんじん嫌いだからカレーに入れるのやめようよ〜、お願い…!?」


可愛らしい白髪の少女は上目使いで僕に頼み込む。


「え…そ、そう何ですか?じゃあ、入れるのやめたほうがいいですかね…?」


僕は持っていた人参を仕舞おうと冷蔵庫を開けたその時、冷たい手が僕の腕を握った。


「ちょっと待った…清白君!実紀を甘やかしてはダメだ。もう子供じゃないんだから少しずつでも克服させる必要があるんだ…!」


紺髪の彼女は僕の手から人参を取り上げると目にも止まらぬ速さで人参を切り、そのまま鍋に放り込んだ。


「あ〜〜っ!なんで入れちゃうの〜、柊音しおんのいじわる〜!」


小さい体をさらに丸めた彼女は地面に崩れ落ちる。


「そんなガッカリしないでください…実紀さん。人参は避けて食べればいいじゃないですか」


僕は縮こまる彼女を必死で慰めようと背中をさすった。


「実紀のことは放っておいて大丈夫だよ…立ち直るスピード宇宙一だから」


柊音しおんさんはそう言うと黙々と料理を続ける。


「え…?でも実紀さんが…。実紀さん、大丈夫ですか?元気出してください…」


「みくティ〜……」


「な…何ですか?」


彼女の謎の返答に僕は思わず変な声を出した。


「かわいい……」


「え…?」


「みくティ〜、かわいい…?」


僕は彼女の言葉が理解出来ず、顔を覗き込む。


「みくティ〜かわいい…はい、言って」


「みくティ〜かわいい…」


「もう一回…もっと大きい声で」


「みくティ〜かわいい…!」


「もう一回…」


「みくティ〜…かわいいーーー!」


僕は力いっぱい叫ぶ。


「ほんと…!?」


彼女は嬉しそうにヒョコッと顔を上げる。


「もう一回言って!」


「みくティ〜かわいいーーー!」


彼女は丸めていた体を大きく伸ばすと、最高の笑顔でVサインを作る。


「みんなのアイドル、みくティ〜参上!清白っち、世界で一番かわいい私のファンクラブへの加入を認めるあげるわ!」


突然世界で一番いらない許可が降りた事に僕は膠着こうちゃくしていると、柊音さんが大きく溜息をつく。


「はぁ…。すまない…清白君。実紀の機嫌取りだと思って、取り敢えず頭を縦に振っといてくれないかな」


「清白っち理玖!あなたをみくみくファンクラブ、会員番号13に任命するわ…!」


「え…?あ…ありがとうございます」


「ふふ〜ん、嬉しいでしょ?」


何故僕の1DKにこの一風変わった美少女がいるのか…?


それは…他の誰かのせいと言いたい所だが、完全に僕の失態である。


先ほど街で彼女達に助けて貰った僕は軽い自己紹介と雑談をしながらスーパーの袋を家まで運んでもらった。


しかし、彼女たちをそのまま返すわけにもいかず、血迷った僕は気を使って「夜飯食べて行きます…か?」と言ってしまったのだ。


今思えば何で僕は彼女達を家にあげているんだ…?これではナンパと思われても仕方がないのではないのか…?そして何より彼女達は何故ホイホイ僕の家に上がっているんだ…?


後悔とまではいかないけれど、ここまでの唐突な展開に僕は只々困惑していた。


「清白君…?ねえねえ…清白君」


「あ…すみません!何ですか…?」


少し考え込んでいた僕は慌てて我に返ると、美少女二人がキッチンの引き出しを覗き込んでいた。


「清白君、聞きたいことがあって…」


すると柊音さんの声を遮るように白髪の少女が僕の鼻先まで顔を近づけた。


「え、実紀さん…!」


そして彼女は不思議そうに問いた。


「清白っちって童貞…?」


「え…、いや……」


「その反応はどうて…」


「こらっ‼」


目の前まで迫っていた少女の頭に突然チョップが振り下ろされる。


「イタッ〜…!」


突然の攻撃を受けた実紀さんは頭を抱えてその場にうずくまった。


「違うだろ…実紀!胡椒の場所を聞けって言った筈なんだが…!?変な事聞いて清白君を困らせるんじゃない」


おたまを片手に持った柊音さん困ったように怒鳴りつける。


「………。」


「大丈夫ですか…実紀さん?」


「………。」


「頭が痛いんですか…?あ…救急箱!救急箱取ってきますね」


何処かに仕舞ったであろう救急箱を取りに行こうと立ち上がったその時…


「みくティ〜……」


「ん…?実紀さん、何か言いました…?」


「みくティ〜、かわいい…?」


彼女は伏せていた頭を傾けると、その人形のような丸い瞳をこちらに向ける。


「みくティ〜、かわいい…?」


つい先程もあったようなこの展開に僕は嫌な予感がした…。


「はぁ…。悪いが…頼んだよ清白君」


柊音さんはそう言い残すと逃げるように調理へ戻ってしまった。


「え…柊音さん?ちょっと待ってください…またですか?」


「みくティ〜、かわいい…?」


捨てられた猫のような表情で大きなリボンを付けた少女は僕に尋ねる。


「みくティ〜かわいい」


「もう一回…」


「みくティ〜かわいい…!」


「もう一回…」


「みくティ〜かわいいーーー!」



…こうして謎の美少女たちとの奇妙な関係が始まったのだった。


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