『XXXI :偽実2』
突然の終わりを告げた僕のヴィクテマ人生から早一ヶ月…
僕は明けない夜の下で生きる、唯の「一般人」になったのだ。
オレンジの光を出しながら横を通り過ぎる車の音をBGMに、僕は空を見上げる。
「外の方が星は綺麗だったかな…」
オリオン座を探していると、少し前の記憶がこの光景と重なった。
「なんでこんな事に…」
あの時、ヴィクテマから追い出された理由を聞けばよかったと何十回目かの後悔をする。
突然の宣告にひどく取り乱し、何も質問する事ができなかったのだ。
「これからどうすればいいんだろう…」
心残りと後悔に押しつぶされそうになる。
仮に尋ねたとしても、理由は教えてくれたとは限らなかったが。
「もう考えるのはやめよう…」
深く考えすぎるのは僕の悪い癖だと、よく東君が言っていたのを思い出す。
こうして一般人になった僕には二つのルールが課せられた。
一つ目は、今まで打っていた薬とは別に三日に一度注射を打つ事。
二つ目は、ヴィクテマの人間には今後接触しない事。
今まで施設の中で過ごしてきた僕にとってルールは慣れたものだが、一つ困った事があるとすれば東君に会えないと言う事だろう。
二つ目の決まりで東君に連絡をする事さえも禁止されているのだ。
これに一体どんな意味があるのだろうか…。
疑念を持ちながらも、常に誰かに監視されているような気がし、大人しくルールには従うようにしていた。
「東君元気にしてるかな…」
今頃凶獣からここマリサントラを守るために奮闘していることだろう。
ぐぅ〜〜
唯一の親友を失ってしまった事に傷心していると、不意にお腹が鳴った。
「結構座ってたな…。早く帰ってカレー作ろ」
僕は松葉杖を握ると、膨れ上がったビニール袋を片手に立ち上がった。
「よし…!」
片体重を杖に預け左足で歩き始めた時…
「イテッ…!」
壁に当たったような反動が肩を襲い、僕は思わず地面に倒れた。
「あ…!大丈夫…いや、大丈夫じゃないな。本当にすまない…!」
ぶつかった女性は持っていた袋から飛び出た野菜を慌てて拾う。
「もぉ〜柊音ちゃんったら何してるの〜?」
「すまない、話に夢中で前を見ていなかったんだ…」
ボーイッシュなショートカットに何処か中性的な雰囲気を持った女性は申し訳なさそうに謝っている。
「いえ、全然大丈夫なので…」
彼女にばかり拾わせるのは悪いと思い、僕も落ちてしまった野菜を拾う。
「あ…」
しかし上手く足に踏ん張りがきかず、手に当たったジャガイモがコロコロと転がっていってしまった。
「ジャガイモ…待って」
転がったジャガイモはコトンと音を立て黒いブーツにぶつかると、勢いを無くす。
それを拾おうと慌てて手を伸ばすと、代わりに華奢な手がジャガイモを拾い上げた。
「あ、すみません…ありがとうございます」
「今日の晩御飯はカレーかな〜?美味しいよね〜カレー、人参は苦手だけど…」
手に取ったジャガイモを見つめながら、隣に立っていたもう1人の少女は言った。
「はぁ…?」
反応に困っていると彼女はアイドルのような最高の笑顔で僕にジャガイモを手渡した。
「はい、どうぞ!」
「あ…ありがとうございます」
僕は戸惑いながらもジャガイモを受け取ると、それを入れるためにビニール袋を探す。
「あれ…?」
きょろきょろと周りを見渡していると、軽く肩を叩かれる。
「おそらく全部拾えたと思うよ」
先程ぶつかった少女は抱えたビニール袋を掲げてニコリと笑った。
「全部拾ってもらって…ありがとうございます」
「いやいや、自分からぶつかっておいて松葉杖の人に拾わせるなんてできないよ」
「では…僕はこれで」
ビニール袋を受け取ろうと手を伸ばすと、紺髪の彼女は袋を引っ込めた。
「家まで手伝うよ…運ぶの」
「え…いや流石にそこまでして頂かなくても。家もここから近いですし…」
「松葉杖じゃこれを運ぶのは大変だろう?」
「まぁ…そうですけど」
どうしようかと迷っていると、白髪に大きなリボンを付けた少女が後から覗き込んできた。
「大丈夫、大丈夫〜…柊音ちゃんは力持ちなんだから。ここはお言葉に甘えといた方が絶対い〜よ」
確かに正直あと10分ほど重いものを片手に歩くと思うと憂鬱だ。
「うーん…では、お言葉に甘えさせてもらいます…」
「よし、決まりだな」
「レッツゴ〜!」
僕たち三人はこうしてシンシンと輝く夜道を歩き始めたのだった。




