『XXVIII :悪縁契り深し2』
理久は身体をゆっくりと左右に揺らすと次の瞬間、霧のように姿を消した。
「……!」
ノーモーションから光の速度で距離を詰めると、理玖はその両剣を振りかぶる。
「も〜らい…!」
直様振り下ろされた刃を桐王は右手で受け止めた。
しかし理玖は右手で両剣を回転させると、間髪入れずに反対の刃で彼を攻撃した。
一瞬の間を与えることもなく放たれた連撃に桐王は一歩後方し、その刃を避ける。
「惜しい…」
理玖は楽しそうに呟き笑みを浮かべる。
しかし、桐王ははその一瞬の隙を見逃さなかった。
彼は離れた距離を一瞬で縮めると、右手の拳で重い一撃を理玖にお見舞いしたのだった。
まるで理玖が油断すると見越したような動きは、彼に防御する暇も与えなかった。
「カハッ……!」
後ろに勢い良く飛ばされた理久は、両剣を地面に刺し無理やり自分の体の勢いを止める。
「ゼニス・アプタゴン…」
「……!」
りくがそう唱えると、両剣が刺さった地面が白銀の苔に次々ととてつも無いスビードで変わっていく。
桐王は直ぐにジャンプをし、苔に変わっていく足元から離れた。
「そこで切り札を使うんですね…びっくりしました」
木の枝に飛び移った桐王は、そう言ったものの全く動揺している素振りを見せない。
「嘘つけ〜。そんなあっさり躱して、それは皮肉でしょ〜。俺の攻撃が弱かった見たいじゃん〜。普通は〜間違いなく当たる筈なんだけど…」
理玖の言う通り、初見でこの攻撃を問題なく回避するのは不可能である。
しかし、彼が問題なく避けることが出来たのは、過去視で理玖がこの必殺技を白猿に使ったのを見たからだろう。
過去視を持った桐王実弥からすれば、初見というものは存在しないのだ。
「あ〜…もう手加減出来そうに無いわ。まじで殺しても怒らないでね〜」
理玖は物凄いスピードで再び動き出すと、四方八方から彼に攻撃を仕掛けた。
目に追えないスピードで桐王の周りを移動する彼は、容赦の無く刃を振り下ろす。
「……ッ!」
桐王は両手を使いその連続攻撃を防ぎ続ける。
攻撃を防ぐ毎に違う方向から飛んでくる刃を防ぎ切るには、広い視野と鋭い瞬発力が必要である。
「流石にキツそうだね〜…桐王君…!」
嬉しそうに理玖はそう言うと、攻撃のスピードをさらに上げた。
「本当は無傷で終わらせたかったのですが…」
桐王は防御に使っていた右手を止め、左手のみで攻撃を受け止め始める。すると、自由になった右手を軽く突き出した。
「時間切れです…」
パチッ…!
彼はその右手で指パッチンをすると、時空が割けるような感覚が辺りを襲う。
「……!?」
突然高速で移動していた理玖は動きを止めた…いや、止めるしかなかった。
激しい痛みが足に走り、その直後右足が言う事を聞かなくなったのだ。
視線を下げると、地面を踏ん張る事を放棄した右足の踝付近から赤い血が流れている。
「アキレス腱が切れてるじゃん…!?」
立つことすらもままならない彼は地面に崩れる。
何が起こったんだ…?攻撃はされていない筈…。
「やっと止まってくださいましたね」
桐王は息を吹きかけると右手の指から立っている僅かな煙を消した。
「え…?これ何。ピンポイントでここ攻撃したの…?」
理玖は血が出ている自分の足を見つめながら続ける。
「もう、何が起こったか分からんかったわ…!これ隠し技的な感じ…?」
楽しそうに笑う理玖とは裏腹に桐王は表情一つ変えずに質問した。
「それを答える前に私の質問に先に答えてください」
「え〜どうしよっかな〜」
「あなたをその体から引っ張り出す方法はありますか…」
理玖を無視して放たれた質問に理玖は一瞬表情を曇らせた。
「それを聞いて、どうすんの…?僕を戻しちゃうの…?残酷だな〜せっかく再開したのに〜…」
「はい。あなたを引き抜いた後、あなたを処理します」
「もぉ〜、相変わらず君の返答はユーモアの欠片も無いね。そんなんじゃ、いつまで経っても彼女出来ないよ〜」
「早く質問に答えてください。あなたは今の自分の立場を分かっていないんですか」
桐王は跪いている理玖に近づいた。
「分かった…分かったけど、知らないもんは答えらんないな〜」
「それは本当ですか…」
「それよりさぁ〜、さっきの何?指…パッチンってするやつ」
「質問に答えてもらっていないので、あなたの質問にも答えませんよ…」
彼は右手を軽く上げた。
「では、また会う日まで……師匠」
パチッ…!
彼はもう一度指を鳴らすと、理玖は気を失いその場に倒れた。
「ヨイショ…」
彼は倒れた理玖を担ぎ、腕の時計を確認する。
「少し時間を掛けすぎたな…」
そして、白銀の苔の残骸が飛び交うその場所を後にしたのだった。
そこに咲く筈のない一輪のひまわりが花開いていた事に気付く筈もなく…。




