『XXVII :悪縁契り深し1』
「あ〜あ、黙ってれば良かったのに。しつこく付き纏うから…」
溜息まじりに理玖はそう言うと、東の隣で倒れている西園を一瞥した。
「あのデブは放っといていっかぁ」
彼は踵を返し、森の方へと歩を進める。
「よーし…!アイツの所に会いに行こっかな」
彼は右手に握られた両剣を一瞬にして消し去ると、頭の後ろで手を組んだ。
「フンフフフフ~ン〜♪」
呑気に暗い森を進む彼の姿を見て、彼が先ほど人を刺したと思う人は恐らく誰もいないだろう。
「なんとなく歩き始めちゃったけど、ここからマリサントラって結構距離ある感じじゃね…?」
彼は行きは電車に乗ってきた事を思い出し、足を止める。
「まっ…いっか!」
一人で納得した彼は再び歩き始めた。
「そう考えると…あのまま本来の理玖の振りをして、みんなと電車に乗って帰った方が良かったかな〜?いやでも、どっちにしろ東君は殺さなきゃいけなかったしな〜」
大量の白猿の前で絶望する東の表情を前に、つい笑いが堪えきれずバレてしまったが、いつか彼には遅かれ早かれ理玖を侵食した事が彼には気付かれていただろう。
そうでなくても他の仲間に理玖の変化を悟られてしまったかもしれない。
「特にあのちっこいツインテールは遣り手だな〜。才能も経験もある…」
楽しそうに理玖は1人ごとを続ける。
「東は仲間を洞窟に置いてく時、何故か心配してたけどね〜。どう見ても一人だけレベチでしょあれは…。まぁ〜紅林さんは分かってたみたいだけどね〜」
何故あれ程の実力の持ち主が第三部隊にいるのか理玖は疑問に思うのだった。
「まぁ!俺にはもう関係ない話だけどねっ…!」
すると、理玖は急に立ち止まり大きく溜め息をついた。
「はぁ〜…出てきてたらどうかな〜。ストーカー!って叫ぶよ?」
「もうバレていましたか…」
すると茂みから黒いヴィクテマの制服を着た瑠璃色の瞳の男が現れた。
「バレバレだし…。」
「生憎ストーキングは俺の本職では無いのでね」
「もぉ〜、もった感動するような再開も仕方をしようとか思わなかったの?まぁ、でも嬉しいよ!まさか桐王君がわざわざ会いに来てくれるなんてね。僕もちょうど君の所に向かおうと思ってたんだよ〜」
「ここから歩いてですか…」
「そうだけど…なんか悪い?」
「いや、…」
桐王は黒の手袋の手首の部分を引っ張ると続けた。
「これ以上雑談をしている暇は無いので、あなたを拘束させてもらいます…」
「ちょいちょい待てって…!」
慌てて止めようとした理玖を無視し、一瞬で距離を詰めた彼は理玖の心臓目掛けて左手を突き出す。
一瞬の迷いも無く繰り出されたその攻撃は、本気で心臓を貫きにきていた。
「っと…!」
少し驚きながらも理玖は体を反転させその攻撃を避けると、一歩二歩と距離をとった。
「桐王さん、桐王実弥さん…。流石にそれは危ないよ〜。僕まだ何もしてないじゃん」
「うちの団員を殺しても、何もしてないと言えるのですか…?」
すると、理玖は舌を出し右手を頭に当てた。
「いや〜もうバレてたか〜。相変わらず気持ち悪いね、君の過去視は…」
過去視…それは他人の過去を見る能力。桐王実弥の最強にして、人類で唯一無二の能力。
「でも、あんまり僕の過去見ないでね〜。桐王君のエッチ…!」
「相変わらず緊張感の無い人ですね。いつか足元を救われますよ」
「僕が足元…!ないない、あり得ない。そもそも君が僕に勝てた事なんて無いじゃん〜」
「何年前の話ですか…。今の私とはやって見ないと分からないと思いますけど」
桐王は理玖に一歩近づいた。
「ちょっと待ってね〜…。本気で殺るならこっちも本気で殺る準備をしなきゃ」
理玖は心配そうに…しかし、何処か嬉しそうにそう言ながら笑みを浮かべた。
「ランギルス…」
静寂な森に突如荒々しい風が吹き込み、彼の周りに白銀の胞子が現れる。
「よし…!始めようか〜…」
煌びやかな旋風の渦から出てきた彼の右手には、長い柄の両端に剣が装着された"両剣"が握られていれていた。




