『XXIII :危猿4』
振り下ろされた剣が迫る。
銀色に鈍く光るそれが振り降ろされるのが一瞬にも、永遠にも思えた。
これが走馬灯ってやつなのか…?
ズバッ!!!
「……?」
振り下ろされていた腕が突然目の前で切断される。
そしてキンという深妙な高音と共に、自分に振り下ろされていた筈の剣が地面に転がる。
頭猿はなくなった自分の右手を見つめ、一拍置いて状況を理解したのか苦しみ始める。
「東殿、危なかったね〜」
「東君、大丈夫…?」
頭猿の両脇には黒のツインテールの少女と紅の毛の少女が立っていた。
俺は止まっていた感覚が戻り、何が起こったのか理解する。
助かったのか……そうか助かったのか。
どうやら途中で別れた三人が間に合ったようだ。
「遅れてすまんね。あの後、意外と白猿の処理に手こずってちゃって」
そう言いながら雨夜先輩は飛んできた小石を避けると、倒れている西園先輩を一瞥した。
一瞬表情が曇るも直ぐに先輩は視線を黒猿に戻す。
「あれ?黒猿しかいないじゃん。白猿は?」
「わかりません…と、とにかく西園先輩が…」
「そうだな、早く終わらせよう…」
先輩は前を向いたまま、それだけ呟いた。
「東君!!!」
聞き覚えのある声がし、視線を向けると理玖がこちらに向かって走っていた。
「理玖!!」
親友が無事だった事に俺は安堵する。
ウォーーーー!!!!!
すると、今までで一番の咆哮を上げた頭猿は左手の盾を捨て、落ちた剣を拾い上げる。
「紅林殿、周りの石を投げてる黒猿を頼む」
彼女はそう言うと頭猿と向かいあった。
「さっきからうるっさいんだよ!こっちも仲間やられて怒ってんだからぁ!!」
先輩は今まで見たことがないような気迫をその身に纏う。
平然としていた雨夜先輩も本当は内心仲間をやられた事にとてつも無い怒りを覚えていたのだ。
彼女は右手の刀を捨て、代わりに両手から一回り大きい剣を生み出す。
両者は鋭い眼光に殺気をのせ、睨みあう。
一瞬の緊張を破るように頭猿が先に一歩を踏み出すと、そのまま剣を後ろに振り上げた。
反応するように雨夜先輩も大きく一歩踏み込む。
始まる……そう誰もが思ったその時、
バチバチという音と共に突然扉が焦げ始める。
「………!!」
炎は直ぐに全体へと広がり扉は真っ黒の炭のように成り果てると、大きな音をたて倒れた。
途端に凄まじい熱気が体を包む。
扉の向こうでは洞窟内が真っ赤に燃え上がっている。
黒猿は石を投げる手を止め、視線を地面に落ちた扉に向ける。
俺も前触れも無く起こった出来事に唖然とした。
「なんで……」
来た道が燃えている、つまり帰り道が塞がれたと言うことだ。
火の手がこの場所に届くのも時間の問題、このままでは敵味方関係なく全滅だ。
どうにかして火を食い止めなければ。
いや、例え火を食い止めても一酸化炭素中毒で俺たちは絶え果てる。
誰がなんのために…
「東君…東君!」
側に来た理玖が愕然している俺の背中を叩く。
「早くここから逃げなきゃ」
「でもどうやって…」
俺の問いかけに理玖は黙り込む。
「東、清白…!!」
雨夜先輩が声を上げる。
「お前らは先に西園を連れて洞窟を出ろ!!」
他の四人はまだ戦っている。俺たちだけ逃げる訳には…
「他のみんなは⁉」
「隙を見て後から脱出する!そのデブを担いで早くここから逃げろ!」
雨夜先輩の声はとても緊迫している。
「火の手が完全に回る前に早く!!」
「…了解です!」
俺は西園先輩をおんぶする。
「ヨイショ………イテッ!」
さっき打ち付けた胸にまたも激痛が走る。
「東君…大丈夫?」
俺は傾いた姿勢をなんとか気合で立て直した。
「大丈夫だ、早く脱出しなきゃ…」
俺は出口の方へくるりと踵を返す。
その時、一瞬視界に入った理久の口元が嗤っていたような気がした。
「……?」
一瞬、ほんの一瞬のその不気味な表情に、思わず理久の顔を二度見する。
「どうしたの東君?早く行こう…」
不思議そうに理玖は首をかしげる。
気のせいか…。
「ごめん、そうだな急ごう!」
俺は西園先輩を落とさないようにしっかりと抱えると、炎が燃え盛る通路へと飛び出した。




