『XXII :危猿3』
俺らは猿の死体を跨ぎ、奥へと進んだ。
「全く予想外だね、あんなに統率がとれているとは…」
西園先輩は淀みなく歩を進めながら、困惑しているようだった。
確かに、凶獣が武器まで揃えているのは予想外だった…。
それにここは彼らのホームだ。この先も地形を活かした作戦で攻撃を仕掛けてくるだろう。
俺たちの命も背負っている先輩は、慎重に決断しなければいけないというプレシャーと戦っているに違いない。
しばらく歩くと大きなドアの前に辿り着いた。
一見洞窟とはミスマッチと思えるそのドアは、今までとは一際違う雰囲気を醸し出している。
装飾は一切無く、精々やすり掛けをした程度であろう金のドアノブが着いた両開きの扉。
簡素であるが、凶獣の知性を確かに示していた。
「よし!みんな準備はいい…?」
俺たちを見つめる先輩の表情から緊張が伝わる。
「気を引き締めていこう!」
「「はい!」」
先輩は大きく息を吸うとドアを思いっきり開いた。
扉の先には今まで来た道とは違い、ドームのような大きなスペースが広がっている。
そして中には40匹程の黒猿が石の段差の上から俺たちを凝視していた。
中に歩を進め、俺たちが立ち止まったのを確認すると猿が一斉に鳴き出す。
『キーー!!』
中から鳴り響く無数の鳴き声はまるで俺たちを挑発しているようだった。
黒猿……?
見渡す限り黒猿しかいないことに少し違和感を覚えるが、そんな考えは次の瞬間に吹き飛んだ。
ウオォォーーーーーー!!!
まるで咆哮のような突然の鳴き声に俺は驚きと恐怖のあまり目を見開く。
すると、奥に佇む一際大きい黒猿がジャンプし、地響きと共に俺たちの前に着地する。
デカイ!体長五メートルほどだろうか。鍛え上げられたその両腕には盾と剣が握られている。
「…あれが俺たちのターゲットっすか?」
天羽の生意気な口調は平常運転だが、どことなく声に覇気がなかった。
ウオォォーーーーーー!!!
直ぐに黒い頭猿はその大きな剣を振り上げ、俺らに向かって勢いよく振り下ろす。
「避けろ…!!」
西園先輩の声で我に帰って俺は咄嗟に横に飛ぶ。
空を切った剣は地面を抉る。
危なかった…当たれば間違いなく致命傷だ。
俺たちは体勢を立て直し、武器を構える。
ウオォォーーーーーー!!!
鳴き声を合図に、周りで見ていた黒猿が一斉に小石を投げ始める。
咄嗟に俺たちは植物軍器で身を守る。
「またかよ…!」
またもや乱れ飛ぶ石の痛みに内心イラつく。
小石ではあるものの、長い腕を使い投げられた石は命中すればかなりのダメージだ。
その時、腕の隙間から三芳野先輩の後ろで剣を振り上げている頭猿を視界に捉える。
三芳野先輩は飛んでくる小石に気を取られ後ろの頭猿に気付いていない。
「くそっ!!」
俺は自分のガードを下ろし、飛び交う石のなか急いで三芳野先輩に向かって走る。
イテッ…!
横腹に石が命中し突きつける痛みが体に走るが、止まる訳には行かない。
「三芳野先輩、危ない!!」
俺の声で三芳野先輩の危機に気付いた西園先輩もすぐさま走り出す。
「三芳野!飛べ!!」
せめて振り下ろされる剣を二人で受け切れれば……
「ハァァーッ‼」
西園先輩と俺は植物軍器で頭猿に力一杯殴りかかる。
頭猿の剣と俺たちの植物軍器がぶつかり、鈍く大きな音が響き渡る。
しかし、相手の体躯は俺たちの倍以上、二人の力を合わせても尚、相手のパワーが上回る。
「クソッ…ダメか」
レベルが違いすぎる……。
振り下ろされた剣を止めることはできず、反動で俺たちはそのまま地面に叩きつけられた。
「カハッ…」
少量の血が口から飛び出る。
「動け……動け俺の体…」
地面に倒れる自分の体を奮い立たせ、なんとか直ぐに立ち上がる。
衝撃で肋骨が数本折れたのだろう、胸に激しい痛みが襲った。
急いで西園先輩の方へ視線を向けるが先輩は倒れたまま立ち上がらない。
「先輩……西園先輩!!」
声を掛けるが反応がない。
急いで先輩の元に走り動脈を図る。
「脈はある…」
打ち所が悪かったのか、気絶しているだけだ。
最悪な状況だ…どうすれば。
考えろ、考えるんだ。
「ッ!!」
飛び交う小石の一つが当たったのだ。
視線を落とすと、地面に自分の血が滴っていた。
突然の酷痛はギリギリで繋ぎ止めていた自分の心と体に追い討ちを掛ける。
ダメかもしれない…
挫け掛けていた自分の心が音を立てて崩れ出す。
ウォォーーー!!!
その雄叫びに弾かれるように頭を上げると、そこには目を赤く光らせた巨大な黒猿が剣を降り上げていた。
「東!!」
「東君…!」
天羽と三芳野先輩が声を上げる。
ダメだ、もう遅い。避けられない。
俺はここで死ぬのか…




