『XX :危猿1』
暗闇に鬱々(うつうつ)とした森を駆け抜け、俺たちは 黒い猿の大群を追いかける。
「くそ、どこまで逃げるんだよ…」
俺はずれた眼鏡を人差し指で戻す。
前方の黒猿を視界には捉えているものの、なかなか追いつくことができない。
別行動になってから五分ほど経っただろうか。
黒猿にカバンを取られた時は少しパニックになってしまったが、冷静を取り戻した俺は三人を残して来てしまったことを少し後悔する。
「理玖たち、大丈夫かな…」
出来れば理玖の側にいておきたかった。
「東心配してるの?三人なら大丈夫だと思うよ」
前を走る西園先輩は続ける。
「雨夜が一緒だから」
いつもは雨夜先輩の言動に呆れっぱなしの西園先輩が自信に満ちた声でそう答えた事に少し驚く。
「随分信用してるんですね」
「まあね、雨夜はああ見えて間違いなくこの部隊最強だよ」
「雨夜ちゃんは…強いよ…だから…大丈夫…」
後ろの三芳野先輩も同意見のようだ。
先の凶獣との戦闘での紅林の活躍を見ても尚、先輩達がそう答えるからには雨夜先輩は相当な手練れなのだろう。
「クズ白は猿の餌になっちゃうかもだけどな〜」
「なんでお前はいつも口を開けば理玖の悪口を言うんだよ…!」
天羽の言い方には少し苛立ちを覚えるが今はいちいちあいつにかまっている暇はない。
すると前方に崖の行き止まりが見えてきた。
追い詰めた…
俺は武器を構えた。
しかし、黒猿たちは突如崖から飛び降りると、俺たちの視界から消えた。
「何⁉」
思わず大きな声で叫ぶ。
やっと追い込んだと思ったがその期待は一瞬にして砕け散った。
「どこ行きやがった」
森を抜けた俺たちは崖の前で立ち止まり下を見る。
そこには俺たちのカバンを持った黒猿たちが仲間らしき猿たちと合流していた。
合計で四十匹ほどの猿の大群はちょうど半分が白、もう半分が黒の猿である。
その中でも他の猿よりひとまわり大きい黒い猿と白い猿はおそらくあのグループの頭なのだろう。
「最初に襲撃された時、白と黒の二種類の猿がいてまさかとは思ったけど…。この猿の大群は本来別々の派閥の猿が合併したのもので間違いない」
西園先輩は見下ろしながら言った。
下では意思疎通が終わったのか、猿たちは洞窟に入っていった。
「勢力を伸ばしていたのはこれが理由か…」
そう呟くと先輩は少し考え込む。
恐らく次の行動を考えているのだろう、と言っても僕たちに残された選択肢は二つ。
このままあの洞窟に侵入するか、理玖たちが合流するのを待つかだ。
普通なら後者を選ぶが、今回は予備の燃料を取られたせいで俺たちの植物軍器は長くは持たない。理玖たちを待っている時間も惜しいのだ。
「よし!」
西園先輩は大きな声を上げ僕たちの方を向く。
「このまま僕たち四人でいこう。どうなるか分からないけど目標は猿の全滅ではなく、さっき確認した二匹のボスの討伐だ。戦闘は最小限に抑えて討伐し次第すぐに撤退する」
俺たちは心を決めると、先輩の顔を見て頷いた。
「じゃあ、ここの崖降りなきゃな…」
天羽は崖の下をもう一度覗く。
足を引っ掛けられる場所があるので時間はかかるがどうにか降りれそうである。
こうして俺たちは慎重に崖を下った。




