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『XIX :新域3』

十五分ほど走り続けた僕たちは凶獣カラスの群れを突き放すことに成功した。


「振り切れたみたいだね」


少し息をあげている西園にしぞの先輩は安堵の表情を浮かべている。


「ここで少し休憩にしよう」


僕たちは少し開けてた場所を見つけ、そこで休憩することにした。


「いやー、走った走った」


あずま君は座り込むと、リュックから水筒を取り出す。


自分も水筒を取り出し、水を飲んだ。


「うま…」


植物軍器フランザを展開するための水分補給とはいえ、やはり動いた後の水は最高である。


西園先輩は手を叩き休憩中の皆の注目を集める。


「よし!目的地が近いからここからは全員武装していくよ。最低限の荷物以外はここに置いていこう」


走るのに夢中で気付かなかったが既に僕たちは第三区域にいるようだった。


僕はリュックから燃料や水筒以外の物を全て取り出し立ち上がる。


「随分軽くなったね」


自分のリュックの軽さに驚いていると、


理玖りく、燃料つけ忘れてるぞ。ちゃんと付けろよ」


東君は僕の腰を指す。


「ああ、燃料ね。僕これからはつけない方向でいこうと思って」


「え…」


東君は口を開けたまま愕然がくぜんとしている。


「大丈夫か理玖、お前頭でも打ったのか」


東君だけでは無く周りの仲間も心配そうに僕を見ている。


それもその筈。

燃料なしで戦いに挑むというのは、僕たちヴィクテマにとってバット無しで野球の試合に望むようなものなのだ。


「流石に…燃料瓶は…つけた方が…。危ない」


僕の爆弾発言に普段自分の意見を言わない三芳野みよしの先輩も口を開く。


「なんかうまく説明できないんですけど、僕の植物軍器フランザは太陽光が無くても使用できるみたいなんで」


皆、困惑の表情を顔に浮かべる。東君も何と言ったら良いのか分からないようで部隊内はシーンとした。


清白すずしろ君がそういうなら大丈夫なんじゃないかしら」


沈黙を破ったのは紅林さん。


他のメンバーは顔を見合わせると、


「…そうだな。ピンチの時は俺らが守ってやる!」


東君は僕の肩に手を乗せる。


「ありがとう…みんな」


「じゃあ、出発しようか」


西園先輩がそう言った時だった。


「シ!……」


雨夜あまや先輩は顔を強張らせた。


突然流れた緊迫した雰囲気に全員が思わず動きを止める。


なんだこの気配…。全身に押し寄せるような視線…。


「囲まれてる…」


雨夜先輩が呟くと、皆一斉に植物軍器フランザを展開する。


キーーー!!


僕らが気づいた事を察してか、甲高い鳴き声を合図に四方八方から小石が飛んできた。


かなりの速さであちこちから迫る脅威を前に、咄嗟とっさに頭を覆うが防ぎきれず鈍い痛みが体に響く。


小石の尖った部分が体に当たっては黒い制服にジワリと血が滲んだ。


まずい、このままでは防戦一方だ。

打開策を練るため周りの状況を把握したいがガードを下ろすことができない。


なんとか腕の隙間から木の上を確認する。

そこには長腕を鞭のようにしならせ、こちらに石を投げつけている白い猿と黒い猿がいた。


キーーー!!


二度目の鳴き声が響くと、黒猿ランデルたちが一斉に木から飛び降り僕たちの方へ向かってきた。


剣を構えたいが、まだ木の上に残っている白猿ランデルが小石を投げ続けているためガードを下ろすことができない。


鋭い目つきで僕に向かってくる黒猿は目の前で大きく飛び上がる。


「……!」


そして、その長い腕を僕の顔面に振り下ろした。


「クソッ…!」


咄嗟に僕は植物軍器フランザでその爪を弾き返す。


右足を下げ踏み止まった僕に、黒猿は直様すぐさま左手で二撃目を入れるが。


しかしそれもなんとか剣で弾き返した。


弾き返された黒猿は一瞬を置くと姿勢を屈め、急に距離を詰めると右手を僕の懐に突き出した。


「!?…」


少し驚いた僕は咄嗟に反応し、大きく退く。


間一髪で間に合い、黒猿の手は空を切った。


なんだ…?攻撃?…ではなかった。

僕のカバンを狙っていたような…。


「きゃあ!」


突然の悲鳴に視線を向けると、三芳野先輩がカバンを黒猿たちにられていた。


まずい、助けなきゃ。


そう思った時、突然ピタリと石の雨が止んだ。


弾切れだろうか。


すると、一斉に黒猿は茂みの奥へと撤退し始める。

僕の目の前の黒猿も背を向けると、仲間と共にその場を離れた。


「はっ〜…」


「おい返せ!!!」


少し安心した僕とは反対にまなじりきながら黒猿を東君が追いかけている。


「先輩、こいつらこのまま追いましょう!荷物を取り返さないといけませんし、このまま付いていけば巣を発見できるかもしれません!」


どうやら荷物を取られたのは三芳野先輩だけではなかったようだ。


薄々気づいていたが恐らくこの猿たちが僕たちの今回任務の標的なのだろう。


「ええ、このまま追うわよ」


雨夜先輩の一言で僕たちが走り出そうとした時、


キーーー!!!


木の上から石を投げていた白猿が木から降り、僕たちの行く手を阻む。


通さんと言わんばかりに両手を上げ僕たちを威嚇いかくしてきている。


「チッ、くそ……!」


思わず天羽あもう君が舌打ちをした。


このままでは取られたカバンを取り返すことができない。

最悪諦める事も出来るが、長期の戦闘の可能性を考えると燃料と水筒を取られたのはかなりの痛手だ。


西園にしぞのさくらちゃん、天羽あもう)殿とあずま殿どの!私たちがこの白い猿を相手するから、このまま黒い猿の方を追って…!」


「わかった、あとは頼む」


西園先輩はそう言い残すと他の三人と共に走り出した。


白猿は逃さんと言わんばかりに、走り出す四人の方へ体を向ける。


「行かせるか!」


雨夜先輩は右手に槍を作り出すと白猿ランデルに投げつけた。


小柄の体から放たれたとは思えないほどのスピードでその槍は空中を飛び、一匹の白猿に刺さる。


「お前らの相手はこのアザゼルの使徒、雨夜舞子だ!」


彼女は緑光の粒子と共に空いた右手から今度はかたなを生み出し相手に突きつける。


さっきも気になったのだが、植物軍器フランザとして出せる武器は皆一種類と決まっている。

にも関わらず雨夜先輩は毎回違う種類の武器を生み出している。


そんな便利な能力の植物軍器フランザもあるのか…。


「私たちも頑張りましょう」


横を向くと紅林さんは剣を構えていた。


「そうですね…」


足手まといになるわけにはいかない、残されたこの三人で僕たちはこの状況を抜け出さなければならないのだ。


僕は覚悟を決める。


右手の剣を握り直し、一歩目を踏み出した時だった。


"キーーン"


「痛っ…!」


突然頭の中で反響する音と共に鋭い頭痛が襲う。


あまりの痛さに僕は頭を抑えた。


「なんでこんな時に…」


ズキズキと頭が痛む。


せめて二人の足手まといにならないようにと、今にも頭を抱えて地面にうずくまりたくなる衝動に必死に抗う。


ちらりと宙を舞う紅林さんの赤髪を視界に捉え、僕は必死に足へ力を込めるが…


「もうダメだ……」


僕はあまりの激痛に耐えられず、込めていた力を緩めた。


『あ〜…もう待ち侘びたよ〜!はい、交代…交代…」


突如脳内に響いたその声と共に、僕の視界は真っ白に塗りつぶされた。



次話からしばらく東視点に切り替わります。

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