『XVIII :新域2』
「なんだ…」
死にに追われているかのように泣き叫び羽をばたつかる頭上の鳥の大群に、僕たちは唖然とする。
よく見ると灰色の鳥を黒い凶獣が襲っている。
「ん…?」
急に横から気配を感じ左を向くと、黒い弾丸のような何かが目の前に迫っていた。
避けなきゃ……体に力を込めるがピクリとも動かない。
「危ない!!!」
すると鉄と鉄がぶつかる鈍い音が鼻先で響いた。
僕は面前で散った火花に言葉を失う。
「雨夜先輩…!?」
しかし目の前に飛び込んだ雨夜先輩を認識し、途切れかけていた意識が戻る。
凶獣の突進を間一髪で弾き返した雨夜先輩は、即座に空いている左手に槍を精製し、それを凶獣に突き刺した。
赤い瞳を持った凶獣は飛び交う紫の血と共に地面に落下する。
「大丈夫?」
頬に紫の血をつけた雨夜先輩は僕の方を振り向く。
一瞬で訪れた死の淵に体が震え、言葉が詰まる。
「はい……助かりました…」
「大丈夫か、理玖?」
東君が声をかけた。
「大丈夫、ちょっとびっくりしだたけ…」
「あれに反応するとか、先輩やっぱすげーな。気付いたら凶獣が死んでたって感じだったよ」
「そうだね…」
僕は苦笑する。
違う…
突然だったが気配には気付いた。反応もしていた…けど体が動かなかった。
これが死の恐怖なのか?
少し入団試験の時とは違う感覚だった。
僕は自分の掌に視線を落とし、拳を握った。
「大丈夫、大丈夫…」
すると、仲間の凶獣が倒された事に気付いた他の凶獣がこちらに急降下してくる。
「…俺がやる」
声がした方向を向くと、天羽君が真剣な面持ちで弓を構えている。
彼は弓を持っていた左手を放すと緑の矢が一直線に飛んでいった。
静かに放たれた矢は一羽目を貫通し、二羽目に突き刺さる。
致命傷をおった二匹の凶獣は力を失い落下する。
しかし仕留め損ねた周りの凶獣は危険を察知し、さらに加速してこちらに向かってくる。
「俺がやる」
直ぐにもう一度弓を構えた天羽君の弓の弦には三本の矢が掛けられており、呼吸を整え狙いを定めると、全ての矢を同時に発射した。
勢いよく放たれた矢は三つとも凶獣カラスの額に突き刺さる。
天羽翠楽。棘のある言葉に目が行きがちだが、彼もヴィクテマ入団試験を難なく突破した疑いようのない実力者なのだ。
しかし、凶獣たちは額に弓が刺さり血を流しているにも関わらず、力を失うどころか加速し続ける。
「何…?」
「まずい…」
横にいた雨夜先輩はそう呟くと、空中に飛ぶため大きくしゃがみ込む。
その時、
紅髪の少女は光り輝く緑の粒子と共に両手から剣を展開した。
彼女は目にも止まらぬ速さで木の枝から枝へと移動し、勢いをつけ大きく飛びつ。
空中で彼女は大きく剣を振り被ると、急降下し続ける凶獣に向かって右手の剣で額を斬りつけた。
真っ二つに斬り裂かれた凶獣を確認し、その勢いのまま体を斜めに傾け二匹目の凶獣の突進を避ける。そして避けて体の横を通り過ぎた凶獣の頭を今度は左手の剣で飛ばしたのだった。
空中を舞う彼女は遠心力を使い体勢を立て直すと、最後は両手の剣を縦に振り下ろし三匹目の凶獣の両翼を切り落した。
紅血の剣姫プリンセス、施設内No.2の実力は伊達じゃない…。
地面に一度も足を着けずに、一瞬で三匹の凶獣を倒したのだ。彼女の動きは人間離れしていると言っても過言では無い。
紅林さんはタンと軽い音をたて、地面に着地するとこちらに振り向く。
「急いでここを抜けましょう」
頭上を飛ぶ凶獣を全てを相手にしていられないと判断した皆は紅林さんの言葉に頷くと、一斉に走り出した。
足元に視線を落とすと、両翼を失った凶獣が地面でもがいており、真っ黒な体は紫の血で染まりきってしまっている。
かわいそう…などという感情は出てこない。
この凶獣は負うべき罰を負ったのだ。
以前ならそうは思わなかったかもしれない。心境の変化?いや違う…これは経験を通しての価値観の変化に違いない。
ここは戦場、やるかやられるかの世界なのだから。




