協力者と過去からの来訪者。
なんと主人公達の目の前に現れたのは、若かりし頃の善とシャクシだった。そして彼女達がこの現代に来た理由とは…。
やはりボク達の思った通り、突然現れたこの女性は善さんで間違いなかった。あれから色々と誤解はあったものの、シャクシさんの落ち着いた様子を見た善さんは、これまでの経緯を話してくれた。
まず、この目の前の善さんは過去から時間を辿って来たという事。何故そうしなければいけなかったのか?という事なのだが、この時代よりおよそ百四十年前の過去の世界で、善さんが住む空間に何者かが侵入してきて、創り上げた空間を半壊させてしまったらしい。
そして善さんがそれを阻止し、危機を感じたであろうその謎の人物は、『空間転位』をしながら逃げたが、善さんの追跡を振り切る事が出来ず、『時間逆行転位』というチカラを使ってこの時代に逃げた。そこを善さんも同じチカラを使い追いかけて来た。という事らしい。
因みに、シャクシさんを連れて追跡していたのかを尋ねたところ、万が一自分に何か起きても大丈夫な様に、この時代に着いてからシャクシさんを創り出したとの事。善さんが倒れても、現し身であるシャクシさんの身体があれば、善さんは元に戻る事が出来るらしい。
では何故現在で善さんが死んだ時、シャクシさんの身体に魂を移さなかったのか?それをこの目の前の善さんに尋ねてみたが、年経た自分が何を思いそうしたのかまでは分からないと言っていた。その事を聞いてから、当の本人に未来の死を知らせてしまった失態に気付いたボク。
何度も謝罪するボクに善さんは、『生あるもの皆いつかは死にます。驚く事ではありません。』と答えただけだった。善さんらしいと言えばらしい答えだ。
「ところで善さん、その謎の人物だけど…、特徴とか覚えてますか?今のボク達が抱える問題と関係あるかもしれないので、その人物探しをお手伝いさせてもらいたいのです。」
「あら…。それは願ってもない協力の申し出ですね。是非お願いしますよ。案外未来の殿方もお優しいのですね。うふふ…。アタシは貴方の事、お気に入り帳に記入してもよろしいかしら?うふふ。」
ボクの申し出にそう答えた善さんは、着物の胸元から細長い紙の束を取り出し、何やら記帳し始めた。書き終わったのか、手を止めて一瞬洋子さんに視線を移したが、即座にボクに向き直りながら、帳簿らしきモノを胸元にしまった。
どうやら洋子さんの名前は記帳しなかったらしい。その様子を見て洋子さんが少しムクれていた。後で慰めておかねば。というか、もしかしてこの出来事があったから、ボクはお気に入りさんと呼ばれる事になったのではないだろうか?まぁ今となっては確かめ様がないのだが。
「えっと、先程仰っていた特徴ですが…、信じてもらえるか分かりませんが…、その…。か、顔が半分笑い、半分怒りの表情をしていて…。とても一人の人格では無かった様子の人物でしたし、その…、手がよ、四本もあったのです…。」
その答えを聞いた瞬間、ボクの背筋は凍りついた。洋子さんの目にも恐怖というか、緊張感というか、そんな驚きにも似た表情を見せていた。多分ボクも同じ様な顔をしているに違いない。そして、この善さんの話を信じるに値する記憶がボク達にはある。
「そ…、それは…、見間違いではないですよね?」
実は見間違いだったの。と言う言葉を期待しながらも、ボクは声を震わせながらそう質問していた。
「対峙して戦いましたので、見間違う事はありません。今、申し上げた通りの姿を記憶しております。これを信じて頂く他ありません。」
「あ、いえ。信じていないという事では無いのです。ただ、善さんが今仰った通りの人物だとしたら、そいつは相当の手練れだと思われます。倒せるかどうか…。」
そう答えたボクの言葉で、善さんが何を知っているのか尋ねてきたので、ボク達の知る、あてはまる人物『最善、最悪』の事を知っている限り全て話して聞かせた。
全てを聞き終えた善さんは、しばらく言葉を失っていたが、空を見上げて何やら独り言を言いだした。正確には何かを唱えているといった感じだ。しばらくして善さんが口を開く。
「今、感覚を使いヤツの行方を探ってみたのですが、なにやら悪い雰囲気を纏った者達の気配を感じました。その中にヤツはいる様です。ここからかなり南の様ですが、港…、でしょうか?沢山の水の気配も感じました。」
「稜くん、港って言ったらあの港町じゃないのかな?以前もあの港に敵がたくさん出て来たし…。」
善さんのその説明に、今まで黙っていた洋子さんが確信した様にボクに投げかけてきた。恐らく洋子さんの言う通り、診療所があるあの港町で間違いないと思う。ここからちょうど南に位置しているというのも合っている。
「洋子さんの言う通りだとボクも思うよ。善さん、その場所に心当たりがあるんだけど、その前に、この時代の頼れる仲間にも協力をお願いしたいんだけど、いいかな?」
「なるほど、戦いになるのであれば、味方は多いに越した事はありませんね。アタシも是非、この時代のシャクシにも会ってみたいと思っていましたし、是非案内お願いしますよ。」
〜 川上市 自宅 〜
『空間転位』で自宅の庭まで戻って来たのだが、帰ってきたボク達に大はしゃぎのノイジー。それを見た善さんが気絶しそうになる程驚いていた。幼いシャクシさんは怖がっている様子は無いものの、ノイジーに近付こうとはしなかった。あれだけデカいのだから、普通はそういう反応で間違いないと思う。
自宅に入るなり、ボクは直ぐにシャクシさんに念を送ってこちらに来る様にお願いしてみた。十分も経たない内に、シャクシさんがキッチンへと『空間転位』で現れた。本当はこれダメなんだけどね。誰も見ていないから大丈夫だと思うけど。
案の定というか、ボクの予想していた通り、シャクシさんは言葉を失い、両の目からは大粒の涙をボロボロとこぼして、その場にへたり込んでしまった。そのシャクシさんに、目の前の善さんの事を説明する。
「はぁ…、どんな形であれ、御前様にまたお目にかかれる日が来ようとは…。お気に入り様、本当にありがとうございます。」
「この素敵な女性がシャクシの未来の姿なのですね。そしてその心。アタシと共に生きた時間は、とても有意義で素敵なモノだったのですね。未来のシャクシ、感謝しますよ。」
善さんのその感謝の言葉に、シャクシさんが照れた様子でモジモジしていた。幼いシャクシさんは、何が何だか分からないと言った顔で、善さんと大きなシャクシさんを交互に眺めていた。
他にも協力者がいた方がいいと判断したボク達は、善さんにもう一度感覚で敵の様子を探ってもらった。結果、まだ奴らに動きは無いらしく、今日は一日自宅で食事でもしながら、今後の作戦を練ろうという事に決まった。
「じゃ、稜くん、今日は伊勢海老だから、楽しみに待っていてね。ふふふ〜ん…。」
そうボクに言い残して、洋子さんは街へと買い物に出掛けてしまった。最近はボクを置いて買い物に行く様になってしまい、少し寂しく思う。しかし、今日は善さんもいるので、家を開ける訳にもいかない。と言うものの、実際は、現代のシャクシさんと善さん、幼いシャクシさんの三人で盛り上がっている様子だ。
微妙に疎外感を覚えたボクは、寂しさ紛らわせにテレビの電源を入れてみた。子供番組や、株の相場、料理の特番など、どれもボクに興味が無い番組ばかりだが、音が聞こえているだけでも寂しさが紛れると思い、そのままつけておく事にした。
そうしている内に、少しウトウトしてしまっていた様だ。リビングのソファーでうたた寝するボクの横に、いつの間にか川上さんが座っていた。母との密談が終わったのだろう。そんなボクの気持ちを見透かしたかの様な言葉が、川上さんから飛び出してきた。
「伊町さん、お母様の話しですが、どうやら街を騒がせている敵のシッポを捕まえたみたいでしたよ?なんでも、以前倒した筈のあのバケモノとかなんとか…。伊町さん達も何かご存知なのでしょ?」
どこかでボク達の行動を見ていたかの様な、川上さんの鋭い質問。思わず川上さんを見つめたまま固まってしまうボク。
「あの…。そんなに見つめられると…、せっかく折り合いをつけた私の心に、再び火がついてしまいますよ?因みに、いつでも受け付けオーケーですから…。うふふ。」
「だ…、いや、あの…。質問に驚いただけですよ…、アハハ…。」
「うふふ、冗談ですよ?伊町さんのそういう意外なところが可愛いんですよね。」
「あ、アハハ…。からかわないでくださいよ、もう…。あー、先程の質問ですが、母とそう変わらない情報を持って帰りましたよ。過去の善さんをこの家に連れてきてるんですよね。」
「え、とういう事は、あちらのお部屋にいる女性が、過去の善さんなのですか?どうりで洋子さんが大人しく自宅に上げた訳ですね。以前私なんて……。」
そこまで言いかけて、川上さんが黙ってしまう。過去に洋子さんと何か凄いやりとりがあった事は間違い無い様だが、今は掘り下げて聞く必要もないだろう。ソッとしておこう。
しばらくして洋子さんが買い物から帰り、念を送って呼んでいた面子も揃いつつあったので、虚ろな表情で空を見つめる川上さんをその場に残し、ボクはキッチンへと移動した。
ゆうこさんや寺ッチも、あと二時間もすればここに姿を表す事だろう。あまり巻き込みたく無かったのだが、マスター親子もこの場に来ている。後は、ユキさん、母さん、父に喜一、そして今日会った過去の善さんに幼いシャクシさん、現代のシャクシさん。今集まってくれたのはこの面子だ。
「今日は突然の呼び出しに応じてくれて、どうもありがとうございます。早速ですが、過去からの来客をご紹介したいと思います。百四十年前から来てくれた善さんと、幼いシャクシさんです。詳しい話しはゆうこさん達が来てからという事で、まずは洋子さんの手料理を皆んなで頂きましょう。」
紹介と同時に、皆んなからどよめきの声が上がったが、洋子さん自慢の伊勢海老料理が出てくると、今はそれどころでは無いと言った感じで、賑やかに食事が始まった。
母の密談も、主人公が掴んだ情報とそう変わりない様子。何故母は主人公にこの事を隠しておきたかったのか?次回それが明らかに!!なるかも?




