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自己満足、他が為成らず。一年後…  作者: 赤茶猿マン
再出発した自己満足編
27/29

ぶっつけ本番。

別世界での主人公も治癒の方法で悩んでいたが、やはりここでもモラルに影響があるこの方法はいただけないようだ。



 あれから色々と考えてはいるのだが、中々良い案が浮かばずに、早くもお昼ご飯の時間となった。病院の食堂でも良かったのだが、洋子さんに会う確率が大きい為、ボクは近くのコンビニでお弁当を買って公園で頂く事にした。


その公園だが、意外にもお昼時は商社マンらしき格好の人が集っていた。空いているベンチに腰を下ろして、先程購入した唐揚げ弁当を頂く。


《さて…、病院に戻っても、さっきの様に沈黙が続くと気まずいなぁ。自然に彼女の心臓を治癒出来ないものか…。いっそ医者に成り済ますか?って、顔でバレるか…。》


 いつも少食のボクだが、コンビニの弁当は、ご飯が少し少ないと思う。ちょっと物足りなく思い、病院に行く前に再びコンビニに寄る事にした。ゴミも捨てたかったしちょうど良い。


食べ終わって辺りを見渡すと、先程まで多かった公園も人影が無くなっていた。ところが、立ち上がる時に、誰もいないと思っていたその場所に、人が立っているのが横目にチラリと入り込む。


ハッ!としてそちらに視線を向けたが、勘違いなのかそこには人の姿は無かった。見えざるモノが見えたのか?などとアホな事を思いながら、怖くは無いのだが、怖くは無いのだが、ボクはその場を足早に去った。


 やがてコンビニが見えてきて、少しホッとする。中に入ると、軽く摘める物を手に取り、レジへと向かう。が、またしても視界の端に、こちらを伺う何者かの姿が映った気がした。今度は直視せず無視する形でレジへと向かい精算を済ませた。


外に出てチラとだけ盗み見してみるが、やはりそこに人影は無かった。切羽詰まって気が高ぶっているせいかもしれない。そう思う事にした。


 病院までの道のりでも、度々視線を感じる事があったのだが、確認するのが少し怖かったので、気付かなかった事にして先を急いだ。少し怖かったのだ。少しだ。


病院に入ると気持ちが落ち着いた。黒いモヤだらけで視界がスッキリしないが、人気が無い公園よりはマシだと思えたからだ。


《あ、また…。誰かがボクを見てる気配が…。というか、ボクにそんな事を知る能力があったのか?》


どうでも良いくだらない自問自答をしながら、奈美恵ちゃんの病室へと再び戻ってきた。中に入るとちょうど食事を終えて歯磨きをしている奈美恵ちゃんの姿があった。ドアが開いたままだったので、そのまま入ってしまった。


「ただいま…。もうご飯終わったの?お菓子買ってきたんだけど、一緒にどうかな?」


「うが、ごがげいがさい…、おうはぎがぎしぎゃっだぎょ…。」


ボクの言葉に何か返してくれているのだろうが、歯磨きしながら口を開くので、何を言っているかサッパリだ。その事に気付いてくれたのか、彼女が慌ててうがいを始めた。そして再度口を開く。


「ごめんなさい、えへへ。おかえりなさい、もう歯磨きしちゃったよ。って言いたかったんです。」


そう言い直す奈美恵さんの笑顔は、イタズラな感じも含まれていて、とても可愛らしいと思えた。と、その時、またあの視線を感じた様な気がした。今度は振り返ってみたが、やはり誰もいなかった。


「どうかしましたか?っと、それより、屋上に行きませんか?私の日課なんですよ。お日様の光もキチンと浴びておかないとですよね。」


「あ、そうなんだ。…、うん、お供させてもらうよ。」


少し戸惑ってしまったが、例の事をそれとなく話せる良い機会かもしれいと思い、一緒に屋上へと上がる事にした。戸惑ったのは、昨日洋子さんとそこで顔を合わせていたからだ。


 今日の屋上はとても広く感じられた。昨日の様にシーツが干されていないからかもしれない。この景観を見て初めて気付く事があった。またなのだが、そう、記憶の中で、ここは奈美恵さんが告白してくれた場所だったのだ。


風になびく彼女の髪が、記憶の中の彼女と重なって見える。しかし、あの時と違うのはボクの気持ちだ。彼女の事を女性として見る度に、脳裏に洋子さんが現れる。そしてたまらなく愛おしいと思える。


だが、今はそんな事を考えている場合では無い。治癒の事を切り出してみなくては。


「ね、奈美恵ちゃん。もし…、もしだよ。ボクがキミの病気を治せる、特殊なチカラを持っていると言ったら、信じてくれるかな?」


どう返ってくるかは分からないけど、頑張って勇気を出して言った。後は彼女がどう反応して返してくれるかを待つだけだ。何故かボクは凄く緊張している。まともに顔を上げて奈美恵ちゃんを見れない。


「ちょっと!大丈夫!!キミ、誰か他の看護師に知らせてくれる!」


奈美恵さんの返事を待っていると、背後から叫び声が聞こえてきた。振り返ると、若い看護師さんがいたのだが、どうやらボクにその言葉を投げかけている様子だ。驚いてアワアワしていると、再び怒鳴られた。


「ちょっと!何ボーっとしてるの!彼女倒れてるじゃない!!ここは私に任せて、早く看護師を呼んできて!」


彼女が倒れている?そう言われた事を頭の中で復唱しながら、看護師さんが指差す方へと視線をやると、奈美恵さんが柵の手前で倒れているのが見えた。さっきの看護師さんが慌てて様子を見ている。そして再度ボクは怒鳴られ、ようやく事態を把握して、階下にいた看護師さんにこの事を伝えた。


 奈美恵さんがストレッチャーに乗せられ、緊急処置室と書かれた部屋へと運び込まれる。ボクも入ろうとしたが、看護師さんに制されて弾き出されてしまった。そこへ奈々子さんが駆けつけてきた。


「伊町さん、いったい何が!あの子は、あの子は無事なんですか!?」


「すみません、ボクがついていながら。突然倒れてしまったのです。今はこの処置室の中に…。」


「いえ、ごめんなさい、動揺してしまい失礼な事を…。」


これが前に奈々子さんが言っていた発作なのだろう。このまま戻らないなんて事にならないといいが。かと言って、今この中に入っても、つまみ出されてしまうだろうし、下手すると病院から追い出され兼ねない。


 処置室の前で、祈る様に立ち尽くしてる奈々子さんの肩を優しく摩る。ボクもどうしていいのか分からず落ち着かないでいたからだ。とその時、処置室のドアが開き、看護師さんが顔を覗かせた。


「お母さん、彼女が呼んでいます。中へどうぞ。」


その伝え方がボクにもどういう意味なのか理解出来た。勿論奈々子さんも同じ事を思ったに違いない。少しフラついた奈々子さんを、横からしっかりと抱きとめて支える。


「伊町さん…、怖いんです…。私…、あぁぁ…」


「奈々子さん、ボクも一緒に行きますから、彼女の側に行ってあげましょう…。」


ボクはそう奈々子さんに伝えると、肩をしっかり抱いたまま中へと一緒に入って行く。沢山の器具を身体に繋がれたら彼女の姿。それは記憶の中の彼女と同じだった。この記憶がボクを現実に引き戻してくれた。


奈美恵さんの横たわるベッドの脇まで歩み寄り、奈々子さんに手を握らせる。そして、それと同時に奈々子さんに耳打ちをしてみた。


「奈々子さん、ボクを信じてくれませんか。彼女を元気にしてみせます。健康な状態にしてみせますから、ボクを信じて協力して下さい。この場から人を遠ざけて下さい。決して知られてはいけないチカラを使いますから。いいですね?」


そのボクの言葉で、奈々子さんの肩の震えが一瞬止まり、奈美恵さんを見つめたまま、静かに頷いて見せてくれた。そして担当医であろう医師に向き直り言葉を発した。


「先生、良かったら、少しの間でいいですから、私達だけにして下さいませんか?」


奈々子さんのその言葉に、医師が黙ったまま頷き、看護師を連れて部屋から出て行く。その後を追う様に奈々子さんも出て行こうとするので、ボクは慌てて引き止めた。


「奈々子さんにはお手伝いして頂かないとならないので、ここにいて下さい。奈々子さんが口外しない事、ボクは信じてますから。お願いします。」


 先ずチカラの作用を説明して、それから方法を。直接触れる必要がある為、最低限の範囲で胸元を開けたままで押さえていてもらう。


そして、静かに開かれた胸元に手を置き、記憶で感じた通り集中する。すると、手のひらが熱くなり、奈美恵さんとボクの手のひらの隙間から光が漏れ出した。時間にして五秒程輝き、段々と消えていった。手のひらの熱も引いていき、何も感じられなくなったのを確認して手を下げる。


「奈々子さん、胸元を戻してあげて下さい。これで大丈夫なはずです。」


丁寧に胸元のボタンをかけている奈々子さんのその手を、奈美恵さんがガシッと音がするほど力強く掴んだ。


「お、お母さん、私…、さっきまで苦しかったのに、あぁ、痛みも無いのよお母さん!あれは、伊町さんが言っていた事は本当だったのですね!」


「はは、聞いていたんだ…。うん、検査したら分かると思うけど、もう心臓は何とも無いはずだよ。」


屋上でのボクの言葉は届いて無かったと思っていたが、ちゃんと奈美恵さんに届いていたみたいだ。


「あ、ありがとうございます伊町さん…、なんて、なんてお礼を言っていいのか…うぅぅ…。」


そう言うと奈々子さんはその場で泣き崩れてしまった。その後、医師たちが部屋に戻ってきて、ちょこんと座っている奈美恵さんを見て驚いていたのは言うまでも無い。「奇跡だ!」と言って処置室で騒いでいたのは何を隠そう、お手本になるはずの医師その人だった。

ぶっつけ本番ではあったが、無事に奈美恵を救う事に成功した主人公。これで記憶の中の後悔を、再び味わう事は無いだろう。その調子で他の患者さんも治せよな…。私のこの口の悪さもそれで治せんのか?

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