的中率百パーセント。
昨日決意した通り、今日は洋子に会いに行くのか伊町稜!?
朝、いつもの時間に目覚ましが鳴り起きる。仕事に行く時間にセットしたままだった事を思い出し、再び布団にくるまり目を閉じた。
誰かがドアをノックしながら挨拶の言葉を繰り返しかけるその声で目が覚める。二回目の起床だ。時計を見ると午前十時に少し届かないくらいだった。誰だろうか?と目をこすりながらドアを開けるが、来客は二件隣のドアの前に立っていた。
《うわぁ、恥ずかしい…。しかし、そろそろ起きて支度しないとな。今日はあの病院に行くと決めたからね。》
一通りの支度を終えて、記憶の中でしか覚えがない『チカラ』というモノを試してみようと思う。確か、知らない場所には行けないはずだが、病院の近くの公園なら行った事がある。あそこなら人も少ないし、突然ボクが現れても、誰かに見られる可能性は少ないだろう。
少し緊張するが、記憶を辿り、思い出しながらチカラを使ってみた。言葉と一緒にだ。
「空間転移!」
全身が浮いた様な、フワッとした感覚に襲われたと思ったら、間髪置かずにエレベーターが止まった時の様な、グワァンとした感覚に襲われた。更に、目を開けたままだったからか、視界がグニャグニャして気分が悪くなった。軽い吐き気がする。
確かに公園に瞬時に移動してきていた。が、目眩がするので近くのベンチに身体を預けて少し休む事にした。
《次からは目を閉じて移動しよう…、こんな罠があるなんて…。うぅ…。》
半時間程ベンチで休み、目眩が治ったのを確認して、上層部分が見えている病院へと足を向け歩き出す。昼も近いというのに、病院までの道のりで、他人とすれ違う事は殆ど無かった。これならば公園に突然現れたボクを見た人もいないはずだ。
徒歩で五分くらいで目的の病院へと辿り着く。記憶の中の病院と同じ様子だったので、この記憶を使って直接ここに転移しても良かったなと悔やんでしまった。目眩がしても病院だから安心だ。
洋子さんがどこにいるのか?という事だが、病院関係者に尋ねても良かったのだが、ボクの関係を聞かれた時に、答えようが無い事に気付いた。なので今、ウロウロと捜索中だ。
これまた記憶を頼りに屋上へと上がって来た。真っ白のシーツがキレイに干されていた。風でヒラヒラとはためくそのシーツの向こう側に、白衣を着た看護師さんが見え隠れしている。
記憶の中の洋子さんは、若かりし洋子さんの印象が強く、初めて出会った頃の洋子さんの姿が良く思い出せずにいた。しかし、シーツを一所懸命に干す看護師さんが、その洋子さんだと思う。若い洋子さんと比べてみると、面影がある。
ぼくは勇気を出して彼女に歩み寄り声をかけてみた。
「こ、こんにちは。大変そうですね。お手伝いしましょうか?」
「あら、こんにちは。うふふ、気持ちだけ貰っておくわね。これは私の仕事なの。」
そう返してくれる彼女は、やはり若い洋子さんの面影を残していた。目元や口が彼女だと分かる。ならば今の状況を尋ねてみる必要がある。
独り者であれば、ボクの気持ちをストレートに伝えて、善さんに記憶を流し込んでもらう事にする。そうではない場合、辛いけれど、相手を傷つける事にもなるので、ボクが諦めて、洋子さんへの思いは胸にしまっておく事にする。
「あ、あの…、えと…。その、お聞きしたい事が…、あるのですが…。」
「うん?どうしたのかな?…、あ、と、ちょっと待ってね、電話が…。」
意を決して尋ねてみようと話しかけたのだが、どうやら彼女に電話がかかってきたらしく、今はその相手と会話をしている。たまに笑い声が聞こえてくるが、それがボクの不安を一層煽る事になる。やがて電話を終えた彼女がこちらに向き直り、声をかけてきた。
「ごめんなさいね途中で。今日が結婚記念日だって忘れてて、主人から電話が来たのよ。私ってそそっかしいから。あっと、で…、聞きたい事って何だったの?」
「あ、いや…、し、幸せそうな話しを聞いちゃったから忘れてしまいましたよ。アハハ。」
ボクが聞かずとも答えを彼女の方から差し出してくれた。不安的中といったところだ。しかも結婚までしていると分かった。これは悩む事も無く諦めなくてはならないレベルだ。
「あ、お仕事の邪魔をして申し訳ありませんでした。気にしないで下さい、お幸せに。」
ボクは彼女の顔をまともに見れずに、諦めの気持ちと一緒に別れの言葉を告げ、病院を後にした。
転移してきた公園へと戻り、再びベンチに寄りかかる。直ぐに気持ちは切り替える事が出来ない。が、彼女が結婚までしている以上、ボクがどう足掻こうがどうする事も出来ない。
《お気に入りさん、どうでしたか?アタシは気が引けたので病院へは行かなかったものですから。》
《善さん、気にしないで下さい。…洋子さんは既に結婚していました。一緒になる事は諦めます。》
《そうですか…、ではあの方と上手くいくようにお祈りしていますよ。》
《あ〜、それなんですが、ボクの洋子さんを思う気持ちは変わりませんから、彼女とこのままお付き合いするのも残酷だと思うのです。だから彼女とも終わりにします。》
《そう…ですか。お気に入りさん、貴方の幸せを願う気持ちは変わりません。ずっと見守っていますから。》
善さんのその言葉に、ボクが答える事はなかった。今は誰とも話しをしたくなかったからだ。辺りが暗くなるまで、何を考えるでもなくベンチで過ごした。
《こんな時はお酒でも飲むか…、確か店長から聞いた居酒屋さんがこ近くに…。》
そう思い立ち上がった時、携帯に着信が入った。番号を確かめてみると、彼女からの電話だった。どうやらこの近くにいるらしく、ボクが公園にいると伝えると、直ぐに行くから待っていてくれと言って電話は切れた。
五分待たずして彼女が公園に現れた。先程善さんに宣言したからという訳では無いが、これも縁だと思い、彼女にはこの公園でボクの気持ちを伝え、これっきりにしようと思う。
黙ったままボクの話しを聞いてくれた彼女は、ボクの話しが終わると、しばらくの間、声を押し殺して涙していた。これは僕自身の戒めでもあるのだ。ここで彼女から逃げる訳にはいかない。彼女が涙する姿を見て、どんなに居た堪れない気持ちになっても、この場から逃げ出す事をしてはならない。
やがて泣き止んだ彼女は、ボクの目を見て「サヨナラ」と短く一言だけ残して、ボクの元から去って行った。これは自分なりのケジメである。あちらがダメだったからこちら。という都合のいい事は出来ない。
更に落ち込む自身を慰める為に、ボクは先程実行しようとしていた居酒屋行きを決行した。大衆食堂と言う言葉が似つかわしい居酒屋で、ボクは二人がけのテーブルに案内され、焼酎を一升瓶で注文した。
何度も注いでは飲み、を繰り返すが、治癒のチカラのせいか、中々酔うまでには至らなかった。初めは空いていた店内も、段々とお客が増え、店内は次第に賑やかになってきた。そこへ四、五人の男女がやってきて、相席でも構わないといって、それぞれ座る場所を確保している様子が視界に入った。
「あの、ここ空いてますか?良かったら相席させて下さい。」
ボーっと他所を見ていたボクに声がかけられた。二人がけのテーブルのボクの向かい側は空席だ。どうぞどうぞと手を差し出して合図する。
「良かった、ありがとうございます。あれ、貴方は確か…、病院の屋上で…」
再びボクに話しかける向かい側に座った女性の声に、ボクは答えようと顔を上げた。そして、せっかくほろ酔いまで持っていけたのが、一気にシラフに戻る。治癒のせいだけでは無い。目の前の女性に目を奪われたからだ。
病院へと行き、現状を確かめようとする主人公だが、自らが尋ねる前に予感していた事が的中してしまう。更には付き合っていた彼女にも別れを告げる。せめて自分を慰めるくらいはと居酒屋に行く主人公だが、相席を頼まれたその女性を見るなり様子が変わった!?一体どういう事なのか!!




