計画的ズル。
何故こんな事になっているのか!?その答えが今明かされる…
この上手く出来すぎた状況は、とてつもなく有難い事なのではあるが、姿無き善さんや還りの鈴等、消滅しなかったモノが存在する事がどうしても気になるのだ。知らない事があっても当然の世の中だが、これは知っておかないと、後々不安が押し寄せてくるとハッキリ分かる事態だ。
善さんの言うズルとはいったいどういった事なのか?快く教えてはくれないだろうと思い、遠回しに質問を繰り返していたのだが、勘が鋭い善さんだ、当然ボクの意図に気付き、逆にハッキリ聞く素直さを持ちなさいと怒られてしまった。
《少し長くなりますが、途中で口を挟まず最後まで聞いて下さい。二度目の死を体験したアタシは、ある方に虚無へと招かれました。そこで、全世界の真実を聞かされる事となりました。その方はご自分を『監視者』と仰っており、話しを聞かされる内に、世界を創造した方である事も理解したのです。『神』か?とお尋ねしましたが、それは我々人間の想像の産物であり、そんなモノは存在しないと仰っていました。》
なるほど、しかしその『監視者』が世界を創造したのなら、紛れもなくボク達人間が知るところの『神』ではないのだろうか?そんな疑問を抱きつつ、善さんの語りを邪魔する事なく聞き入った。
《そして、ヤツらとアタシ達が言っていたヤツらも、監視者様がお創りになったそうです。本来の名は、悪事を働き罪を犯し過ぎた世界を滅ぼす事の出来る『断罪者』だそうです。ですが、昨今の『断罪者』たるヤツらは、己のチカラを誇示し、罪を犯した者を正す事を怠り、嬉々として世界を滅ぼす姿が伺えた。と仰っていました。それから、その『断罪者』ですが、ヤツらはあの二体だけではなかったのです。監視者様がお創りになった個体は全部で百体程だとか。》
そこまで聞いてボクは寒気を覚えた。別に外気が寒いからそう感じたのでは無い。ヤツらがあの他にも百体近くいたと知ったからだ。もし勝ち続けたとしても、あんなヤツらと百戦近くなんて、間接的に地球が倒壊してしまうのは間違いないだろう。そう考えて寒気がしたのだ。
《しかし、先にも申し上げた様に、ヤツらの所業が余りにも一方的で残酷なモノだったので、監視者様はある決断を下されたのです。これはお気に入りさんと最後のお別れをした、あの少し前に監視者様より接触があった時の話しです。監視者様はこれ以上は見過ごす事が出来ないと仰り、自らの手で『断罪者』を全て討ち亡ぼす事を決意なされたのです。そして、その後の『監視者』としての責務を、アタシに任せると仰って、ご自分の死をもアタシに宣言なされたのです。》
《おいおい、ちょっと待てよ…、すると何か?善さんはその『監視者』権限を利用して、私事に使役したという事なのか?い、いいのか?善さんに世界を任せたりしたら…》
《ちょっとお気に入りさん!思考を挟まないで頂けますか!?し、失礼な事を…。アタシが任されたから、アタシが何をしようと、数多の世界の人々が不幸にならなければいいのです!もぅ、ぷんぷん!》
《ご、ごめんなさい…、って!やっぱりそうなのかっ!!善さんそれはマズイんじゃないのかと…》
《いいのです!アタシより偉い者など、どの世界に行っても存在しないのですから。これからはアタシの善行で全ての人々を監視し導いて行くのですよ。因みに、その鈴はただの鈴ですよ。アタシが少し演出を凝らしてみたのですよ。それ以上アタシを責めるのなら、お気に入りさんの言う通り、私利私欲の為にチカラを使わず、洋子の事も放っておくとしましょう。うふふふ。》
《いえ…。最高の所業で恐れ入りますでございます善様〜。はは〜っ。》
善さんが悪魔に思えるのは気のせいだろうか。まさかこんな手の込んだ事をしてまで、ボクの記憶を蘇らせるとか、善さんはいったい何がしたいのだろうか?と、念を送らない様に思考していたのだが。
《あらあら、お気に入りさん、思考が丸聞こえなのですよ?悪魔とは失礼ですね。ですが、アタシのやり方も少し偉そうにと誤解を招いたのも事実ですね。ごめんなさい。この実体の無き身体になってからというもの、それはそれは退屈で。ちょっとした遊び心なのですよ。てへっ。》
《てへっ、って善さん、どこでそんな事覚えてくるんですか。ちょっとお伺いしますけど、先程のお話しから察するに、鈴は関係なく、洋子さんの記憶を戻せるって事ですよね?》
《うふふ、はい。その前に、真実をもう一つお話ししておきましょう。今お気に入りさんの中に流れ込んだ記憶は、別の平行する世界のお気に入りさんの記憶です。ですから、あの世界での過去と、こちらの世界での過去が微妙にズレている事もあるので気を付けるのですよ。》
大切な事をこの時点で教えてくれる善さん。相変わらず大事な事を最後に告げてくれる。
《さっきも言ってましたが、数多の世界の人々がとかって…?》
《ええ、その数多の世界の監視者になったのです。今も他の世界の事はきちんと見えているのですよ。それより理解して頂けましたか?おかしな言い方になりますが、この世界のお気に入りさんは、あの世界と平行しているお気に入りさんとは別人なのですよ。簡単に言うと、あの世界から、お気に入りさんの記憶を持ってきて、この世界の『伊町稜』さんに植えつけた。という事なのですよ。》
《あ、はい…、何となくですがそれは理解出来ています。記憶が流れ込んだ以上、もう引き返す事は出来ないですし、不思議と他人の記憶という感じもしないので大丈夫です。ただ…、》
「おーい、伊町チーフ!店長がそろそろ仕事に戻る様にと言ってますよー!」
《あ、そうだった、善さん、ごめんなさい、また後で話せますか?仕事に戻りますので。》
《勿論ですよ。それまでには洋子を探しておきますから、後はお気に入りさんがお決めになられて下さいね。》
そう言った善さんとの会話を最後に、ボクは仕事場へと急いで戻った。少し時間オーバーな程に休憩した事になっていたが、店長は相変わらず気にしている様な態度で、ボクに優しい言葉をかけて事務所へと入っていった。
考えてみると、別の平行世界では、店長は凄い悪者で、ボクがチカラを駆使しながら倒してしまってるんだよなぁ。と、またもやレジそっちのけで思考を巡らせてしまっていた。案の定お客様からは怒鳴られ、挙げ句の果てにはレジ打ちミスまでしてしまう。
何度も何度もボーっとして怒鳴られを繰り返しながらも、やっと仕事を終えたボクだが、店長や同僚、後輩と、ほぼ店の従業員全員から心配され、しばらく休暇を取らされてしまった。勿論有給休暇ってことでだ。
ホントに凄く疲れる一日であったと感じた。こんな日は、近くの入浴のみでも大丈夫な温泉に行き、足を伸ばしてゆっくりと温まり、心身の疲れを癒すのが一番だ。早速帰って支度をして、温泉でゆっくり過ごそうと帰路を急ぐ。
走って十分とかからず自宅であるアパートが視界に映る。そういえば、別の世界のボクも、このボロアパートに住んでいた。違うところというのが中々見つからないのだが、無理に見つける必要も無いので、気にしない事にした。
誰もいないアパートのドアを開け、「ただいまー!」と言ってみる。というか、これは癖みたいなもので、毎日「いってきます」と「ただいま」は言うようにしていたのだ。独り暮らしの寂しさ紛らわせってところだ。
「おかえりなさい。」
《う、いつもと違う事発見…。》
ドアを開けいつもの様に声をかけると、奥から言葉が返された。いつもと違う事だ。
なんとまぁ、そういう事だったのか…って善!?そんな事でいいのか!?そして更に日常に変化が!?




