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自己満足、他が為成らず。一年後…  作者: 赤茶猿マン
再出発した自己満足編
21/29

自己満足、再スタート。

さぁ、チカラの存在しない新たな世界での生活が!と言うものの、あの世界での事は全く覚えていない主人公。そんな彼の私生活を、少し覗いてみましょうか。



「あの…、すみません…。あの!!…、早くしてもらえませんか!」


「うわ!あ…っと、申し訳ありません!ただいま精算致しますね…。」


 仕事中にボーっとしてしまうとは、これではチーフ失格だ!と、お客様に怒鳴られる度に、何度そう思った事か。


アルバイトからの持ち上がりで、正社員になったのは嬉しい事なのだが、いきなりフロアチーフに任命されるとは思ってもみない事態で、朝からパニック状態に陥ってしまった。荷が重過ぎて変にプレッシャーを感じボーっとする事が増え、今日はお客様に怒鳴られてばかりだ。


《あ〜ぁ…、正社員として初日からこれか…。先が思いやられるなぁ…。でも…、何かを、何か大切な事を忘れている気が…。》


これも本日何回目の自問だろうか。戸締りやガスの元栓、電気の消し忘れに支払い。思い当たる事は色々考えてみるのだが、いつも通り抜かりはない。しかし、胸がザワザワするこの感じは、もっと他の、何か大事な事を忘れている様な気がしてならないのだ。


「伊町くん、さっきからどうしたの?君らしくもない。レジ代わるから少し休憩入れてくるといいよ。」


そう気遣ってくれるのは、このホームセンターの店長だ。ボクをチーフに持ち上げたのもこの人だったりする。その事で申し訳なく思っていたりするのだろうか?「大丈夫かい?」と今朝から何度も声をかけられ、今はとうとうレジを交代するとまで申し出てくれる。


普段の店長ならば怒鳴り散らしてゲンコツの一つも貰うところだ。今日はヤケに優しい。ボクも少し頭を切り替える意味で、店長の申し出を素直に受け取らせて頂いた。


 従業員専用の店舗裏にある通用口を出ると、喫煙所が設けられている。その脇にある自販機がボクの目当てだ。タバコは友達に勧められて一度吸ってみたが、この上なく咽せて吐き気までしたので、それ以来タバコの臭いが大嫌いで仕方がない。懐かしい学生時代の思い出ではあるが。


購入した缶コーヒーに口をつける。何だか胸が騒つく感覚が込み上げてくる。


《あ、まただ…。何だろう…、何故か切ない様な…。やっぱりプレッシャーが相当あるんだろうか?》


仕事が終わるまでこんな感じが続くのかと思うと、就業残り時間が気になりだした。今まで仕事をこんな風に感じた事は一度も無かったのだが、今は一人で自室にこもっていたい気分だ。


残り時間を確認しようとポケットの携帯を取り出す。まだ四時間も残っているじゃないかと落胆する。いっそ見なければ良かったと後悔もする事になった。残ったコーヒーを一気に飲み干すと、気合いを入れて戻る事にした。


が、戻る途中で携帯をポケットに突っ込んだのだが、何かがつっかえて上手く収まらない。小銭でも入れてたのか?と思い、携帯を再度引き抜き、ポケットの奥を探ってみる。


確かに何かがある様だ。しかし、小銭では無いと直ぐに理解し、その何かを指先で摘んで引き抜いてみた。それはボクの覚えが無い物で、鈍い金色の小さな鈴だった。音がしない様に、新品同様に鈴の口の部分には紙切れが差し込まれていた。


《あれ?ウチの商品ではないよなぁ、というか、商品ならボクは万引き犯だな。落し物を無意識に拾ったのかも…、どんな音すんだろう?》


他人の落し物かもしれないにも関わらず、ボクはあろう事か紙切れを引き抜いてしまう。そして鈴の上の部分を摘んで、小さく左右に振って音を確かめた。


 シャラララララン…シャラララララン…ンンン……。 


鈴らしからぬ音に驚いたボクだが、それ以上に驚く事になった。鈍い金色だった鈴が眩ゆい光を放つと共に、正しく黄金!と言える鈴に変化して、更に輝きを増していった。そしてその光にボクは包まれる様に吸い込まれる。


 ドドドドドド!!という様な音はしないが、その表現が相応しいと思えるほど、数々の映像がボクの頭の中に流れ込んできた。そして、一瞬だけだが、頭の奥がズキンと痛む。


《あ…、あぁぁぁぁぁっ!う…ボクは…、洋子さん…、洋子さん…。そうだ、ボク達は…。全て思い出した。》


 平穏な日々を送っていた自分の過去、戦いに身を投じて戦った過去、そのどちらもが頭の中で混ざり合わさり、一つの記憶としてボクの中に収まった。そう、ボクがポケットから出し、音色を聞いた鈴、あれは『還りの鈴』だったのだ。


《しかし、どうしてこの世界に鈴が存在して…、あ、善さんが最後に残した言葉か!『忘れ物ですよ』と言った後、『持って行きなさい』と言っていたな…。だけど消滅せずにボクのポケットに残っているなんて…、こんな事ってあり得るのか?》


《うふふ…。やっと鳴らしてくださったのね、お気に入りさん。》


「うわっ!ビックリした!!え、その声、もしかして善さんなの!?」


突然の独り言に、喫煙に来ていた買い物客が訝しげな目でボクを見る。アハハと苦笑いを浮かべ誤魔化すボク。いきなりの事に驚いて、つい声を発してしまった。ボクは喫煙所から少し奥へと移動して、思考回路を通して念で語りかけてみた。


《善さんなんですよね?》


《はい、そうですよ。お気に入りさんが鈴を鳴らしてくれたお陰で、こうしてまた貴方の側に来る事が出来ましたよ。》


《で、でも善さん、ヤツらが倒されたから消滅…、まさかヤツらがまた!?》


《いいえ、違いますよ。アタシがちょっとズルをしたのですよ。ですが、アタシは相変わらず実体を持たぬ身、お気に入りさんとあんな事やこんな事を出来ないのです。それでもアタシを受け入れてくれますか?》


《もしもし善さん?まだ色々理解出来ませんが、善さんの発言がおかしい事だけは理解が出来ます。あんな事やこんな事は無いですから。》


《あらあら、そこはウソでもいいから、ボクもそう出来なくて悲しいよ!とか、他にも色々言いようがあるのですよ?》


実体があるのであれば、相手が善さんであれ間違いなく手刀をお見舞いするところなのだが。この調子では感謝する気持ちも失せてしまう。


《コホン…、ま、まぁいいのですよ。それより、お気に入りさんは洋子には会いに行きませんの?》


《え…、そりゃあ会いたいですけど…、ボクが覚えているだけで、洋子さんはボクの事知らないはずですから。間違いなくボクがショックを受けるでしょうから。》


《あらあら、洋子にも鈴は渡してあるのですが、お気に入りさんがそこまでしてアタシと一緒が良いと仰るのであれば、アタシは大歓迎ですのよ。》


《な、ホントですか!?じゃ、洋子さんが鈴を鳴らしたら!》


《う〜ん、必ずそうする保証はないのですよ。間違って捨ててしまうとか…。》


《ええ!?もし捨てちゃったりしたら、ボクはもう洋子さんと一緒に過ごす事は叶わない…、という事ですか?》


《うふふ、そしたらアタシと幸せに…、あ、コホン。いえ、お気に入りさんが鳴らさせる様に仕向ければいいのですよ。ただし、本人が鳴らさないと意味が無い事をお忘れなくですよ。》


善さんのその提案で希望が湧いてきた。ボクだけが洋子さんとの記憶を持ったまま生きていくなんて、ボクには耐え難い事である。ここは多少強引でも、洋子さんには鈴を鳴らしてもらうしかないだろう。


《あ、でも善さん、ボクは洋子さんがどこにいるのか分からない…、って、あの時の屋敷にいるのかな?》


《アタシにもそれは分からないのですよ。今の洋子はチカラを持っていないのですから、気配を感じて探す事が出来ないのですよ。》


善さんのその言葉にボクは少し引っかかる事があった。


《善さん?チカラを持ってる人なら、気配で探せるって事なの?》


《あらあら、そうだと言ったつもりですよ。お気に入りさんは相変わらず鈍チンですね。》


どこで覚えてきたのか、鈍チンとは失礼な!と念を通さず心の声で叫んでみた。


《と、いう事は、ボクの居場所が分かったのって…!?》


《恐らく考えてらっしゃる通りですよ。お気に入りさんは、》


《チカラを使える!?》(善さんと二人の念)


 ヤツらが滅んで、チカラが存在しないはずの世界になったはずだが、善さんの鈴のお陰で、ボクにチカラが。この世界にチカラが存在する事になってしまった。善さんが言うズルとは、いったいどういう事なのだろうか。

これはもう、何だかぐちゃぐちゃになりそうなくらい、こんがらがって頭が痛くなってきたのだ。次回の展開、どうすんのさ!?

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