虚無。
死を迎えた主人公、その先に何があるというのか…。
あの『爆裂』が解放された瞬間からどれくらいの時間が経ったのかは分からないが、ボクの意識は今ハッキリとここにある。こうやって思考出来ているのが何よりの証拠だ。
この感覚には覚えがある。前にも来た事があるこの場所は『虚無』ではないかと感じている。確かここはヤツらが作り上げたと言っていた空間だ。ここにボクの意識があるという事は、ヤツらの撃破に失敗したのか、未だ戦闘中か、いずれにしても今のボクにはどうする事も出来ない。
何故なら、肉体が無いからだ。分かりやすく言うと、テレビの特集なんかで良く聞く、幽体離脱の状態が近いかもしれない。しかし、自分自身でも姿を見る事が出来ないのだから、この状態を何と呼ぶのかは定かでは無い。
《お気に入りさん、お久しぶりですね。その姿は見えませんが、気配で分かるのですよ。お気に入りさんなのでしょう?》
何となくこういう事が起きるのでは無いかと想像はしていたが、流れ込んでくる意識が懐かしい人物だと理解出来た。もう会話なんて出来ないと思っていたが、こんな形でも、話す事が出来て嬉しく思える。
《善さんですよね。過去から来た善さん…、ではなさそうですが、また話せるなんて思ってもみなかったですよ。》
《うふふ、アタシはずっとお気に入りさんの側にいましたが、生ある者には認識出来ない姿になり、この声も届ける事が出来なかったのですよ。でも…、今はこうやって…。》
善さんのその言葉に、ボクは自分の死を改めて認識する事になった。
《ではボクも善さんと同じ様に、このまま意識だけで存在して行くんですね。》
《あらあら、お気に入りさんはもっと彼女達を信じる事をしないといけませんよ?とは言っても、『最善』『最悪』を倒したのは彼女達ではありませんが…、うふふ。》
善さんのその言い方から推測出来るのは、洋子さん達は勝ったけど、別の誰かがヤツらを倒した。と取れるのだが、同時に疑問も浮かび上がってくる。
ヤツらが倒されたのならば、ボク達はこの意識ごと消滅するはずだ。それが未だ起こらないといいう事は、そもそもその理論が間違っているか、ヤツらの他に、あの地球にチカラを植え付けるヤツが存在すると言う事だ。
《あらあら、どうやら間に合ったみたいですね。久し振りね洋子。よく戦い抜きましたね。お気に入りさんが死んで、戦力外になると思っていましたが、見事に彼がトドメを刺すチャンスを作れましたね。》
《え、えええ!?善さんなの?過去の善さん?この前死んじゃった善さん?え?どっちなの?》
意識だけになってもさすがは洋子さんだ。言いにくい事をサラッと善さんに言ってのけた。まぁ事実ではあるのだが。
《洋子さん、この善さんはボク達が良く知っている善さんだよ。…、それより、ヤツらを倒してくれたんだね、ありがとう洋子さん。》
まさかここでようこさんの意識とも会話出来るとは思ってなかったが、最後に気持ちを伝えられる良いチャンスだ。
《えええ!!稜くんもいるの!うぅぅ〜…、稜くんどこ〜…会いたいよ〜…。》
お互いに見えないが、言葉だけはハッキリと分かる。意識同士で会話しているから、言葉と言えるのかは分からないが。
《うん、出来ることならボクも洋子さんをもう一度見たいよ。そして抱きしめたいよ。でもそれはもう無理なようだから、この会話が全てなんだ。洋子さん、ずっと今までありがとう…、愛してる。》
《うん、うん…、私も稜くんの事、すっと愛してるよ…。ずっと一緒にいてくれてありがとう。》
この虚無ではお互いの姿は見えないけれど、ボクは洋子さんの容姿を想像しながら、抱きしめたつもりで気持ちを伝えた。洋子さんも同じだったと思っている。そして、幼少の頃から見守ってくれていた善さんにも感謝の気持ちを伝えた。
最後にこの三人でこうやって話す事が出来たのは奇跡だ。
《それはそうと善さん、何故ボク達はこの空間にいるのでしょうか?他の皆んなもいるのかな?》
《いえ、他の方達はもう…。そしてお気に入りさん達はあの『最善』『最悪』の細胞であったり、血液であったりと、何かしらヤツらの組織を体内に取り込んでいましたよね?ここはヤツらが作った空間であり、ヤツらが死を迎えた時に来るところです。なのでお気に入りさんと洋子は、肉体を失ってここへ来たと考えられますよね。》
《な、なるほど。不本意だけどヤツらの身体に近付いたお陰で、こうやって三人で話せてるって事ですね。》
皮肉な事に、ヤツらから貰った体組織、血液のお陰で、何とか戦う事も出来て、死を迎えた後もこうやって会話する事が出来ている。
《…、今、最後の『最悪』『最善』が倒されました。いよいよですね、これでお別れになります。アタシも消える定めを受け入れる事にしましょう。》
《最後のって…、善さん、一体誰がヤツらを倒したんですか?》
《うふふ、稜くん、驚くかもだけど、最強はノイジーなのよ。今のノイジーは更に変異して金色の獅子みたいになっているのよ。》
実体があれば間違いなく口がポカンと開いたまま塞がらないところだろう。ノイジーがあれ以上変異するとは思いもしなかった。
《あらあら、ノイジーにはアタシのチカラも注ぎ込んでいるのですよ。強くて当たり前なのですよ。それより本当に時が来てしまった様です。これでお別れです。二人共楽しかったですよ。ありがとう…。》
《善さん、ボク達も楽しかったですよ。洋子さん、元の世界でまた会える事を祈っているよ。》
《うん、稜くんとまた会いたい。善さん、また女同士で語り合いたいですね。》
洋子さんの声を感じながら、意識が段々と遠くなるのが分かる。段々段々と小さく小さくなっていく意識。消える寸前だろうと思えた時、善さんが何か語りかけてきた。
《二人共…、忘れ…のです…、コレを…きなさい…》
そして暗闇が覆いかぶさる感覚に襲われた。何も聞こえず、何も発せない。思考…さえ…も…。
最後の最後に亡き善の意識、最善を尽くし死に至った洋子の意識、それぞれで会話が出来た事に主人公は感謝する事に。そしていよいよその意識さえも消える瞬間が訪れる。次回は、チカラの存在が無い普通の世界での彼らの足取りを覗いてみる事に。




