程良く緊張感。
避難勧告のサイレンの音、主人公達に緊張感が走った…はず。
突然鳴り響いたサイレン。これは川上さんから以前説明を受けていた避難勧告のサイレンだ。これはこの市全体が危機に晒された時に鳴らす事になっていて、一度だけこのサイレンを聞かされていた。
このサイレンを皮切りに、辺りの住民が一斉に外に飛び出してきた。ボク達はその人混みを掻き分けて、自宅へと急いだ。
「ノイジー!お座り!待て!!」
自宅が見えてきた辺りで、サイレンに驚いたのか、ノイジーが狂った様にその場でグルグル回っていたのが見えた。周りに被害が出ては、二次災害になり兼ねないと、洋子さんが急いでノイジーの元へ行き、強い口調で従わせる。
ノイジーがおとなしくなったのを確認して、二人で着替えの為に部屋へと駆け上がる。このタイミングでサイレンが鳴るという事は、ヤツらが攻めて来た可能性が大きい。そう思ったボク達は、以前から母が考案していた、戦闘用スーツを取りに戻ったのだ。
全てにおいて万能!という訳ではないらしいのだが、ある程度の衝撃、熱を、本来の半分程カットしてくれる優れものだ。素材の話しは聞かない方が良かったと後で後悔したのだが、ちゃんと洗浄して加工したから大丈夫との事だ。想像出来た人もいるだろうが、素材はヤツらの残骸から形成されたモノだ。
ちょっと思ったのだが、このスーツを着ると、ボクは全身鎧を身に纏った事になるのではないか?今やボクの頭全体がヤツらそのものなのだから。考えると笑えてならない。
急いで着替える必要があった為、隣で着替える洋子さんが魅力的過ぎて、ファスナーを上げる段階で、ボクはちょいとお約束の『挟んで痛い!』経験をする羽目になった。大丈夫、治癒で治したから。
ちょっとしたハプニングがあったものの、無事に着替えも終わり、急いで庭へと飛び出す。既にゆうこさんと寺ッチが待機していた。二人はボク達に気が付き、こちらに駆け寄ってくる。
「ぶっ!ヒャハハハ!稜くん?あんたトカゲみたいになってるよ!」
失礼な事を言うゆうこさんの言葉で、ボクの幻影が解けてしまった事に気付いたが、遅れて到着した善さんに『鏡面付与』をかけてもらい、辺りの住民には騒がれずに済んだ。それにしてもトカゲとは、酷くけなされたモノだ。
あ、いや、トカゲをバカにしている訳ではないのだ。全国の頑張っているトカゲさん、ごめんなさい。
善さんのお陰で落ち着いたボク達の元へ、市の車で川上さんが到着、事態を伝えてくれた。
「つい今しがた、市の入り口が、数十体の変異体によって突破されました。皆さんにはこれより、中央司令センター前広場にて、変異体の迎撃をお願いしたいのですが!」
川上さんが珍しく慌ててそう言ってきたが、答えは言うまでもない。皆んなの返答も聞くまでも無いので、ボクは即座に『空間転移』を発動させた。今回はノイジーも一緒に出動だ。運動不足だろうからね。
中央司令センター前広場に転移すると、先程までいた自宅付近とは違い、住民の姿は見当たらなかった。この辺りは避難勧告が早く発令されたのだろう。これなら周りを気にする事なく、思う存分暴れられると言うものだ。
洋子さんも気合い十分の様子だ。先程からシャドーをして肩を慣らしている。正直その拳はボクにも見えない程速いので、軽いシャドーとは思えない程だ。本人は「軽く身体をほぐしておかないと」と言っていたのだが。横で見ているゆうこさんの顔が面白い。
しばらくして、川上さんから無線が入った。ゆうこさんが無線担当だ。
「そろそろ変異体が視界に入るはずだから、気を抜かない様に!だって。」
緊張感の無いゆうこさんの言葉通り、建物を飛び越えながらこちらに向かってくる変異体が目視出来た。いよいよだ。隣で構える洋子さんと、軽く拳をぶつけ合い、左右に分かれて変異体目掛け移動を開始する。
ゆうこさんの立てた作戦での迎撃ポイントに近付いた時、洋子さんの声が飛ぶ。
「ノイジー!!ゴーーー!!!」
洋子さんの命令で、大砲が撃たれたのかと間違う程の轟音を響かせ、鋭い牙を剥き出しににしながら、音速の速さでノイジーが突進して行く。目標は道路を進んでくる変異体だ。
今回の作戦の先発はノイジーなのだ。その役目を見事果たしてくれるノイジー。それに気付いた他の変異体が、ノイジー目掛けて駆け出すのを確認。ここからがボクと洋子さんの出番だ。
ノイジーに気を取られた変異体を、背後から奇襲する作戦だったのだが、ボク達が変異体に到達するよりも先に、変異体を蹴散らすノイジー。最早手のつけようが無い程に暴れている。洋子さんも想定外の事に驚いている様子だったが、ボクの方を見るなり吹き出す程笑い出した。
「稜くん、ノイジーってば、余程ストレス溜まっていたんだよね?アハハ、あの暴れっぷりは止めようが無いよね。」
やる事が無くなってしまった洋子さんが、ボクの側に来るなりそんな事を話しかけてくる。ボクには無理だけど、洋子さんには止められるはずだ。止められるよね?
遠目に見ていたゆうこさんも異変に気付いたのか、ボク達のところまで駆け寄ってきていた。
「ちょ、ちょっと、作戦が意味ないじゃない!あれ…、大丈夫なの?」
ノイジーの暴れる様子を不安そうに眺めながら、ゆうこさんが洋子さんに尋ねている。まるでライオンが草食動物を相手に遊んでいる様にも見える。が、実際は凄まじいモノだ。食べてはいないだろうが、ノイジーの大きな牙で、殆どの変異体は一噛みで砕かれているのが分かる。
「ね、洋子さん…、ボクはノイジーと戦って勝つ自信ないよ…。」
「う、うん…。私も無理だと思う。ヤツらにトドメをさしたのって、ノイジーだったよね?あれは凄かったよね…。」
最早ノイジーの独壇場と化した中央司令センター前広場。ボク達はその様子を黙ってみているただの観戦者になっていた。
自分に向かって動くモノがいなくなったのを確認している様に、何度も左右を見回すノイジー。洋子さんの号令と共に、こちらにドシドシと足音を立てて戻ってくるノイジー。
洋子さんに褒められ、頭や首をガシガシしてもらい幸せそうに目を細めているノイジー。こういう仕草を見ると、やはり犬なんだなぁと思えるのだが、先程の戦いを見ると、危険な猛獣にしか思えない。
結局、終始ボク達の出番は無く、わずか十分足らずで変異体を全滅させたノイジーだった。間違いなくボク達の中で最強だろう。
「今、川上さんから連絡が入ったんだけど、変異体はこれだけみたいだよ。ヤツらの姿は無いそうよ。」
「う〜ん…、ねぇ、ヤツらはこの前、港街で変異体を食い物にしていたんだよね?変異体とヤツらは敵同士って事じゃない?だとしたら、この変異体は何が目的でこの市に来たのかな?自分達の意思で来たのか、誰かが送り込んだ。そう考えられなくもないわよね?」
そう言われると、確かに洋子さんが言う様に、ヤツらと変異体が共闘するのは考えにくいし、変異体が徒党を組んで、この市を襲う理由が分からない。となると、この市に関わりのある人物、あるいは、この市に住む誰かに恨みを持つ人物の仕業と考えられる。
そんな考えを巡らせ、この場にいる皆んなで意見を出し合っているところに、善さんが転移してきた。
「皆さん、気を抜かない様に。来ます、ヤツらなのですよ。」
突然現れた善さんのその一声で、またまた中央司令センター前広場にいるボク達に緊張がはしる。いやいや、さっきもちゃんと緊張してましたとも!はい!
気合い十分の主人公達であったが、ノイジーの凶悪な暴れっぷりに、ただただ観戦するのみの主人公達。そこへ善がやってきて、否応無しに威圧感を叩きつけてくる強敵の接近を知らされる!今度こそ緊張感が走る主人公達だった!




