戻らないモノ、変わらない事。
※少し短めです。
母親からの待望の知らせか!?期待を胸に研究所に向かう主人公と洋子だが…
母が研究室に篭って二日経った昼過ぎに、ボクと洋子さんは母からの連絡を受けて『愛の研究室』に足を運んだ。珍しくドアが開いていたので、声をかけ勝手に中に入ると、健気に掃除をする父親の姿が視界に入る。ちょっとこういう姿は見たく無かったかもしれない。ボクの理想の父親像が崩れる。
「や、やぁいらっしゃい二人共。あまりにも散らかっていたからね…、つ、つい片付けてしまうクセが出たというか…、あ、お母さんなら奥で待っているよ。」
やはり息子にこんな姿を見られたくはなかったのだろう。取り繕いの言葉を吐いているが、ヤケにテキパキした手つきが、いつもやらされている事を物語っている。もはや言い訳にしか聞こえないのであった。
しかも母の下着を持ったまま、ボクらを奥に行くように促すのはやめて欲しい。
苦笑いしながら何も返す言葉が見つからないでいた洋子さんが、ボクを後ろから突いて、早く奥に行こうと促してくる。このまま父の姿を見ているのも居た堪れなくなってくるので、何かを言いかけた父を置いて、二人で母の待つ奥の部屋へと向かう。
「あ、待ってたよ。結果が出たから…、取り敢えずそこに座って聞いてくれる?」
ここまで来る時に通った通路よりも、遥かに散らかった部屋に唖然とするボク達。母が座れと指示するが、どこにも座れる場所が見当たらない。書類と本の山で、足の踏み場が無いのだ。
「あ、いやこのままでいいよ。…、で、結果って、ボクを元に戻せる方法の事だよね?」
「…、結論から言わせてもらうと、稜、貴方を元に戻す方法は分からない。」
母の言葉に洋子さんと顔を見合わせてしまう。落胆した感情が顔に出る洋子さん。ただ、ボクを気遣ってか、言葉にまではならない様子だ。
「じゃ、結果ってその事だったの?ずっとボクはこの顔のままなんだ…。」
「まぁ、それも結果の一つなんだけど、他にも分かった事があって、ヤツらの血液?みたいなモノが、稜の血液を侵食しているのよ。一つになろうとしているの。分かりやすく言うと、そのままだと稜は、ヤツらみたいになってしまうという事。」
更に悪い知らせに言葉を失うボク。そこに母が続けて説明を入れてくる。
「それで、一時的にでもそれを抑えられないか試してみたんだけど、それもダメだった。何せヤツらの混ざった血液が、未知のモノだからね。全ての方法を試すにしても、何十年も必要になる。それじゃ間に合わないからね。ただ…、一つ方法があるとすれば、ヤツらを倒して、その自分を消滅させる事かな。倒した段階で、私達の未来は消えて無くなる訳だから、最初から存在しない事になる。阻止出来るとしたらそれしかない。」
「お義母さん…、それじゃ最期の時まで稜くんはこのままで…。」
「二人共良く考えて?戦わなくても私達の未来は無い。戦う事で、私達の未来は消えるけど、この世界のその他大勢の事は救える。稜、他人事みたいに言う様で気が引けるけど、自分の事ばかり考えていたらダメなのよ?何もしないで全て消えるより、何かしら抵抗して、少しでも残せる可能性がある事をしないと。」
「母さん、ボクは戦う事にはもう躊躇いはないよ。ただ、消えるにしても自分のままでいたかっただけだよ。でも…、戻れないのなら悩んでも仕方ないよね。うん…、ありがとう母さん。」
それ以上母の口からは何も言葉は出なかった。母がボク達の事だけをを言っている様に聞こえたが、このチカラに携わっている人間は、皆んな消えて無くなるのだ。勿論母もその内の一人なのである。不安で仕方が無いのは皆んな同じだ。ボクだけが辛いのでは無いのだ。
母の研究室を出て、自宅に向かう途中で善さんに会った。というより、ここを通るのを善さんが待っていた様子だった。
「やはりダメでしたか…。お気に入りさん、一か八かの方法が無い訳ではないのですが…。」
歩み寄ったボク達が挨拶する間も無く語り出す善さんが、そう告げながら懐から何かを差し出してくる。
「これは…善さんこれ『還りの鈴』では?これは記憶を取り戻すモノでは?」
「やはり知っていましたか。ですがその効果はハッキリとは分かっていないのです。確かに隔離された記憶、失われた記憶を取り戻す効果はありますが、そちらの洋子さんは、これを以前使って、記憶だけでは無く、肉体までも取り戻したそうではありませんか。戻るかどうかは断言できません。ですから一か八かなのです。」
そう言われると可能性が無くもない気がする。善さんがボク達二人に差し出してくれた『還りの鈴』をそっと手の中に納める。
「ですが…、もし戻ったとして、お気に入りさんの今のチカラがそのままかどうかまで保証は出来ません。」
「え、と?それは一体どういう意味ですか?」
鈴を見つめるボクと洋子さんに、善さんが不安にさせる様な言葉をかけてくる。
「お気に入りさんがヤツらと同じチカラを手にする前に戻る可能性があるという事です。そうなれば、今のヤツらに勝利する望みは薄くなります…。ですが、これはお気に入りさん自身の事ですから、決めるのはお気に入りさんです。アタシは一つの方法として提案したまでです。良く考えて使用されて下さい。」
そう告げて煙の様に消えてしまった善さん。手の中に残された鈴に視線を落とす。善さんの言う様に、その可能性も無いとは限らない。ここでこのチカラを失う事になれば、確実に世界が滅びてしまう。ボク達はその前に抹殺されてしまうだろう。
「稜くん、私は稜くんがどう判断しても尊重するよ。もし善さんが言う様な事になったとしても、最期まで一緒だからね。」
迷いを隠せず鈴を眺めるボクを、洋子さんが変わらず支えてくれる。そうだ、ボクはこの人を守りたい一心でこれまで戦ったきたのだ。これからもそうだ。洋子さんの言葉に、悩む必要なんて無かった事に気付かされる。
ボクと洋子さんは、貰った鈴をポケットにしまう。そしてお互いの手を取り自宅へと歩き出す。
「洋子さん、最期までボクが守るからね。洋子さんを守れるチカラを無駄にしない。ヤツらを倒す為には、おかしい話しだけど、ヤツらから貰ったこのチカラが必要なんだ。」
その決意の言葉を聞いた洋子さんは、優しくボクの手を握り返してくれる。例え未来が消えても、この手の温もりだけは消したくない。ボク達二人のこの気持ちは、消えたりしない。
そして、この市全体に避難勧告のサイレンが鳴り響いたのは、ボク達が自宅に帰り着く前の事だった。
善から一つの方法として『還りの鈴』を手渡された主人公達だが、お互いを守るチカラを失いたくないという結論に至る。そして新たな決意を持って帰路につくが、そこに避難勧告のサイレンが!!




