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自己満足、他が為成らず。一年後…  作者: 赤茶猿マン
終焉に向かう未来編
12/29

有効な時間と能力の使い方。

あんなに良い話しをしたゆうこだったが、酒に溺れて台無しに。しかも…。



 ボクのこれまでの謝罪を含めた食事会は、ゆうこさんが酔っ払って誰かれ構わず絡み出したので、今後の作戦の話までは持って行けずに終了してしまった。


 という訳で本日、朝の八時からこうやって母の研究室に集まった訳であるが、昨夜に引き続きゆうこさんは酔っ払いのままである。何でもあれから寺ッチと朝方まで飲み明かしたらしく、先程やっと寝付いたところを洋子さんに無理矢理引っ張られてこの場に来ていた。


そして今でも何やらブツブツと言っているのだが、ろれつが回っていない為、何を言っているのか理解不能だ。洋子さんいわく、看護師の頃からこんな感じになるので、あまり酒は飲ませないようにしていたらしい。


酔っていても洋子さんの怖さは理解出来ている様子で、注意されるとハッとした顔をして下を向いて大人しくなってしまう。が、しばらくすると忘れてしまうのか、酒で麻痺してしまうのか分からないが、また一人でブツブツ何かを言い始める。


「皆さんゆうこは放っておいて大丈夫ですから、このまま作戦会議に入りましょう。」


 洋子さんのその言葉で川上さんが現状までで手に入れている情報を元に会議が進み出す。


 しばらく説明を聞いていたのだが、ヤツらはボク達がいるこの世界に今はいないので、川上さんの情報にあまり進展は見られなかった。あの港街の事件の解析データを元に、憶測の領域を出ない会議の内容となっていた。


「……とここまでが私達の市で調べた結果です。これから先は洋子さんが先程説明された様に、その異世界とやらに行かないと情報は得られないと思われます。」


川上さんが話に一区切りつけたところで一旦休憩に入ると告げ部屋を後にした。残された皆んなも、前回の会議の内容とさほど変わらぬ情報で、不安が募るばかりといった感じに見える。


「洋子さん、このまま会議に出ててもあまり進展は無さそうだね。良かったらこれから、あちらの世界で学んできたっていう話を、詳しく聞かせてくれないかなぁ?なんて…。」


「う〜ん…、そうよね。私もそう思っていたところ。会議というか、ただの報告会にしかなっていないしね。ウチでコーヒーでも飲みながら二人で過ごした方がまだ有意義よね。」


実際にあちらの世界に行っていた洋子さんにとって、こちらの世界の情報はつまらない話しに聞こえていた様子だ。しかもヤツらと戦ってもいるのだから、戦略的な話しを期待していたんだと思う。


「あの、アニキ…、ゆうこちゃんを家に連れて帰ってもいいかな?」


何だか久々に寺ッチの声を聞いた様な気がして驚いてしまったが、ボク達もこの会議を抜けると伝えたところ、ゆうこさんを抱き上げてさっそうと帰っていった。ボク達も残った皆んなに帰宅すると伝えて、母の研究室を後にした。


 帰り道に洋子さんと手を繋いで歩いた。こうやって想い出を残していってもいずれは忘れるものなのだろうなぁと、そう考えているところに洋子さんからのデコピンが飛んで来た。


「稜くん、またマイナス方向に考えてたでしょ?今を、この時を大切に生きないと勿体ないよ。私は、この世界から存在が消え去るその瞬間まで、稜くんと向き合い、お互いの愛を感じていたいな。」


「うん、ごめんね。…、そうだね、洋子さんの愛を感じていたい。ね、早く帰りたくなったね。」


我ながら凄く意味深な事を、意味深な表情で伝えたと思うが、洋子さんはそのボクの言葉に恥ずかしそうに頷いて答えてくれた。ボク達はお互いの愛を感じていたいが為に、手を繋いだまま全力で駆け出し自宅へと向かった。


 〜 翌朝 〜


 洋子さんの優しいキスで気持ちの良い朝を迎えたボクは、ついあれからの事を思い出し、洋子さんの顔をまともに見れなくなってしまった。モジモジしてるボクを洋子さんが抱きしめてくれるが、お互いにそのまま寝てしまったらしく何も身に着けていないせいか、色々当たって逆効果なのだが。


 コンコン! コンコン! 「ちょっと、もう起きてるんでしょ?」


突然のドアのノック音に二人ともビクッと反応してしまう。声の主がゆうこさんだったからだ。しかし彼女にしては行動が伴っていないような気がする。


「ちょっと〜、なんで鍵なんかかけてんのよ!ねーってば!…、あ!ひょっとしてアンタ達!!」


そうだった、昨日部屋に入った時に、洋子さんが珍しく鍵をかけていたのを忘れていた。というか、さっきの反応からして、かけた本人も忘れていたと推測される。


ボク達はそのゆうこさんの反応に、思わずお互いを見つめて笑ってしまう。ドアの向こうで地団駄を踏んでいる彼女が想像出来ておかしかったからだ。


「ごめんごめんゆうこ、ちょっと二人とも服を着るから待っててよ。」


洋子さんのわざとらしい答えに更に笑ってしまう。その少し後に、ゆうこさんの「キーキー」とわめく声が面白すぎた。ボクも軋む身体を無理矢理起き上がらせると、洋子さんとお揃いのシャツに着替えた。


 〜 自宅庭 〜


 あれからゆうこさんの姑根性のお説教で散々な目にあったが、今は三人で新しい能力の訓練を開始しようとしているところだ。ところが…。


そう、ボク達は忘れていた。すっかり忘れていた。


「…、違う違う、そうじゃなくて、こう…、ピッ!として、ムン!っときて、シャァ!ってしないと!」


《うむ…、全然分からん!》


ご覧の通り、洋子さんが人に教えるなんて無理な話しなのです。自分感覚で言葉にしてくれているのだろうが、全く理解出来ない。おそらくゆうこさんも…。


「あー!洋子!そうか、そうなのね!分かった気がするわ!早速やるから見ててね。」


《なん…だと…!アレが理解出来たというのか!!》


驚愕するボクをよそに、二人は更に訓練を続けている。何だか置いていかれているのが良く分かる。そうだ、これはアレだ、ゆうこさんの嫌がらせに違いない。きっとゆうこさんだって理解出来ていないに違いない。


「わー!!すごいゆうこ!やれば出来るじゃない!!」


《ガーン…。 マジっすか…。》


 それからも色々と先を行くゆうこさんを横目に、ボクは最初の訓練から抜け出せず、洋子さんに怒られながら、楽しくない訓練を続けていた。チーン…。


 〜 その日の夜 〜


 実らない訓練がとても苦しかったボクは、ベッドに横になるも、悔しさで中々寝付けないでいた。そこに「プーン」と羽音を響かせながら一匹の蚊が迷い込んで来たようだ。しばらくは追い払う気力も無く、ただじっとその羽音を聞いていたのだが、やたらとボクの周りを行ったり来たりとするので、段々と鬱陶しくなってきた。


「プーン…、ゥ〜ン…、プーン。」


《まだだ…、まだまだ…、もう少しこっちにこい…、そうそう、そこだ!!》


 パァァァァァァァン!!!


ボクの狙いを定めた一撃を思い知ったか!と言わんばかりの快心の一撃を蚊にお見舞いしたのだが、その次の瞬間、部屋の中が昼間の様に明るく輝いた。


「痛ーーーー!!!!!っ!アンタっ!何すんのよ!!死ぬかと思ったでしょ!!」


「え!?ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」


「ちょっと稜くん?何を騒いでいるの?…、って、ゆうこ?何してるの?」


流石にこれだけ騒がしいと洋子さんも起きてしまう様だ。そして何故か突如部屋に姿を現したゆうこさんを見下ろしている。


「よ、よよよ洋子…、アハハ、これには深い、深ーい訳があってね…アハ、アハハ」


ゆうこさんの弁解を聞きながら、洋子さんが指の関節をポキポキと鳴らし出す。


「ふーん、どうりでね。あのゆうこが訓練に熱心だと疑問に思っていたのよね。この下心満載女ーー!!」


洋子さんの最後の叫び声と同時に、ゆうこさんは部屋の天井を突き破り、夜空の彼方へと飛んでいった。まぁ、彼女ならアレくらいで死にはしないだろうし大丈夫だろう。


「さ、稜くん、寝ようか。明日天井の修理お願いね。」


「ハ…、ハイ…。」


《やはり洋子さんは本気で怒らせない方が良いと思う。無事に帰ってくれよ、ゆうこさん。『憑依』の使い方、コッソリ教えておくれよ。》


天井の穴から見える星々に、ボクは手を合わせて本気でそう願い事をしてみた。そして深い眠りについた。

やけに頑張るゆうこであったが、やはり只者では無かった。下心の為に頑張る姿は、知らなければ美しく見えた事だろう。ゆうこ、星々の間でこれからの行く末を見ていてくれ。チーン…。

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