表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自己満足、他が為成らず。一年後…  作者: 赤茶猿マン
終焉に向かう未来編
11/29

説得。納得。

何だかふざけたサブタイトルだが、至って真面目な内容で進む主人公の物語。ゆうこの説得が始まる。



 どれくらい眠っていたのだろうか、目を覚ますと向かいのソファーにゆうこさんが座ってコーヒーを口につける姿が目に映る。ベッドの方へ視線を移すと、洋子さんの姿はそこにはなかった。


「おはよう稜くん。洋子なら二時間ほど前に起きて、今は稜くんのお母さんのところだよ。大丈夫、もう勝手な行動はしないと約束させたから。」


不安な気持ちが顔に出てしまっていたのか、ゆうこさんが的確な答えをボクにくれる。またいなくなったのかと不安になっていたのは事実だ。見透かされた気分になり少し恥ずかしい気持ちになる。早速母のところに行こうと立ち上がるボクに、ゆうこさんが声をかけてきた。


「稜くん…。少し話さない?私の考えも聞いてほしいんだけどな。」


そう呼び止めたゆうこさんの方へと向き直ると、既にボクのコーヒーを用意してくれているところだった。少しならと思い、仕方なく先程まで寝ていたソファーに腰を下ろす。


マスターの喫茶店から特別に分けてもらったコーヒーの香りが、少しボクの焦る気持ちを落ち着かせてくれる。その香りに鼻をひくつかせているところに、ゆうこさんがカップを差し出し、向かいのソファーへ再び腰を沈めた。


「ありがとう。…、それで、考えって何?」


「ふふふ、稜くんって分かり易いそんな性格だったっけ?心配なのは分かるけど、洋子はもういなくならないって。」


そこまで理解してくれているのなら早く本題に入ってほしいものだと感じ、苛立ちをコーヒーで紛らわそうと口をつける。


「あ〜、ごめんごめん。本題に入ろうか。」


またも見透かされたのか、同じく的確に言葉を投げてくるゆうこさん。少し怖いくらいだ。よく見ると、いつもはサラリと肩にかかる髪が、今日は頭頂部で一纏めに束ねてある。そのせいか、目が少し吊り上がり鋭く見えてしまう。そのせいもあるのかもしれない。


「まず、私の考えから言うと、今回の戦いに関しては、私も稜くんと同じ意見なんだよね。今は凄く寺ッチの事が大事で、何においても彼が優先するんだ。」


ゆうこさんの言葉に驚いたが、何と答えていいのか、いや何と声をかけていいのか分からなかった。気の利いた言葉を探しているうちに、ゆうこさんが続けて口を開いた。


「何も言わなくて大丈夫だよ。私も稜くんに何て声をかけていいのか分からなかったクチだから。多分…、皆んな同じなんだよ。稜くんと同じで、失いたくないものだらけなんだ。」


そう話すゆうこさんだが、ボクがそれを口にした時の皆んなの反応から、それを感じ取る事は出来なかった。あの時の事を頭の中に思い起こしてみるが、ゆうこさんが言う様な感じは見受けられない。


「ふふふ。ホントキミは分かり易いね。皆んなはさ、既に失ってしまっているんだよ。だから口にしない、ううん、出来ないでいるんだ。」


「失っているって…、何をさ?」


「分からないかい?川上さんは何を失ったか覚えていない?マスター親子は何を失った?ゆきさんは何を?そして洋子は何を失った?」


質問に質問で返されて少し苛立ちを覚えるが、ゆうこさんが何を言いたいのかが少し理解できた。そのせいか、ボクは何も答える事が出来なくなってしまった。


「そうだよ、皆んなはもう失っているんだ。その失った者を取り戻したい気持ちの方が強いんだ。逆に今を失いたくないのは、キミと私だけなんだ。そこが皆んなと違うところなんだ。」


そこまで説明されて、恥ずかしい事にボクは、今更ながら皆んなの悲痛な声が聞こえた気がした。ボクももし洋子さんをあの時に失っていたら、きっと今の皆んなと同じ場所で声を揃えて戦いに挑む事だろう。


これまで自己満足であっても、他の誰かを困らせたり傷つけたりという事はなかった。だが今のボクはどうだろうか。自分の事を優先させ、皆んなの気持ちをないがしろにしてしまい、結果困らせているのではないのか?これは自己満足ではなく、自己中だ。


自己満足は誰かの為になっている事も多々あるが、自己中はそれが無い。たまたま誰かの役に立ったとしても、それは相手の勘違いだ。直ぐに割り切る事は出来ないが、それでも苦楽を共に生き抜いてきた仲間を裏切りたくはない。悲しませたくはない。


「ゆうこさん…、ありがとう。言いにくい事を言わせてしまったね。ごめんなさい。」


「うん、いつもの稜くんに戻ってくれて嬉しいよ。きっと洋子もそう言ってくれるはずだよ。今日はあれだね、多分伊勢海老で祝ってくれると思うよ。」


ゆうこさんのそんな冗談で、ボクにも少し心に余裕が出来た気がする。久しぶりに笑ったからそう思えたのかもしれない。心の中でゆうこさんにもう一度お礼の言葉を告げる。ありがとうゆうこさん。



 〜 夕飯時、キッチン 〜


 これまでの態度をお詫びするという意味も含めて、我が家の夕食に皆んなを招いたのだが、まさか本当に伊勢海老を出してくるとは。料理を運んできながら、洋子さんがあの謎の伊勢海老音頭を踊って歌っている。


お客さんとして呼ばれてきた筈の和枝さん、カズちゃん、川上さんが洋子さんの手伝いを買って出ていた。なんだか申し訳なくなり手伝おうかとしたのだが、男は黙って座っていろとゆうこさんに怒られてしまった。テーブルの向かい側に座るマスターがボクを見て苦笑いしていた。


皆んなが手伝ってくれた甲斐あり、洋子さんの料理も早く終わり、沢山の料理がテーブルに出揃った。女性陣が皆んな席に着くのを待ち、入れ替わりでボクが立ち上がる。


「えと…、今日は突然の招待にも関わらず、こうやって集まって頂けた事に感謝します。ありがとうございます。食事の前に一言だけ言わせて下さい。」


そこまで話し皆んなの顔を順に見回す。これまでの事を色々と思い浮かべながらだ。


「これまで皆さんの協力の下、ボクは沢山助けられてきました。ここに至るまでには、沢山の仲間も失いました。その中には皆さんのかけがえのない人もいました。その事をボクは忘れてしまい、自分の事ばかりを考えて行動していました。今更ですが、この場できちんと謝罪をさせて下さい。本当にごめんなさい。」


これまで仕事でも下げた事がないくらい頭を深く下げ謝罪をさせてもらった。皆んなが今どんな表情をしてボクを見ているのかは見えないが、自己中でわがままだったボクの事を軽蔑しているに違いないと思った。しかし、ボクはこの自己満足の謝罪から、もう一度最初から自己満足生活を始めたい。自己中ではない自己満足の生活を。


「まぁ、伊町さんの洋子さん大好き病は今に始まった事でもないですので、伊町さんが戦いに身を入れて下さるのであれば心強いです。私は伊町さんお帰りなさいと言わせて頂きます。」


顔は見えないがこの声は川上さんだ。少し皮肉交じりではあったが、許してくれるという事だろう。他の皆んなも口を揃えて「もう気にしないで大丈夫!これから頑張ろう!」そう声をかけてくれていた。


「まぁ、でもさ、こうやって本人が頭下げてまで謝ってるんだから、何か罰を与えておけばいいのよ。ね?稜。」


このいらない一言を放ったのはボクの母だ。今のボクの立場では何も言い返す事は出来ない。そうと知ってか、皆んなをけしかけボクの反応を見て楽しんでいる様に見える。まぁいいだろう、甘んじてその罰とやらを受けて立とうではないか。


「ま、まぁまぁ。お義母さんも冗談はそれくらいにして、お料理が冷めないうちに食べましょう。稜くんも座って一緒に食べよう。」


なんて母親と対照的な優しさを持った女性なんだ。さすがボクのお嫁さんだ。そう助け舟を出してくれた洋子さんに見惚れていると、向かいにいた母から「チッ!」という舌打ちが聞こえた気がしたが、今は何も言える立場にないので、聞かなかった事にしておこう。


さぁて、これからの戦いに備えて食べるぞ!!

自己中は良いことを何も生み出さないと理解した主人公は、同じ境遇にゆうこも置かれている事を知り、辛いのは自分だけではない事も知る。そして戦いに前向きに考えていこうと心に決めた。よね?多分。うん、大丈夫なはず。謝罪の言葉に嘘偽り無く前向きな主人公であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ