土産話。
洋子帰還の謎説明の回。実在した異世界!?
『異世界』洋子さんの口からファンタジーな言葉が飛び出してきた。
あれから落ち着きを取り戻したボクは、洋子さんに着替えを用意して、簡単な食事と飲み物を用意した。予想通り気力は回復しているものの、お腹の方までは満タンとはいかなかった様子だ。
ボクが用意した食事を、ようこさんが平らげるのにそう時間はかからなかった。落ち着いたところを見計らってこれまでの経緯を説明してくれるようにお願いしてみた。
「異世界?…、異世界ってあのアニメなんかで出てくるあの異世界?」
「うん。私も最初は信じられなかったよ。もっとこう…、洋風なイメージがあったから。でも私が飛ばされた世界はね、私達の住む日本の…、そう、過去。お侍さんがいた時代のお話に出てくる家が立ち並んでいたの。」
洋子さんのその後の説明では、その『異世界』とやらでもチカラが使えるらしく、違う世界に飛ばされた時の傷を治す事ができたらしい。ただし、その時点ではまだ自分が『異世界』にいる事は知らなかったとの事だ。
「でね、治癒を使用してたら、いつの間に近付いたのか、目の前にお婆さんがいたの。そのお婆さんが口も開かないで話しかけてきたから、もうビックリだったよ。」
その時の事を思い出しているのか、少し興奮気味で説明してくれる洋子さん。思い出すのは構わないのだが、話す前に興奮してフガフガされると、話の内容が薄くなるので抑えて欲しいのだが。
あれだ、面白い話をしようとしてる本人が先に笑ってしまい、話が興ざめしてしまう感じ。と、そんなどうでもいい事を考えている間にも、興奮冷めやらぬ洋子さんの話しは先を走っていた。
その後もそんな場面が何度かあり、中々話しが先に進まなかったり、興奮し過ぎて理解出来なかったりと、聞き手としてはかなり疲れたのだが、彼女の話しをボクなりにまとめてみるとこうだ。
ボクと言い合いになった後、洋子さんは自分がヤツらを倒す事を決心し、あの港町に単独で潜入。その時はまだ変異体は街には集まっていなかったそうだ。気配を辿り、ヤツらを船着場で発見し、不意打ちで先制攻撃を企むが、最初から気取られていた感じで、軽く先制攻撃を躱されたらしい。
その後、何とか立て直して善戦するも、ヤツらの入れ替わりの能力使い分けに翻弄されだして、フェイクの回復動作をチャンスだと思い接近したところを、ヤツらの連携攻撃の的に。そこで一瞬の間が出来てしまい、その時にヤツらが何かしらのチカラを使い、気付いたら見た事も無い場所にうずくまっていたらし。
その時にヤツらがどんなチカラを使ったか分からないが、洋子さんはヤツらに『異世界』に飛ばされたに違いないと断言していた。
そしてその『異世界』での最初の接触者であるお婆さんだが、その世界での唯一の能力持ちであったらしい。洋子さんが使ったチカラを察知し、位置までも特定、そして接触したのだと、お婆さん本人の口から説明を受けたと言っていた。
そして、ここからが興味深い話しだったのだが、その世界の能力と、この世界の能力は、似ている様で違うという事。洋子さんをこの世界に送り返すチカラ、そして姿を蛾に変えるチカラ、これらはこちら側では初めて聞く能力だった。
厳密に言うと、姿を変えられるというより、その姿を借りて入り込むらしい。分かりやすく言うと『憑依』と言った方が、それに近い感じがするので、これを今後『憑依』とでもしておこう。
そしてこの『憑依』は、使用者の負担がかなり大きいらしい。実際に洋子さんが蛾になって飛んだ距離は五十メートル足らずだと分かった。
とまぁ、『憑依』の話しは少し後回しにして、なぜ蛾にならなければならなかったのか?という事も勿論尋ねてみた。
「最初は警戒していたお婆さんだけど、ちゃんと説明したら保護してくれたの。そして色々教わったわ。そうね…、期間にして二ヶ月程いたかしら?稜くんに会いたくてたまらなかった…。そこへまたヤツらがあの世界へ来たのよ。」
「だったら洋子さんを飛ばす必要ないのにね…。あ、ボクは洋子さんが生きててくれた事が嬉しいから感謝してるけど。んー、感謝って言葉を使うのはおかしいかもしれないけどね。」
いかんいかん、また思った事を考えなしに、つい口走ってしまった。しかし洋子さんは気にしていないのか聞こえていなかったのか、先程のボクの失言には気にも止めていない様子で話しを続ける。
「ううん、違ったの。ヤツらの目的は『能力者』だったの。お婆さんの話しでは、もう何回もヤツらと対峙しているって話しだったわ。でも毎回勝てないらしくて、いずれ倒されるかもしれないと思い、人里離れた場所で身を隠し、静かに暮らしていたらしいのよ。」
なるほど、ヤツらも能力者以外を惨殺する様な真似はしないから、お婆さんの判断は間違ってない。もし戦いになっても、人が周りにいなければ迷惑もかからない。
「で、お婆さんが言うには、私はチカラの気配を隠せていないらしくて、ここが見つかるのも時間の問題だと言って、一時しのぎかもしれないけれど、元の世界に送り返すって言ったの。それから、転位させる時にバレるかもだから、何かに姿を移しなさいって。その間は気配に気付かれる事がないらしいの。で、近くを飛んでいた蛾にたまたま乗り移ったの。そしてウチの庭先に転位してもらい、窓が開いてたから飛び込んだってわけ。」
どうやら『憑依』が原因であんなにフラフラな状態になっていただけの様だ。ここまで話してくれた洋子さんだが、先程から顔色が優れない様子だ。色々教えてもらったと言っていたが、今はそれをあれこれ聞く前に、大変な目に合ってきた洋子さんを休ませたい。
「ありがとう洋子さん。疲れているのに無理させちゃったね。さ、今日はボクが起きてるからゆっくり身体を休めて。」
「ありがとう稜くん。でも…、眠るまで側にいて欲しい…、かな。」
今更ながら恥ずかしそうにそう言う洋子さんに、ボクは言葉ではなく、優しく唇を重ねて応えた。かなり久しぶりに感じたが、洋子さんとのキスはいつもボクの心を満たしてくれる。そして洋子さんも同じ事を感じてくれていると信じている。
この女性のいない世界なんて考えられないが、これから起こる世界の終焉を避ける為にも、この想いは断ち切らないとならない。
洋子さんがいなくなった後に母から聞いた話しだが、戦いに勝ち、ボク達の存在がこの世界から消えたとしても、この世界に生きる『能力』とは関わりの無い人達の命は、それから先も続いていくんだと。その為にも僕たちが頑張らないといけないんだと。例えそれが日の目を見る事がなくても。
洋子さんが以前言っていた様に、能力を持つボク達の存在は消えてしまうけど、普通の生活を送り生きるボク達はいる。そのボク達は、今この時までの記憶は一切持たない。当たり前だが、今のボク達の生き方を経験しないのだから、知る由もないはずだ。
そう、過去に戻るだけ…、とは言うが、この洋子さんに対する気持ちや、今まで会った仲間達、そういうものも一緒に戻る訳ではないのだから。今の自分自身が失われる…、これをボクは『死』だと感じている。これから起こる戦いの事も、これまでの事も、何もかも全てが失われるのだから。
色んな複雑な想いが頭の中を駆け巡る中、幸せそうに眠る洋子さんを見つめる。そのまま朝までずっと洋子さんの髪を撫でながら見つめ泣いていた。自分でも情けなく思うが、やはり割り切って考えられる事では無い。
翌日、ゆうこさんが部屋を訪ねて来てビックリしていたが、同時に安心したのか、ベッドでぐっすり眠る洋子さんの側に寄り、「おかえり。」と小声で伝えていた。その目に涙が滲んでいたのが見えた。
そして、側で寝ずに見守るボクにも、身体を休める様にと気遣ってくれた。ゆうこさんに後を任せて、ボクもソファーで少し休ませてもらう事にした。
どんなモノを、事を、天秤にかけても譲れない洋子への想い。やっと訪れた幸せにも終止符をうつ時が…。自己満足を通し世界の終わりを迎えるか、他が為にかけがえのないモノを犠牲にし世界を救うのか、覚悟の時迫る!




