Chapter 8
少年は自分の家に戻ってからも、イルカと楽しそうにおしゃべりをしていました。
ついさっきまで体験していた、不思議な遊園地でのスリリングな出来事や、鮭をくわえたクマのぬいぐるみと意気投合してたくさんお話をした事など、胸に残る興奮を次から次へとイルカに打ち明けていました。
そんな楽しい時間の途中、リビングのほうから、
「ごはんよー!」
とお母さんの明るい声がしました。
今日の晩ご飯は、カレーライスでした。スパイシーで香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がり、少年はとても嬉しそうにスプーンを動かしました。そして少年の隣では、イルカも一緒になって、お皿のカレーを美味しそうに食べていました。
「今日は二人とも、ずいぶんと食欲がいいわね。」
お母さんはその様子を見て、目を細めながら嬉しそうに言いました。お母さんのアミキティアであるウサギも小さな口を動かしながらバクバクと勢いよくカレーを頬張っていました。いつもよりどこか弾んで見える少年とイルカの様子が気になり、お母さんは優しく尋ねました。
「今日、何かいい事でもあったの?」
すると、イルカが少年の顔をそっと見つめながら言いました。
「今日は初めて、この子の本当の笑顔を見たよ。とっても嬉しそうだったんだ。」
イルカはそう話しました。しかし、お母さん自身にはイルカの言葉がそのまま届くわけではありません。お母さんの耳には「キューキュー」という愛らしい鳴き声にしか聞こえませんでしたが、イルカの仕草や声のトーンから、何かとても素敵なことが起きたのだという事はしっかりと伝わってきました。
お母さんは優しい眼差しを少年に向けました。
「何か嬉しい事があったらしいなら、本当に良かったわ。」
お母さんはそう言って微笑みました。
少年がご飯を食べ終わり、イルカが最後の一口を食べ終えるのを隣でじっと待っていたときでした。お母さんがお皿を片付けながら、ボソッと静かに言いました。
「ねえ、そのイルカの名前、もう決まったの?」
少年は、まだ名前を決めていない事を少しきまり悪そうに伝えました。それを聞いたイルカも、目をきらきらと輝かせながら言いました。
「僕に名前を付けてくれるの?なんだかすごく嬉しいな。」
お母さんは、自分の足元で満足そうにしているウサギを優しく撫でながら、言葉を続けました。
「このウサギはね、クルミって名付けたのよ。かわいいでしょ?あなたも素敵な名前を考えてあげてね。」
少年は、それからずっとイルカの名前について頭を悩ませていました。どうしようかと真剣に考えを巡らせるうちに、少年の中にひとつのこだわりが浮かんできました。せっかくなら、ちょっとカッコいい系の名前がいいなと思ったのです。
あれこれと考えた末、少年の頭に一つの響きがひらめきました。少年はとりあえず、「アポロ」と呼ぼうと思い、少しドキドキしながらお母さんに意見を聞いてみました。
「アポロ?いいじゃない!すっごくステキな名前よ。」
お母さんはパッと顔を輝かせて太鼓判を押してくれました。こうして、少年をずっと支えてくれる大切なイルカの名前は、正式に「アポロ」に決まりました。
「アポロ?やったぁ!僕の名前はアポロなんだね!よろしくね!」
アポロは飛び上がるほどの大喜びをして、その場でパタパタとヒレを動かしたり。嬉しそうに跳ね回ったりしました。そんなアポロの姿を見て、少年の心もすっかり温かくなりました。そして、少年とアポロは寄り添うようにして、部屋に戻りました。
静かになった部屋の中で、アポロは少年に何度も
「名前をくれてありがとう。」
と伝えました。アポロは愛おしそうに、少年のふっくらとした頬を自分の口先で何度もスリスリと撫でました。そしてアポロは少年に思わずギュッと抱きつきました。
少年はやっぱり嬉しくて、嬉しくてたまりませんでした。アポロというかけがえのない存在をその小さな腕でずっと抱きしめながら、少年はかつてないほどの安心感に包まれて、静かな夜を穏やかに過ごすのでした。




