4-2 白瀬トウカ
アズサが湯飲みを卓上に置きながら、思い付いたように口を開いた。
「この人気ならランキングはどうかな?」
「見てみますか」
セイナは膝の上に置いていたタブレットを持ち上げ、日本アストレア協会の公式アプリを起動する。所属認証を済ませると、ホーム画面には最新任務や協会からの通知が並び、その中から《アストレア名簿》を開いた。
「何それ?」
ソファに寝転がっていたナツキが、目元のタオルを少しだけ持ち上げる。
「日本アストレア協会の公式アプリよ。所属しているアストレアのプロフィールや任務履歴、ランキングなんかが見られるの」
「ほうほう、そんなのが」
名簿を開くと、画面上部には大きく五人の顔写真が表示されていた。
今もっとも注目を集めているアストレア。アクセス数の上位5名である。そして、その中で1位に表示されていたのは。
「おおっと、この可愛らしいのは、ひょっとしてボクなのでは」
「やかましいわ」
白髪の少女――女装姿のナツキが、一位の位置で満面の笑みを浮かべていた。証明写真とは思えないような愛らしい顔をしている。
あれだけニュースや動画サイトで取り上げられたのだ。当然と言えば当然である。
セイナはそのままプロフィール画面を開く。上部には大きく二種類の数値が表示されていた。
「市民評価と……協会評価?」
ナツキが首を傾げる。
「市民評価は、その名の通り一般の人が投票する人気指標。応援したいとか、格好いいとか、かわいいとか、そういう印象も含めて自由に投票できるの」
「なるほど」
「それで協会評価は、アストレア協会や現場の評価員、それに戦術教官なんかが付ける実績評価。戦闘能力や任務達成率、市民救助や貢献度なんかを総合して決まるのよ」
「ほうほう、なるほどなるほど」
セイナは画面を一瞥し、小さく肩を竦めた。
「アンタは市民評価は高いわね」
「おお!」
「でも協会評価はゼロ」
「ゼロ!? ナッシング!?」
勢いよく身体を起こしたナツキに、セイナは呆れたように息を吐く。
「当然でしょう。出撃したのは一回だけ。それも回収任務がほとんどだったんだから、評価材料なんてないもの」
「ええ……」
「まぁ、この数値は毎月更新されるから、焦る必要はないわ」
そう言いながら順位表示へ切り替える。
一瞬だけ読み込みが入り、画面中央へ数字が現れた。
「301位……全2985名中」
「301位!? めっちゃ不人気じゃん! このルックスと愛嬌だよ!?」
笑ったのはアズサだった。
「いやいや、十分すごいよ、それ」
「ええ」
セイナも頷く。
「ランキングは市民評価と協会評価を合わせた総合順位。アンタは協会評価がゼロなのに、市民評価だけで300位台まで来てる」
これは普通ではあり得ない。大手事務所が莫大な宣伝費を掛け、新人を何ヶ月も売り込んでようやく届くかどうかという位置だ。それを、たった一度の出撃だけで獲得してしまった。
「全体で見れば上位一割くらいって考えればいいかな」
アズサが指を立てる。
「十分エリートだよ」
「うーーーん……そう言われると、悪くない……?」
まだ実感が湧かないのか、ナツキは眉間に皺を寄せながら腕を組み、しばらく唸っていた。やがて、何か思い付いたように顔を上げる。
「ところで、セイナちゃんは?」
「……む」
「順位」
「私は別に」
誤魔化そうとした、その瞬間だった。
「はい」
アズサが横から勝手に画面を操作し、《八雲ヶ原資源管理事務所》所属一覧を開く。
そして《真弓セイナ》の名前を迷いなくタップした。
「ちょ、所長!」
抗議も虚しく、順位が表示される。
四十八位。
「四十八位……!」
ナツキの目が丸くなる。
「すごいじゃん!」
「いや、その数字だけ見ればねぇ」
アズサがニヤリと笑う。
「票を見てごらん」
ナツキの視線が数字へ移る。
市民評価は平均より少し下。しかし協会評価だけが、異様なまでに高かった。
「真逆だ」
アズサが楽しそうに頷く。
「つまり専門家から見ると、『この子めちゃくちゃ優秀じゃん』って評価。でも一般の人から見ると、『なんか地味だな』って感じ」
「つまり?」
「華がない」
痛いところを突かれた。
「あと愛嬌不足」
「……そういうのは、私の担当じゃないので」
ぼそりと返すしかない。
実際、その通りなのだから。
アストレアという職業は、リヴォラと戦うだけでは終わらない。人気アストレアになれば写真集が発売され、企業広告に出演し、テレビ番組へ呼ばれ、ライブイベントまで開催される。
ランキング上位者の中には、出撃回数よりメディア出演の方が多い者すら存在する。
もちろん、それらを軽んじるつもりはない。多くの人に夢や希望を与え、人々へ笑顔を届けることもまた、アストレアに求められる大切な役目なのだから。
セイナは画面に映る自分の順位を静かに閉じる。
愛想よく笑って、カメラへ向かって手を振るより。一発でも多く敵を撃ち抜き、一人でも多く市民を守ること。そして、私には目指すべきものがある。それになることが最大の目標なのだ。
少しくらい、市民評価が増えても悪くはないかもしれないとは、思わなくもないけれど。




