3-4 アストレア
「ねえ、質問なんだけどさ、リヴォラって鉱物とか金属でできてるんだよね?」
作業アームでリヴォラの残骸を回収しながら、ナツキが声を掛けてくる。
「そうよ」
セイナは回収した残骸をコンテナへ放り込みながら頷く。二人の周囲には無数のリヴォラの死骸が漂っていた。
先日の大規模戦闘で撃破された個体群だ。それらは既に活動を停止しており、海面には未だ大量の残骸が残されている。
真っ白な『浮嚢繊維』に包まれたそれらは、遠目には巨大な花弁にも見えた。
青い海に浮かぶ白。波に揺られながらゆっくりと漂う様子は幻想的ですらある。だが実際には、その内部には大量の金属や鉱物が詰まっており、ノアを支える重要な資源だった。
「沈まないの?」
ナツキが首を傾げる。
その疑問はもっともだった。金属や鉱物の塊ならば、本来は海底へ沈んでいくはずである。
「ああ、それなら……」
セイナは近くに浮かんでいた残骸を引き寄せる。そして表面から伸びている一本の繊維を指差した。親指ほどの太さで表面は黒く、ぬめりを帯びた金属光沢を放っている。
「アンタの剣で切ってみなさい」
ナツキは楽しそうに頷いた。
腰の双剣へ手を伸ばす。カチリとロックが解除され、軽快な金属音と共に二本の剣が引き抜かれる。
「しゃきーん!」
決めポーズ付きだった。
「はいはい、早くなさい」
セイナは半眼になる。雑な対応にナツキは気にした様子もなく、一本の剣を黒い繊維へ近付けた。
刃先が触れる。キィ、と小さな音が鳴った。金属同士が擦れるような硬質な感触。だが同時に、生き物の皮膚に触れたような奇妙な柔らかさもある。ナツキは眉を上げた。
「なんだこれ」
さらに力を込める。
ぐにゅり。
今度は肉を押し潰したような感触が返ってきた。硬いのか柔らかいのか分からない。まるで生物と機械の中間のような手応えだった。そのまま刃を引き切る。
ぷつり。
黒い繊維が切れた。その断面は、外観とは対象的に真っ白で、隙間なく髪の毛ほどの繊維の束が詰まっている。切り取られた繊維片は十センチほどの長さしかないが、その見た目に反して驚くほど軽い。
ナツキは手の中で何度か放り投げる。
「それを海に捨ててみなさい」
「こう?」
ナツキは言われるまま、海面へ放った。黒い繊維は放物線を描きながら落下する。
ぽちゃんと静かに海へ沈んだ。
しばらくの沈黙、何も起きない。ナツキが首を傾げ始めた、その時だった。
――ポン。
海中から小さな音がした。続いて水面が揺れる。
白い何かがゆっくりと浮かび上がってきた。それは先程までの黒い繊維とは似ても似つかない姿になっていた。中に詰まっていた白色の繊維が何倍にも膨張し、スポンジのような多孔質構造へ変化している。
海面にぷかぷかと浮かぶ様子は、まるで巨大な発泡樹脂の塊のようだった。
「おおーっ」
ナツキが素直に感嘆する。
セイナはその様子を見ながら説明を続けた。
「リヴォラの身体を構成している黒い繊維、これを構造繊維と呼ぶ。これを伸ばして無数の鉱物資源を絡めて身体を構成しているわけ」
指先で黒い外皮を軽く叩く。コン、と鈍い音が返ってくる。
「それで、その中にある白いやつが浮嚢繊維」
海面へ浮かんだ白い塊を示す。
「普段は浮嚢繊維は糸状なんだけど、多量の電解質と接触すると構造が変化するのよ」
「電解質?」
「この場合は海水ね」
セイナは続けた。
「海水が入り込むと内部構造が変化して、こうやってスポンジみたいに膨らむ。だからリヴォラは沈まない」
周囲に漂う無数の残骸を見渡す。真っ白な花のような死骸たち。その全てが、この浮嚢繊維によって海面へ留まっているのだ。
「死んでもしばらくは浮いたまま。だから私達みたいな回収屋が資源を回収できるってわけ」
「なるほどねぇ」
ナツキは感心したように頷いた。




