第13話 婚約指輪は伝説のドラゴンから毟り取った宝石
実家の面々による殴り込み騒動から一夜明けた朝。
私はいつものように、雲みたいにふかふかのベッドの上で目を覚まし――そして、見慣れない豪奢な天蓋を見つめたまま、静かに悶え転がっていた。
(妻、予定……!)
じわっ。
思い出すだけで、また顔から火が出そうになる。
昨日、廊下で。
実家の家族が喚き散らす、あの血で血を洗うような修羅場のど真ん中で。
王国最強の『氷の死神』は、私を背に庇いながら、凍りつくような声で確かに言ったのだ。
『誰に許可を得て、俺の妻(予定)の前に立っている?』
しかもその後、二人きりになってから恐る恐る確認したら、「そのままの意味だが」とド真顔で返された。
おまけに「嫌なら嫌と言え」と、選択権(という名の逃げ道)まで提示された。
ずるい。
本当に、ずるい。
重い。甘い。誠実。逃げ道なんて最初からあるわけがない。
モブファンに向けられる推しの愛情表現として、あまりにも攻撃力が高すぎる。私の防御力はとうの昔にマイナスに振り切れているというのに。
私は最高級の毛布を頭まで引っ張り上げ、じたばたと足を動かした。
無理。朝から限界オタクの情緒が忙しい。
もちろん、嫌ではない。むしろ死ぬほど嬉しい。
嬉しいのだけれど、こう、心の準備というものがあるではないか。
前世でも今世でも、「結婚」という単語は私にとって、遠い星のように現実感のないイベントだと思っていたのに。それが急に、最愛の推しから直球で飛んできたのだ。
しかも『妻予定』。
予定って何。いつの間にそんな重大プロジェクトの計画書が作成されていたのですか。私、稟議書も見ていなければ、承認印も押していないのですが。
「ルシエラ様、失礼いたします」
控えめなノックの音とともに、侍女さんの声が響く。
「は、はいっ!」
私は慌てて毛布から顔を出した。
危ない。このままでは朝から限界オタクの奇行を見られるところだった。
侍女さんたちが静かに部屋へ入ってくる。
洗面の支度、適温のお茶、完璧に整えられた着替え、朝食の案内――すっかり慣れてしまった、超絶ホワイトな朝の流れだ。
だが、その完璧なルーティンの中で、私はひとつの重大な『異変』に気づいた。
「あの……クロード様は?」
「旦那様でございますか?」
「は、はい」
侍女さんは一瞬だけ不思議そうな顔をしたあと、穏やかに答えた。
「本日は夜明け前より、お一人でお出かけになられております」
「お出かけ」
ぴたりと、私の動きが止まる。
クロード様が。早朝から。私へ何も言わずに。お出かけ。
いや、別におかしなことではない。
クロード様は多忙を極める第一騎士団長である。急な討伐要請もあるだろうし、昨日の実家の件で根回しだって必要かもしれない。
分かっている。分かっているのだけれど。
(……何でしょう、この胸の、もやっとしたものは)
いつもなら、朝には必ず一度顔を見せてくれるのに。
残さず食べたかとか、よく眠れたかとか、寒くないかとか、細かすぎるほどあれこれ確認して、私の頭を撫でてくれるのに。
今日は、それがない。
たったそれだけのことなのに、落ち着かない。
落ち着かないどころか、少しだけ、ひどく寂しい。
えっ。
待ってください。今の感情、私のような底辺モブにとってはだいぶ危険な兆候では?
私は自分の胸元をぎゅっと押さえた。
いけない。推しが四六時中近くにいる、過保護な生活に慣れすぎている。
これは完全に手厚すぎる福利厚生への依存である。いや違う、クロード様本人への依存では?
「ルシエラ様?」
「あ、いえ……ただ少し、今日の『業務開始前のコンディション確認(推しによる健康チェック)』がなくて、調子が狂うなと……」
「……はい?」
侍女さんが何とも言えない微妙な顔になった。
しまった。また社畜脳の解釈が漏れてしまった。
私はごまかすように曖昧に微笑み、急いで朝の支度を始めた。
◇ ◇ ◇
その日、私は一日中そわそわしていた。
完璧な朝食を食べても落ち着かず。
上品なお茶を飲んでも落ち着かず。
図書室で借りた本を開いてみても、文字が全然頭に入らない。
なぜなら、クロード様が戻ってこないからだ。
いや、戻ってこないというか、まだ昼前なのだけれど。
でも気になる。とても気になる。
庭へ出ても、つい鉄格子の門の方を見てしまう。
いつものように執務室へ行こうとして、「今日はお前を監視する席はない」とか言われたらどうしようと、謎の不安に駆られる。いや、あの激重な人がそんなことを言うはずがないと頭では分かっているのに。
(私、想像以上にクロード様の過保護に慣らされていませんか……?)
これはいけない。精神的自立が脅かされている。
でも、「頼れ」と言われたし。「お前を守るためにいる」とも言われたし。
ううん、でもだからって、朝いないだけで心がそわそわして落ち着かなくなるのは、オタクとして重症なのでは?
私が客間のふかふかソファで一人、真剣に『推しとの適切な距離感』について悩んでいた時だった。
廊下の向こうから、何やら慌ただしい足音と、ざわめきが近づいてきた。
「旦那様がお戻りに……!」
「お、おい、あれは……マジかよ」
「まさか本当に、お一人で……?」
何だろう。
使用人さんや護衛の騎士さんたちが、妙にざわついている。
私はきょとんとして顔を上げた。
その直後。
ばたん、と、やや乱暴な勢いで分厚い扉が開いた。
そして、そこに立っていたのは――言うまでもなく、私の最愛の推しであるクロード様だった。
「クロード様!」
思わず、弾かれたように立ち上がる。
帰ってきた。よかった。
あ、今めちゃくちゃ嬉しかった。駄目だ、もう自分の感情をごまかせない。
だが、そんな私の純粋な感動は、次の瞬間、一気に別の意味で吹き飛んだ。
なぜならクロード様は、軽く埃っぽくて、漆黒の騎士服の肩に何か『白い粉』みたいなものが乗っていて、微かに焦げ臭くて、しかも片手に、見覚えのない黒い布包みを大事そうに抱えていたからである。
さらに言えば、なんとなく、生々しい血の匂いがした。
「…………」
私は一瞬、笑顔のまま完全に固まった。
ええと。
これはその。何でしょうか。
出勤前の爽やかな筆頭騎士、ではない。
どう見ても、何か『シャレにならない凶悪なもの』を討伐して帰ってきた直後の、血の匂いを纏った最強騎士様である。
そしてクロード様は、そんな物騒な格好のまま、私を見るなり、ふっと氷を溶かすように表情を緩めた。
「起きていたか」
「い、いえ、起きていたかも何も、もうすぐお昼ですが!?」
「そうか」
「そうか、ではありません! 何があったのですか、そのお姿と、その血の匂いは!?」
私は思わず駆け寄ろうとして、いつもの癖でぴたりと止まる。
あ、でも今日はこの後、怒涛の『抱っこ規制(物理)』がかかるかもしれない。いやそんなことより心配が勝つ。
「お怪我は!?」
「ない」
「本当に!?」
「ああ」
即答だった。
私はほっと息をついた。ついたのだが、まだ安心はできない。
「では、その……早朝から、何をなさっていたのですか?」
「少し、出かけていた」
「『少し』の規模と装備がおかしいのですが!?」
クロード様は当然のような顔をしている。
だが、後ろで控えている部下の騎士さんや執事さんたちは、明らかに「『少し』どころの騒ぎではない」と顔に書いてあった。
私はじっとクロード様の目を見つめた。
すると、彼はほんの僅かに視線を逸らした。
珍しい。あのクロード様が目を逸らすなんて、ものすごく珍しい。
「……何か、隠していますね?」
「隠してはいない」
「では、その不自然な間は何ですか」
「問題ない」
「問題ありますぅ!」
私が抗議すると、クロード様はやれやれとでも言いたげに短く息をつき、それから、手にしていた黒い布包みを私の前へ差し出した。
「これを、渡しに行っていた」
「……へ?」
私は目を瞬かせた。
渡しに? 私に?
「開けてみろ」
「え、あの、でもその前に、出かけ先と白い粉と血の説明を――」
「後だ」
「後」
「先に開けろ」
「強引ですね!?」
だが、クロード様は引かなかった。
ここまで言うということは、何かとんでもないものではない……たぶん。いや、推しの『とんでもないもの判定』は、色々とバグっているのでだいぶ怪しいのだが。
私は恐る恐る、差し出された布包みを受け取った。
ずしり、とはしない。意外と軽い。
でも何だろう、内側から妙にひんやりとした、圧倒的な魔力のようなものを感じる。
そっと、黒い布を解く。
次の瞬間。
「…………っ!?」
中から現れたものを見て、私は言葉を失った。
指輪だった。
ただの指輪ではない。
中央に嵌め込まれた宝石は、澄みきった夜空をそのまま凝縮して閉じ込めたような、深く、恐ろしいほどに美しい蒼。
角度を変えるたび、内側から銀の光が流星みたいにきらめく。
台座の細工も異常なほど緻密で美しく、繊細なのに王者の気品があって、いかにも王族ですらそう簡単には手にできなさそうな、国宝級の逸品だった。
きれい。
息を呑むほど、きれいだ。
「こ、これ……」
「婚約指輪だ」
「…………」
私は、完全に静止した。
時が。止まった。
「こんやく」
「ああ」
「ゆびわ」
「ああ」
「…………」
「……気に入らなかったか」
気に入らないとか、そういう次元の話ではない。
私はわなわなと震える手で、その美しすぎる指輪を見つめた。
婚約指輪。
今、婚約指輪と仰った。
つまりこれは、昨日のあの「妻(予定)」発言が完全にノリや勢いではなかったという、揺るぎない、重すぎる『物証』である。
えっ。
本当に? 本当にそこまで話が進んでいたのですか?
「い、いや、あの、気に入らないとかでは全然なく! むしろ美しすぎて直視できないのですが、問題はそこではなくてですね!」
「どこだ」
「どこも何も、急です!」
「昨日、嫌ではないと言っただろう」
「言いましたけれども!」
「だから準備した」
「行動力と実行速度が早すぎますぅ!」
クロード様は、不思議そうに少しだけ首を傾げた。
「遅い方がよかったのか」
「そういう問題でもなく!?」
「なら何が問題だ」
「私の心の準備です!」
「準備ならこれからすればいい」
「横暴……!」
駄目だ。会話のテンポと圧が強すぎる。
私の限界社畜な処理能力が、完全にオーバーヒートを起こしている。
だが、その一方で、胸の奥はじわじわと、泣きたくなるほど熱かった。
嬉しい。
とても嬉しい。
推しが、私のような者との未来を、本気で考えてくれている。
しかもそれを、言葉だけでなく、こんなに美しい形にして持ってきてくれた。
そんなこと、嬉しくないはずがない。
でも、同時に。
ひとつだけ、どうしても聞いておかなくてはならないことがあった。
私はそっと顔を上げた。
「……クロード様」
「何だ」
「この指輪、どちらで調達なさったのですか?」
そう。それである。
どう見ても高価だ。その辺の高級宝石店で「ちょっと出かけて買ってきた」では絶対に済まない気配がする。
そして何より、さっきから付きまとっている『白い粉』と『血の気配』が、非常に不穏だ。
私の問いに、クロード様は沈黙した。
あっ。
その沈黙は、だいぶ怪しい。
「……クロード様?」
「お前に似合う石を探した」
「はい」
「魔境の主を倒した」
「はい」
「そこにあった」
「はい――って、はい!?」
私はついに、耐えきれずに悲鳴を上げた。
何ですって?
魔境の主を? 倒した? そこにあった?
話のスケールがおかしい。おかしいどころではない。
婚約指輪の調達方法として、明らかに想定外のルートである。
「ま、ま、魔境って、あの……王都の北にある、高位騎士でも死を覚悟する立入禁止区域の!?」
「ああ」
「主って、神話級の伝説の魔物では!?」
「……ドラゴンだった」
「ドラゴン!?」
後ろで控えていた若い騎士さんが、いたたまれなさそうにスッと目を逸らした。
たぶん、事実なのだろう。
私はふらりとよろめきそうになった。
しかし当然のようにクロード様の腕が伸びてきて、がっちりと腰を支えられる。
「落ち着け」
「落ち着けません! 婚約指輪を探しに行って、単騎でドラゴンを倒して帰ってくる人を、どう落ち着いて受け止めればいいのですか!?」
「他に適当な石がなかった」
「適当の基準が国土防衛級です!」
クロード様は真顔だった。
「お前に似合うと思った」
「だからって、ドラゴンから毟り取る必要あります!?」
「それが最短だった」
「最短ルートで世界観と生態系を破壊しないでください!」
ああもう、本当に無理だ。行動力が異常すぎる。
◇ ◇ ◇
「旦那様は、夜明け前に単騎で魔境へ向かわれまして……」
「我々が止める間もなく……」
「そして、正午前には主の首を落として、この宝石をえぐり出して帰還されたのです……」
控えていた騎士さんたちが、顔を引きつらせながらぼそぼそと補足してくれる。
やっぱり本当だった。
私は両手で顔を覆いたくなった。でも片手にはドラゴンの指輪。覆えない。
「どうしてそんな危険なことを……!」
「危険ではない」
「危険ですぅ! 相手ドラゴンでしょう!?」
「俺にとってはそうでもない」
「基準が王国最強のそれなんですよ!」
クロード様は私の抗議を正面から受け止めつつ、しかし微動だにしなかった。
「……指輪は、必要だ」
「そ、それは……」
「お前に、俺の意思が冗談ではないと示すために」
「…………」
「言葉だけでは、足りないだろう」
私は、そこで黙った。
ああ、ずるい。
本当にずるい。
ただ自分の欲望のままに勢いで押しているのではない。
ただ「欲しいから囲う」という暴君でもない。
今まで虐げられてきた私が、不安にならないように。
自分の気持ちが本気だと、疑いようのない形で伝わるように。
そのために、自分なりの最善を尽くした結果が、『ドラゴン討伐』なのだ。
規模はおかしい。方法もだいぶおかしい。
でも、その根っこにある私への気持ちは、びっくりするほど真っ直ぐで、純粋だった。
「……ルシエラ」
低い、ひどく甘い声で名を呼ばれる。
顔を上げると、クロード様はいつになく静かな、そして少しだけ緊張した目で私を見ていた。
冷たい氷の色なのに、その奥には深く、火傷しそうなほどの熱がある。
「改めて言う」
「…………」
「俺は、お前と婚約したい。……お前を、俺の妻にしたい」
「…………」
「嫌なら、断れ」
最後の一言だけ、少しだけ声音が硬くなった気がした。
ああ、きっと、緊張しているのだ。あの無敵の氷の死神が。私の返事を待って。
そう思った瞬間、胸がぎゅっと、痛いほど締めつけられた。
推しが。
あの王国最強の筆頭騎士が。
私の返事を待って、怯えるように緊張している。
そんなの、反則ではないか。
私は指輪を見つめた。
深い蒼の石が、手のひらの上で静かに、脈打つように光っている。
きれいだ。
恐ろしいほどきれいで、そして、たぶん世界にひとつしかない。
ドラゴンから毟り取った婚約指輪。
何だその、物騒すぎる唯一無二の愛の証。
でも。
(……推しが、公式供給を自ら物理で自給自足している……)
じわじわと、別方向のオタク的感動が込み上げてきた。
婚約イベント。婚約指輪。最強騎士。伝説のドラゴン。
全部、自前で調達している。
すごい。スケールが大きすぎて逆に笑いそうだ。
でも、それ以上に、どうしようもなく嬉しい。
私は気づけば、小さく笑っていたらしい。
クロード様が僅かに目を見開く。
「……ルシエラ?」
「ずるいです、クロード様」
「何がだ」
「そんなの……断れるわけがないではありませんか」
「……では」
「は、はい……」
言ってから、ぼんっと顔が沸騰するように熱くなる。
ああ、言ってしまった。
でも、後悔はない。まったくない。
「……よろしく、お願いします」
声は小さかったけれど、静まり返った広間にはちゃんと届いたらしい。
クロード様の目が、静かに細められる。
ただ嬉しそうに笑う、とは違う。もっと静かで、深く、魂の底から安堵したような表情だった。
その顔があまりにも綺麗で、甘くて、私は危うくその場で昇天しかけた。
「では、手を」
言われて、私はこくこくと頷く。指先が少し震える。
クロード様が私の左手を取り、そっと、壊れ物に触れるように薬指へ指輪を通した。
ぴたりと収まる。
まるで最初から、そこにあるべきものだったみたいに。
「……きれい」
思わず呟くと、クロード様の視線が指輪から私の顔へ移った。
「お前の方が綺麗だ」
「ひゃうっ」
変な声が出た。
無理。
婚約成立直後にそのストレートな台詞は無理だ。糖度が致死量だ。
後ろの騎士さんたちが、一斉に真っ赤になって視線を逸らす。
すみません。たぶん今、皆さんも気まずいです。でも私が一番気まずくて心臓が爆発しそうです。
◇ ◇ ◇
結局その後、私は情緒の限界により、クロード様の腕の中へ抱っこで回収された。
「し、心臓が……」
「大丈夫か」
「大丈夫ではありますが、大丈夫ではありません……」
「そうか」
「そうか、ではないです……!」
私は真っ赤な顔のまま、クロード様の胸元へ額を押しつけた。
だって無理だ。
婚約した。本当にした。しかも指輪がドラゴン産である。
情報量が多すぎる。
クロード様はそんな私の背を、ゆっくりと撫でる。
いつもの過保護な手つき。でも今日はそこへ、はっきりとした『婚約者』としての重い熱が乗っていた。
「嫌ではないんだな」
「……嫌では、ないです」
「怖くも?」
「ちょっとだけ、色々と急展開すぎて怖いですが……」
「それは悪かった」
「でも、嬉しいです」
「……そうか」
その一言が、やけに優しくて、甘かった。
私はそっと、指輪のはまった左手を見下ろした。
きらきらしている。綺麗だ。
そして重い。いや物理的な重量ではなく、込められた意味と愛が。
「クロード様」
「何だ」
「ひとつだけ、お願いが」
「言え」
「次に何か調達なさる時は、できれば『ドラゴン討伐以外』の手段でお願いします」
「善処する」
「そこは確約してください!」
クロード様は微かに口元を緩めた。
笑っている。ああもう、本当に格好良くて困る。
その後ろで、若い騎士さんがぼそっと呟く。
「団長、ついに婚約まで自力で物理攻略したのか……」
「しかも神話級のレア素材持参で」
「公式供給の出力が強すぎるだろ……」
聞こえていますよ。
私は顔を上げかけて、でもすぐに顔の熱さが引かないと悟って、再びクロード様の胸元へ顔を埋めた。
恥ずかしい。
でも少しだけ、誇らしい。
だって私の推しは、最強で、重くて、優しくて、婚約指輪まで伝説級なのだ。
こうして私は、ドラゴンの宝石で正式に婚約者となった。
そしてもちろん、このとんでもない話は即日で屋敷中、騎士団中、そして近いうちに王都中へ広がることになるのだけれど――この時の私はまだ、指輪の重みと、推しの腕の温かさだけで、いっぱいいっぱいだったのである。




