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第42話・竜王の娘戦 前編

今月は私用の為、不定期投稿となります。申し訳ありません。

 白炎を纏った少女は首を動かし、周囲にいる俺たちの動向を伺っている。そんな少女に対して、俺は妖刀の黒蛍を引き抜いて低く構える。


 少女の能力で最も警戒しなければいけないものは今のところ2つ。


 1つ目は少女の纏っている白い炎だ。少女のステータスの中では白炎の正体らしきスキルは見当たらなかった。恐らく、伏せ字になっていたスキルなのだろう。


 少女は白き炎は魔力を焼くと言っていた。その言葉を信じるならば、魔力の塊である魔法は焼かれて無効化されるということだ。魔法が主体のベルゼブブはかなり相性が悪い。


 ベルゼブブでなくとも主力の攻撃手段が一つ消えるというのはかなりきつい。纏うだけで魔法に対する絶対耐性を手にし、それを放てば攻撃手段にもなる。強力な力だ。


 2つ目は結界術なるスキルだ。鑑定を使いスキルの詳細を見た結果はこうだ。



【スキル】『結界術』

 結界を張ることのできるスキル。結界は身を守るだけでなく、敵を隔離したり結界内のものを転移させたりすることができる。



 文面だけ見てもよく分からないが、どうやら防御であったり敵の拘束に使うことのできるスキルのようだ。スキルがLvMaxであったため、相当強力であることが予想できる。


 他の3人はステータスを見た俺とは違い、少女の能力値やスキルを知らない。


 しかし、少女が先程の攻撃を凌いだことで並の相手ではないことは分かっている。


 ベルゼブブやイブ、アリシアもそれぞれが警戒しながら構える。5人全員が停滞し、辺りには深い静寂が訪れた。


 物音は一切立たず、聞こえるのは自分の呼吸音と拍動がうるさく感じる。まるで自分以外の時間が止まってしまったかのように感じる。


 永遠に続くかと思われた静寂は一つの行動で破られる。


「ギュアッ」


 最初に行動を起こしたのはイブだった。先ほどのように上体をそらして深く息を吸う。そして、大きく顎門を開けて紫色の毒の塊を少女へと吐き出した。


 吐き出された毒は先ほどの毒ガスとは違い、固体の強力な溶解毒だ。


 そんなイブに対して少女も行動を起こしていた。少女は肩と水平になる位置まで腕を上げ、正面に向けて手の平を開く。すると、少女を囲むようにして半透明な立方体の障壁が出現した。


 イブの毒はビシャッという不快な音を立てて、その障壁へとぶつかり四散する。地面へと落ちた溶解毒が地面を溶かし煙を上げるが、障壁が影響を受けている様子はない。


 恐らく、あの半透明の障壁は少女のスキルである結界だろう。少女の白炎は魔力を焼くため魔法は無効化できても、魔力ではなくあくまでも分泌物である毒までは防げない。


 毒ガスは熱風を使って回避していたが、個体である溶解毒はそうはいかない。


 そのため、結界を張って防いだわけだ。しかし、これは好機かもしれない。結界がある以上こちらの攻撃も防がれはするが、結界の中では少女も身動きが取れないということだ。


 結界は見たところ毒をほぼ完全に無効化できるようだが、直接的な物理攻撃はどうだろうか。


 俺はちらりと手に握っている妖刀を見る。ホーン・ラビットを真っ二つにしてから実戦ではほとんど使っていなかったが、素振りは嫌というほどやった。


 黒蛍は最高峰の妖刀ではあるが、敵は竜王の娘だ。相手にとって不足はない。あわよくば結界ごとぶった切る。


速度超過(オーバースピード)


 体が微かに輝き軽くなっていく。俺は魔法で自身の速度を底上げしてから地面を蹴り、妖刀を腰のあたりで低く構えながら少女へと迫る。少女は俺の接近には気が付いたようだが、結界の中にいるため手出しができない。


「うおりゃっ!」


 俺は勢いを乗せて下から斬りあげるように斬撃を結界へと当てる。妖刀が結界へと衝突すると、ギィンという硬質な物同士がぶつかった音が鳴る。


 振動が伝わり腕がしびれる。危うく妖刀を離しそうになるが、何とか握り直す。腕の痺れに耐えながら結界を見ると、僅かに妖刀の刀身が結界へと切り込んでいる。


 刀身は少女には届かず切断には至らなかったが妖刀の刃は通った。俺は腕に力を入れて妖刀を押すが、刀身はそれ以上動かない。


「くそっ、俺自身の腕力が足りないのか」


 俺は結界を斬ろうと奮闘していると、アリシアも別方向から行動を起こす。アリシアが両手を広げて魔力を収束させていくと、いくつもの黒い三日月状の刃が出現する。


闇の刃(ダークネスエッジ)


 いくつもの刃が風を切りながら少女へと放たれるが、あっけなく結界に弾かれる。弾かれた刃は地面へと突き刺さり、塵のように消えていく。


「これも効果なしですか…カナデさん、一旦引いてください」


 何をする気かは分からないが、俺は妖刀を結界から引き抜いて後退する。俺が少女から離れると同時にアリシアが魔法を発動し始める。


防御力低下(フォールディフェンス)強度弱体化(ウィークストレングス)


 結界を囲むようにして二重の黒い輪が出現する。その輪は少しずつ小さくなり、縛り付けるようにして結界に接触する。すると、その輪は結界に溶け込むように薄くなり消えてなくなる。


「カナデさん、もう一度攻撃を!」


 何をしたのかは分からないが、アリシアには何か策があるのだろう。俺は再び飛び込むように少女へと接近し妖刀を振るう。


 妖刀は結界を切り裂き、先ほどよりも深く切り込んだ。あともう少しで少女にも届いていたほどだ。どうやら、アリシアの魔法によって結界の強度が落ちているようだ。


 これには少女も動揺した様子を見せ、恨めし気にこちらを睨んできた。その瞬間、結界の別面にガラスがひび割れるような音と共に放射状に大きな亀裂が入る。


 少女と俺は咄嗟にその方向へと顔を向けると、そこには尾の毒針を結界に突き立てているイブの姿があった。イブの後ろの地面は激しく荒れており、助走をつけてきたのが分かる。


 イブの毒針は結界を貫通はしなかったが、今にも崩れそうなほどの損傷を与えた。恐らく2度目は耐えられない。勝機が見えたと思ったが、少女も黙ってみてはいなかった。


 少女は親指と中指を合わせて指を鳴らす。すると結界に自ずと亀裂が入る。その亀裂は結界の全体へと進み、結界が白く濁る。


 やがて限界ともいえるほど亀裂が行き渡ると、弾ける様にして結界が崩壊する。結界の間近にいた俺とイブを弾け飛んだ無数の結界の破片が襲う。


 硬質な外骨格をもつイブにとっては煩わしい程度の物だが、防御能力皆無の俺は違う。


 顔、胴、手、足、体の至る所に破片が刺さり激痛が走る。いくら再生能力が高くとも、傷口に異物が挟まったままでは完全な再生はできない。


 傷が治らなくとも生命力そのものが高いため死ぬことはない。しかし、人間であったときよりも痛覚が鈍くはなっていても全身にわたる痛みは堪える。


 痛みに耐えながら後退する。状況を確認するために瞼を開けるようとするが、どうやら片目に破片が刺さっていたようだ。全身が痛いため気が付かなかった。


 なんとか無事な方の目を開けて正面を見ると、目の前まで少女が接近している姿が目に入った。


「はっ!」


 少女は掛け声と共に俺の腹部めがけて手刀を突き出す。結界の破片に気を取られていた俺が咄嗟に反応できるはずもなく、手刀は俺の腹部に命中し突き抜ける。


「ぐっ」


 破片とは比較にならない痛みが俺を襲うが、寸前のところで踏みとどまる。少女の腕からは俺の血が滴り落ち、枯れた大地を濡らす。


 少女はすでに視点を俺からイブの方へと変えており、俺の腹部へと突き刺さった腕を引き抜こうとしている。どうやらこれで俺を始末したつもりらしい。残念だが、蟲王はこの程度じゃ死ねない。


 俺は痛みによって落としそうになっていた妖刀を握り直して、もう片方の腕で腹部へと突き刺さっている少女の腕を掴む。


「えっ?」


 死人に腕を掴まれたことがよほど意外だったらしく少女は間抜けな声を上げる。


「こんなもんじゃ死なねぇんだよ!」


 俺は隙だらけな少女へ袈裟斬りを放つ。少女は咄嗟に手を振りほどき距離をとったが、胴体へと浅くない傷を負う。


「ぐっ、なんで」


 俺は血が滴る傷口を抑えながら後退る少女へと追撃を加えようとするが、頭から流れる血が目に入り追撃を妨げる。


 血をぬぐったときには少女はすでに数歩先まで移動しており、速度超過(オーバースピード)の効果が切れかけている今の俺ではその距離を瞬時に縮めることはできない。


 惜しくも少女への追撃の機会を失ってしまった訳だが、何も少女の相手をしているのは俺だけではない。


 硬い外骨格で結界の破片を弾いたイブが、俺から距離を開けた少女へと両手の鋏を振るう。俺へと注意を向けすぎた少女では回避することができず重い一撃を受けてしまう。


 なんとか両手をクロスして防御をしたようだが、衝撃を受け流せずに真横に吹っ飛ぶ。地面へと強く叩きつけられていたが、格闘術のスキルが高いだけあって受け身をとり即座に立ち上がる。


 しかし、俺たちの攻撃はそれだけでは止まらない。


「眷属召喚 五月蠅」


「蜘蛛糸 鉄糸」


 ベルゼブブの眷属の蝿が巨大な群れを作り、アリシアは硬質の糸を放つ。


「聖炎渦」


 少女は自らの周りに白炎の渦を作って、蝿と糸を焼き尽くす。やはり、あの白炎が厄介だな。


 あの白炎が原因で魔法はもちろんだが飛び道具も通じないため近接戦闘するしかない。しかし、少女の一撃を受けられるのはイブと俺だけ。


 アリシアとベルゼブブの攻撃はほとんど効果がない。そのため、少女と距離が開くと再び硬直が続く。少女は手に付いた自分の血を振り払うと口を開いた。


「貴方は何者なの?腹を貫いたはずなのに死んでいないなんて…。それに貴方からはどこか私の父に通じる不思議な感じがする」


 少女の父…竜王に通じるか。やはり同じ魔物の王として何か似通るのかもしれない。とは言っても、それを少女に言う訳はないけどな。


 俺は答えずに不敵に笑ってみせる。


「良いわ、私が貴方達を甘く見ていたってことよね。泥棒相手に本気を出すのは癪だったけど、もう加減は無しよ。後悔しなさい」


 少女を白炎が竜巻のように包み、みるみる大きくなる。20m程まで大きくなり、白炎が晴れるとそこにいたのは巨大な龍だった。


 人型で戦っていたから忘れてた…こいつ龍だったな。


最新話の終わりから感想、評価をつけることができます。


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