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第41話・少女の正体

 一体何の能力なのかは分からないが、俺たちの位置がばれているようだ。俺とベルゼブブだけならばわかるが、アリシアまで気づかれているのはどういうことなのか。


 アラクネという魔物はスキルや能力が暗殺に特化している。故に隠密能力も非常に高い。あのサーチ・モスキートですら比べ物にならないほどだ。


 にもかかわらず赤髪の少女は隠れていることだけでなく、その位置まで見抜いて見せた。恐らくだが何かしらのスキルの効果だ。勘や本能で見抜けるほどアリシアの隠密能力は甘くない。


 あの少女に俺たちの居場所が割れているならば、これ以上隠れている意味はない。不意打ちができなかったのは痛いが、それに囚われて次の行動に移せないのはまずい。


 少女の能力やスキル構成は分からないが全員が一斉に動ける今、一気に畳みかけるしかない。


「アリシア!」


 俺の掛け声と同時に少女の周りから土煙が舞う。次の瞬間、少女の腕が体に張り付き縛られたかのように拘束される。


 少女を拘束したものの正体は、アリシアがあらかじめ設置しておいたワイヤーに近い糸だ。魔力を通した糸で強度が並の糸とはまるで違う。その細さも肉眼で確認できるほどもなく、罠に気付くことは至難の業だ。


 少女に対する攻撃はアリシアの罠だけでは終わらない。岩陰に隠れていたベルゼブブも姿を現し、周囲に蠅の眷属を召喚させる。


「禁忌魔法 革の戒め(レージング)


 突如、少女の足元から幾本もの黒い鉄鎖が出現する。


「縛れ!」


 ベルゼブブの声と共に鉄鎖が少女の体に巻き付き、その自由を奪う。


 アリシアの糸にベルゼブブの鎖、この二重の拘束はそう簡単には解けないはずだ。この機を逃す手はない。


 闘技場での戦いのときよりも多くの魔力を手に籠める。俺だけでなくアリシアやベルゼブブも同じようにして魔法発動の準備をする。イブも大きく息を吸う動作をして僅かに身をそらす。


 そして俺とアリシア、ベルゼブブは身動きの取れない少女へと手を向け、イブはその顎門を大きく開ける。


「王魔法 腐敗の波(コラプションウェイブ)


「王魔法 腐敗の波(コラプションウェイブ)


「闇魔法 腐敗の波(コラプションウェイブ)


「ギシャー」


 3人の周りから腐の波が発生し、イブは紫色の毒ガスを噴射する。3つの腐の波と毒ガスが合わさり毒腐の濁流となり、地面を削りながら少女を襲う。


 腐毒の濁流が迫るが、糸と魔法の鉄鎖に拘束された少女が避けられるはずもなく瞬く間に濁流にのまれる。


 腐毒の濁流に視界が覆われているため少女への効果は肉眼では確認できない。しかし、地面すら腐敗させる腐の波に一息でも吸えば即死は免れない毒ガス、それを同時に受けて無傷でいられるはずはない。


 地面が腐り不気味な音が鳴り悪臭が立ち込める中、少女の姿が現れるのを待っていると俺たちを急に熱風が襲った。


 まともに正面を見つめることすらできない熱風を受けて、咄嗟に顔を伏せてやり過ごす。一体この熱風は何なのか、少なくとも俺たちが発生させたものではない。そうなればあの少女が何かしたということだ。熱ということは炎に関するスキルを持っているのだろうか。


 熱風が弱まり顔を上げると、視界に映ったのは白い炎を纏う少女の姿だった。着用していたドレスは所々敗れていたり穴が開いているが、少女自身に外傷は見受けられない。ありえない、あの攻撃を受けて無傷などと。一体何をしたんだ。


 少女は振り払うようにして白炎を消し去り、こちらを蔑むように見つめる。


「無駄よ、白き炎は魔力を焼く。こんなもの私には通じないわ」


 白き炎?何かのスキルだろうか。それを使ってあの攻撃を凌いだのか。


 信じられない事実だが、ここで焦ってはいけない。動揺は判断を鈍くする。


 この少女と戦うことと今までの戦いは訳が違う。仲間の誰かを失う可能性も、最悪このダンジョンが潰される可能性だってある。


 そんな状況ではコンマ1秒の判断の遅れすら惜しい。俺は少女の僅かな動向も見逃さないように注視しているが、当の少女は全くこちらを気にしていない。


 少女は視点を自身の衣服に落とし、その損傷を確認している。少なくとも、自分に攻撃を加えた相手に対する対応ではない。こちらを甘く見ているか、はたまた傲るだけの力の差があるのか。


「何をしに来た」


 俺は警戒しながら少女に問い、時間稼ぎをする。


「貴方に答える必要があるの?」


 俺は会話をしながら少女を凝視して鑑定を使う。



【名称】 ルージュ・ドラグーン

【種族】 神炎龍

【ランク】S

【LV】 8?


【HP】 ?00

【MP】 380

【力】  52?

【魔力】 400

【防御】 3?0

【俊敏】 ?20


【スキル】

『結界術LvMax』『ブレスLvMax』

『咆哮Lv5』格闘術Lv5』

『気配感知Lv5』『人化Lv4』

『???Lv4』『???Lv4』

『???Lv3』『龍の息吹Lv?』

『飛翔Lv?』『断爪Lv?』

『???Lv?』『???Lv?』


【称号】

『竜王の娘』『到達者』

『結界師』



 なんだこれ…、ステータスの所々が伏字になっている。もしかして鑑定に制限が掛かっているのか。こんな体験初めてだ。たしか実力差によって制限が付くはずだが、ステータスを見ればそれも納得がいく。


 伏字なため正確な数値は分からないが、能力値が高すぎる。MPと魔力が高いため魔法主体でも戦える上に、力の値は500を超えている。


 これでイブの鎧にひびを入れた理由が分かった。いくらイブでも500超えの一撃は無傷でいられなかったわけだ。


 他にも見たことのないスキルも気になるが、それよりも称号の1つに目が行った。『竜王の娘』、この称号が文字通りの意味を示しているのなら、この少女は蟲王と同格の魔物の王である竜王の息女ということになる。


 一国の子爵や騎士副団長など比べ物にならないほどの大物だ。そんな大物がなぜこのダンジョンに来たのか。


「もう一度言う、竜王の娘がこのダンジョンに何をしに来た」


 俺が出来るだけ平静を装い発言すると、少女は先ほどとは違い少し驚いた表情を見せる。


「私のことを知っている?いえ、知っているならあのような攻撃はしないはず。ということは、看破…いえ、私のステータスを盗み見れるなら上位の鑑定の持ち主かしら。ということは貴方がダンジョンマスターね」


 ちっ、1つの言動でここまで読まれたか。


「ちょうど良かったわ。首魁をわざわざ探すのが面倒だったから、手間が省けて」


 首魁を探すということは俺が目的なのだろうか。


「質問に答えろ、ここに来た目的は何かと聞いている」


「じゃあ、先に私の質問に答えてくるかしら」


「質問だと…言ってみろ」


「ここに古龍の卵がある。間違いないわね」


 古龍の卵!そうか、それを取り返しに来たということか。今まで竜王の娘の目的が分からなかったが、ようやく合点がいった。


 盗まれた卵を取り返しに来たのか。古龍の卵は俺が直接盗んだわけではなくレプテンを介して手に入れたものだが、少女にはそんなことは関係ないだろう。


「お前にそれを返せば帰ってくれるか」


「そんな訳ないじゃない。奪われたものが返されたからって盗人を無傷で返す訳ないでしょう」


「何をすれば帰ってくれるんだ」


 少女は少し()()を作ってから、罪を宣告するように口を開いた。


「命、貴方の命をもらうわ」


「俺の…命だと」


「そうよ、貴方の死をもって贖罪とする」


 少女の瞳が俺たちを見下していたものではなく、怒りのそれへと変わった。どうやら、相当ご立腹のようだ。


 少女に帰ってもらいたいが、対価が俺の命とはな。俺自身死にたくないし、アリシアやリムのためにも死ぬわけにはいかない。交渉決裂だな。


「悪いが、俺にも死ねない理由くらいある」


「あなたが拒否しても関係ないわ。どちらにしろ殺すから」


 少女の雰囲気が変わり、強烈な殺気を感じる。少女は再び白炎を体に纏い、殺意のこもった眼でこちらを睨みつけてくる。時間稼ぎはここまでのようだ。


最新話の終わりから感想、評価をつけることができます。


良ければ、是非感想、評価をお願いします。

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新作品です 【蟲王の戯れ】
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