第43話・竜王の娘戦 後編
投稿が遅れて申し訳ありません。
次回も投稿が遅れると思いますが、ご了承ください。
白炎の竜巻が晴れると、先ほど少女がいた場所には巨大な龍がいた。光沢のある美しい鱗が覆う蜥蜴に似た身体。優に8階建ての建物を超える巨体に、背中からは大きな翼を生やしている。
爪や牙は並の刃物を超えるほど鋭く、金属ですら切り裂けそうだ。鱗は白を基調とした配色で所々に赤や金色の筋が通っている。その姿は美しく神話にも語られそうなくらいだ。
これが神炎龍か。神を名乗るだけのことはあり、神々しい姿だ。ただ美しいだけではなく、先ほどよりも圧力が数段増している。これこそが少女の本気なのだろう。
「グュアァァァァ」
龍は天を向き雄叫びを上げる。その雄叫びを聞くだけで足がすくむ程の威圧感だ。龍はその大きな翼を広げて羽ばたき、空へと移動する。
ある程度の高度に達すると上昇をやめて静止し、俺たちを見下すように見つめる。
「ギュアッ」
龍は人型の時と同じように白炎を纏い始め、やがて白炎が全身を覆う。その姿は神秘的で見惚れてしまう程だが、触れれば只では済まない薔薇のような存在だ。
龍は標的を定めると一気に急降下を始めた。龍自身の速さに重力が加わり、とてつもない速さで降下していく。白炎を纏って降下する姿はまるで宇宙を駆ける彗星のようだ。
彗星が向かっていく先にいるのはベルゼブブだ。ベルゼブブも自身が狙われていることに気が付いたようで、龍の攻撃に備える。
「二重・魔法障壁」
二重の半透明な障壁がベルゼブブを守るように展開される。その次の瞬間には龍は間近まで接近していた。
龍は障壁など気にも止めずベルゼブブへと突撃していった。当然、障壁に遮られはするが、彗星は障壁の一つや二つでは止められない。
龍の突進を受けて障壁はガラスの割れるような音と共に砕け散る。龍は多少減速したようだが、完全に勢いがなくなることはなく無防備なベルゼブブへと衝突する。
「ぐがぁっ」
龍の衝突によって舞う砂煙の中から、ベルゼブブがうめき声を上げて吹っ飛んでいった。地面へと叩きつけられるがそれでも勢いは止まらず、跳ねるように幾数回も地面へ衝突する。
やがて勢いが弱まるとぐるぐると回転し、うつ伏せになって止まった。僅かに身動きをしているため死んでいるわけではないようだが、体の至る所から緑色の血を流しかなりの重傷であることが分かる。
ベルゼブブはAランクの魔物の中では防御が低く、HPも少ない。そのため、障壁で軽減したとはいえ龍の一撃で戦闘不能に陥ってしまった。
俺はベルゼブブを助けに行こうとするが、龍はそれを許してはくれない。
翼を羽ばたかせて砂煙を晴らすと、残る俺たちへと視線を向ける。
少女の姿であった時と同じ黄金の瞳でこちらを睨みつけてくる。龍から少女であった時とは違う威圧感を感じて、身体が動かなくなる。
息を吐いてなんとか勇気を振り絞ることで体の硬直を解くが、これではまるで蛇と蛙だ。
圧倒的な力を前に本能が逃げろと叫ぶが、俺はここで引くわけにはいかない。ダンジョンを…家族を守るために侵入者は排除する。
俺は気合いを入れ直してベルゼブブの元へと向おうとすると、こちらを睨みつけていた龍の口が光るのが見えた。
一瞬、何かわからなかったが、次の瞬間悟った。龍の口が輝けば、何をするつもりなのかくらい見当がつく。
ブレスだ。たしか龍のブレスのスキルLvはMaxだった。今までの牽制の白炎とは訳が違う。
俺が呆然としているうちに龍の口元の輝きは強まっていく。ブレスに込められていく魔力の量が普通じゃない。あれを食らえば俺でも死ぬかもしれない。
俺の体は無敵じゃない。あくまでも損傷を一瞬で治すだけであって、どんな攻撃も効かない訳ではない。
いくら再生速度が速くても、再生の追いつかない速度で消滅させられれば死ぬ。
俺の防御能力は極めて低い。一般人と同じくらいだ。そのため、大半の攻撃を軽減なしで直接受けてしまう。
そのため、あれだけの魔力の塊をぶつけられれば死んでもおかしくない。
俺は地面を蹴って全力で走り出す。龍の魔力の収束はほとんど終わっている。ブレスを打ち出すのはもうすぐだ。
魔法を使う時間はない。なんとか直撃だけでも避けなければならない。
視界の端にアリシアが高速で移動しているのが見える。アリシアも龍がブレスの準備をしていることに気がついたようだ。
そんな俺たちのことを知ってか知らでか、龍は俺たちには目もくれずに標的をイブに定める。
イブも鈍重な自分では避けきれないと判断したのか、逃げることなく真正面から構える。
イブの身体からは仄かな光が灯っており、何かしらのスキルを使用したのがわかる。
龍の顎門が強く輝き、籠もった魔力の量を物語る。龍は身を反らし、僅かに口を開ける。口の隙間からは圧縮された魔力が溢れる。
「ギュアアア!」
咆哮と共に白い閃光が走る。龍のブレスの正体はあの白炎だ。白炎が限界まで圧縮されることで炎ではなく光線に近いものになっている。
ブレスは一直線にイブへと放たれ、眩い光を放ちながら直撃する。直撃の瞬間、より一層強い光を放ち直視できないほどに輝く。
「ギ…シィ…」
輝きの中からイブの呻き声が聞こえる。どうやらなんとか持ちこたえているようだが、長くは持たない。スキルの効果でなんとか耐えられている状態だ。
このままではイブが死ぬ。なんとかして龍の気を引かなければいけない。
「眷属召喚! 聚蚊成雷」
俺の残りのMPの大半を使って、眷属を召喚する。召喚した蟻や蜂の魔物はどれもFランクやEランクの雑魚だが、その数は尋常ではない。
10や20などという桁ではなく、数百、数千という次元だ。
召喚に伴って、俺の周りに大量の光の粒子が舞う。粒子はそれぞれが集まり、くっ付き魔物の姿をなしていく。
やがて、光が収まった時には1つの軍が出来ていた。1つ1つの力は小さなものだが、それも集まれば無視できない力になる。それが聚蚊成雷だ。
虫の軍は即座に標的の龍へと進軍を開始する。統率のとれたその動きは歴戦の軍隊を彷彿とさせる。
当然、虫軍は龍の視界にも入る。FランクやEランク魔物では龍を傷つけることはできない。しかし、その物量を生かして飛びかかれば圧死させることはできる。少なくとも龍とはいえど、無視できる存在ではない。
俺の読み通りに虫軍に気がついた龍はブレスの標的をイブから虫軍へと切り替える。
雑魚の集団である虫軍はイブとは違い、ブレスに当たった瞬間に消滅していく。しかし、数が数だけに殲滅には時間がかかる。
俺はその間にブレスから開放されたイブの容態を確認しながら、アリシアの元へと移動する。
イブはなんとか生きているようだが、ブレスに晒され続けたため外骨格は赤く変色し、融解し始めている箇所もある。もう少し遅ければ絶命に至っていただろう。
これでイブも再起不能、戦力と言える戦力は俺とアリシアだけになった。
そのアリシアは俺が接近していることに気づき、アリシアからも俺に近寄ってきてくれた。
「カナデさん、どうしますか。主力の二人がやられた状況であいつを殺れますか」
「どうだろうな。空に逃げられたらどうしようもないしな」
「そうですよね」
「それにあのブレスは俺を殺せる」
「カナデさんを…」
ブレスとイブの損傷を見て実感した。あのブレスを受ければ俺でも死ぬ。再生が追いつかない速度で消滅させられる。
今までのように自分を囮にはできない攻撃だ。
「あいつを殺す方法としては黒蛍で首を描き切るくらいしかないな」
「そんなのどうやって…」
「…アリシア、あいつの動きを少しの間でも止められるか」
「…難しいですが、やってみせます」
「頼む」
アリシアとの作戦会議が終わる頃には虫軍はほぼ壊滅し、龍のブレスも止んでいた。どうやら、ブレスも吐き続けられる訳ではないようだ。
龍はこちらを睨みつけて、翼を広げる。恐らく、再び邪魔されないように空高くからブレスを打ち出すつもりなのだろう。
翼を羽ばたかせ、龍の体が宙に浮く。龍は上空へと移動しようとしたが、アリシアがそれを許しはしなかった。アリシアは両手を地面に着いて叫ぶ。
「蜘蛛糸 地縛殺!」
突如、龍の周りの地面から数万を超える糸が飛び出す。糸は龍の体に巻きつきその自由を奪っていく。
龍は僅かに宙に浮いていたが、糸が地面へと引き摺り込むように巻きついていくためその高度はみるみる落ちる。
アリシアが作ってくれたチャンス、無駄にはできない。
「速度…超過」
残り僅かなMPを絞り出すようにして魔法を使う。
身体が軽くなるのを感じた瞬間に龍に向かって全力で走り出す。無理をし過ぎたのか足がブチブチという音を立てて激痛が走るが、即座に痛みは消える。
やがて龍との距離が近づくと飛び掛かって妖刀を突き立てる。龍は俺の存在に気付いたが、糸に捕らわれているため振り落とすことはできない。
「グアッ」
龍は白炎を纏い、糸を焼き切ろうとする。しかし、糸は焼かれてもまた別の糸が巻き付きなかなか逃げられないようだ。
龍が白炎を纏えば、当然龍にしがみついている俺も体を焼かれる。
「ぐっ、うぅ」
白炎に焼かれても傷は即座に再生するため致命傷にはなりえないが、全身を焼かれ続けるのはつらい。
なんとか反撃したいものだが、今の俺には攻撃方法がほとんどない。魔力は尽き、唯一の攻撃手段である妖刀は龍へと突き立て龍につかまる取っ手として使っているため、斬りつけるのには使えない。
できれば使いたくはなかったが、この状況では妖刀自身の能力を使うしかない。
俺は妖刀を強く握りしめる。
「血肉喰い」
妖刀の刀身に血管のような管が浮き上がり、それは柄を通って俺の腕にも達する。
やがてその管は脈打つようにうねり、刀身に触れた龍の血肉を喰らう。刀身が喰らった血肉は管を通って俺にも送られていく。
すると体が熱くなり、力が湧くとともに少しずつ魔力が回復していく。
これが黒蛍の血肉喰いの力だ。対象の血肉を吸収することでHPやMPを回復することができる。
これだけでも有用な力だが、もう一つ血肉喰いの最も強力な力であり、俺がこの力を使いたくない理由でもある能力がある。
それは喰った対象の因子を取り込むことができることだ。自分とは違う他の因子を取り込み、その能力を会得し強化する。
いくつもの生き物の集合体となる訳だが、キメラとは訳が違う。継ぎ接ぎで他の力を手に入れるキメラに対して、血肉喰いは自分自身の体を他のものへと変形させるのだ。
一見便利な力に見えるが、姿が変わるというのが難点だ。俺は蟲王でありながらも人型ではあるが、血肉喰いを使い、肉体が変形すれば元に戻れなくなる可能性がある。
少なくとも、変化などのスキルを会得するまでは使いたくなかった能力だ。この状況では使わざるを得ない訳だったが、その効果は絶大だった。
「グュアァァッ」
みるみる俺のMPは回復していき、肉を喰われるのが余程痛いのか龍が悲鳴をあげる。
悲鳴をあげるほどに白炎は勢いを増していき、糸と俺の体を燃やしていく。
痛みを我慢すれば俺は大丈夫だが、糸はそうもいかない。先ほどよりも速く燃やされ、それに伴って補う糸の数も増える。
燃やされては新しく縛り、燃やされては新しく縛りを繰り返していたが、途端にぱたりと糸の供給がなくなった。
何事かと蟲王になり研ぎ澄まされた視力でアリシアを見ると、荒い息を吐いて地面に伏している。
しまった、MPを使い果たしたのか。MPは1でも残っていれば軽い疲労感で済むが、完全に枯渇すれば酷い疲労感、脱力感を感じる。
力の値が500を超えるSランクの魔物を糸が焼き切られながらも1分近く抑え続けたのだ。MPを使い果たすも仕方のないことだ。
しかし、かなり良くない状況になってしまった。すでに龍は白炎で糸の大半を焼き切ってしまい、自由を手にしてしまった。
龍は空へと飛びあがって俺を振り落とそうとする。しかし、妖刀は文字通り龍の体と俺の腕に根を張っているような状況なため、離れることはない。
やがて、龍は俺を振り落とすのは困難だと判断して標的を変えだした。俺のことを完全に無視して、再びブレスの準備をする。
恐らく、MP切れで身動きの取れないアリシアを狙うつもりだ。
「くそっ、させるか!」
俺は龍へと突き刺さったままの妖刀を下へと振り下ろす。すると、自分の想像をはるかに超えた力が入り、龍の体を大きく切り裂き振り切ってしまう。
鮮血が舞い、純白の鱗を赤く染める。
そのおかげで龍は収束させつつあった魔力を霧散させてしまったが、妖刀が龍から離れた俺はそのまま上空から落下してしまった。
数秒の落下時間を経て、地面へと叩きつけられる。
「いっつ…?」
おかしい、あまり痛くない。いつもの俺ならあの高さから落ちれば、骨折はもちろん内臓破裂も必死のはずだ。
にもかかわらず、多少の打ち身程度の痛みしか感じなかった。それに魔法の効果は切れているはずなのに妙に体が軽く、内側から途轍もない力が湧いて来る。
先ほど龍の体を斬るときに、異様に力が入ったのもこのせいだ。何が原因なのだろうか。血肉喰いか?
まぁ、原因など別に今はどうでもいい。逆にこれだけの力があるのなら龍相手にもそれなりにやれるかもしれな―
「がはっ」
気づけば俺は地へと膝をついていた。地面を見れば砂色を塗りつぶすように赤い血が付着していた。
俺が吐血!?それに何故俺は膝をついている?
俺は立ち上がろうとしたが、体が言うことを聞かない。内側から力は湧いて来るのに、体の自由は失われていく。それと共に頭がぼーっとして意識も薄れていく。
何が起きている?肉体的な損傷は即座に再生するため長引くことはないし、ポイズンイーターである俺には毒は効果を為さない。
では何故!?
「ぐっ」
思考を巡らせているうちにほぼ体全体が自由を失い、うつ伏せに地面へと倒れる。
まだなんとか動かせる首を上げると、龍が俺へとブレスを放つのが見えた。MP切れのアリシアよりもまだ戦える俺を始末するつもりなのだろう。
回避しようにも体は動かず、逃げることすらできない。
「ちく…しょ…う…」
意識を失う俺が最後に見たのは迫りくるブレスの閃光だった。
最新話の終わりから感想、評価をつけることができます。
良ければ、是非感想、評価をお願いします。




