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第40話・赤髪の少女

 今回の侵入者は今までとは桁が違う。生半可な魔物では戦っても、すぐにやられてしまうのが落ちだ。そのため、比較的強い魔物がいる下層には侵入させたくはない。もし下層の魔物までやられたしまえば、このダンジョンは再起不能になる。


 できれば早めに迎え撃ちたいが、上層や中層は基本的に洞窟の形をしたダンジョンだ。サーチ・モスキートを通しての情報しかないが、あの赤髪の少女は肉弾戦を行っていた。


 洞窟は狭く、障害物もないため近接戦闘を行うにはうってつけの地形だ。魔物を腕の一振りで粉砕していた少女の攻撃は警戒しなければならない。


 そのためには広く、隠れられる場所がある地形で戦うべきだ。その条件を満たす数少ない洞窟型でない階層で対峙する。


 化け物の侵入者を迎え撃つのは20階層だ。20階層は32階層と同じ一つの空間が広がる階層だ。


 32階層が森であるのに対して20階層は一面荒野が広がっている。比較的視界が開けているが、大きな枯れ木や岩が散在しているため隠れる場所はある。


 この20階層に来るのには19階層の転移陣を使わなければいけない。そして、転移陣を使ってこの階層に現れる場所には規則性がある。


 特定の場所が決まっているわけではないが、ある程度の方角などは決まっている。それを目安にあらかじめ罠などの配置もしておく。


 冒険者の時は正面から待ち構えていたが、あの少女相手ではそんなことはしていられない。現れる場所の周囲にある物陰に隠れて不意打ちを狙う。


 上空に今所持しているサーチ・モスキートすべてを配置して、それぞれを今回戦う者たちと魔力をつなぐ。


 これで隠れたままでも、相手の居場所が上空から確認できるというわけだ。また、サーチ・モスキートを撃破される可能性もあるが、今回ばかりは出し惜しみはしていられない。


 それぞれが配置につき、侵入者が現れるのを待つ。俺だけはダンジョン内の魔力を探れるため、少女の大よその位置が分かる。


 すでに少女は上の19階層まで来ている。ここまで来るのに同じ速度で進んできている。ダンジョンの魔物たちに避難するように指示は出したが、当然それが間に合ったのはわずかな魔物だけだ。


 他の魔物たちはあの少女と戦ったはずなのだが、少女の進む速度は一切変わらない。それが意味するのは、すべて一撃で排除されたということだ。


 上層や中層の魔物はそこまで強い魔物がいる訳ではないが、中には防御に特化した魔物もいたはずだ。


 にもかかわらず、魔物たちは足止めにすらなっていない。やはり、あの少女の相手をするには精鋭中の精鋭でなければ戦いにすらならないだろう。


 しかし、ここにいるのはその精鋭中の精鋭だ。防御面の最高峰であるイブリース・スコーピオン。魔法面で最高峰のベルゼブブ。罠や暗殺面で最高峰のアラクネ。この面子ならあの少女が相手でも遅れはとらないはずだ。


 俺は戦闘能力はこの中で一番低いが、あの少女と戦うには相性が良い。彼女が使うのは肉弾戦だ。俺の再生は魔法による損傷よりも物理的な損傷の方が治りが速い。


 内臓が破裂しようが、骨が砕けようが文字通り一瞬で元に戻る。魔法もそれなりに使えるし、妖刀もあるため囮兼陽動役にはもってこいだ。


 基本的な役割や立ち回りは話し合って決めてあるが、あの少女の実力が正確に分からないためはっきり言ってあてにはならない。あくまで戦い方の目安として考えておいた方がよいだろう。


 頭の中でシミュレーションを行いながら、少女が20階層に現れるのを待つ。岩陰に待機してから1日が経ったのではと感じるほどに時の流れが遅い。


 話し合いの段階であのベルゼブブですら緊張した面持ちであったため、皆も俺と同じ感覚を味わっているかもしれない。ベルゼブブも今回ばかりは人の姿ではなく蝿の姿で構えている。


 足が疲れないように方膝立ちの足を入れ替えたところで、20階層に魔力の反応が現れるとともに、サーチ・モスキートと共有している視界が赤髪の少女の姿を捕らえた。


 間違いない侵入者の少女だ。現れた瞬間に魔力などとは違う圧力を感じる。


 少女はあたりを見回し、ゆっくりと歩を進める。その姿は優雅で気品を感じる。


 身を隠している俺たちとの距離が少しずつ縮まり、奇襲を仕掛けるあと一歩の距離で足を止めた。


 そして、ふっと馬鹿にしたように笑った。


「それで隠れているつもりなの?」


 少女はその言葉と共に地面を蹴り、イブが隠れる岩へと急接近した。少女はその勢いのまま岩を蹴り砕く。岩は粉々になり、あたりに粉塵が舞った。


 なぜ、ばれた?!少女がいた位置からはイブの姿は確認できなかったはずだ。何かしらの探知能力でも持っているのかもしれない。


 砂煙が晴れると、そこにはイブへと拳をぶつけている少女の姿があった。流石にイブは一撃で倒すことはできなかったようだが、イブの殻には少女の拳が触れている位置から放射状にひびが入っている。


「キシャァ」


 イブは両腕のはさみを振るい応戦するが、少女は地面を蹴って即座に距離を開けた。


 イブから離れた少女は手のひらを閉じたり開いたりしながら、自分の手を見つめていた。


「へぇ、ずいぶん硬いのね。私の攻撃を受け切った相手は久しぶりよ」


 少女は一撃で仕留められなかったことを驚いているようだが、俺はイブを傷つけたことに驚いていた。


 イブはAランク上位の防御特化の魔物だ。そのイブの体に傷をつけるのは簡単なことではない。にもかかわらず、少女は難なくそれをやって見せた。


 この少女はいったい何者なのだろうか。Aランクの魔物すら軽く上回る存在、そんなものが存在するのか。


 少女に対する考察をしていると、少女が俺の隠れる岩へと指をさした。


「いつまで隠れているつもりなの?2人…いえ3人かしら」


 少女はベルゼブブやアリシアが隠れている岩へと順に指をさしていった。どうやら、完全に居場所がばれているようだ。


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