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第39話・脅威

 俺が街の異変にに対する策を講じていると、明らかな異物の反応を感じた。


 この感覚はダンジョンに侵入者が入って来た時のものだ。幾度か感じた感覚だが、今回のものは今までとはまるで違った。


「なんだこいつ…」


 その異物から感じる魔力の量が今までの侵入者とは桁違いに多く、何より存在の格の差を感じさせられた。


 俺は即座に上層に待機させておいたサーチ・モスキートに偵察に行かせる。


 サーチ・モスキートが到着するまでの間、侵入者は3階層まで突破していた。


 俺がサーチ・モスキートを通して見た侵入者は、1人の少女だった。見た目は15歳くらいの少女で、血のように赤い髪を腰のあたりまで伸ばしている。


 透き通るような金色の瞳をしており、若干釣り目で気の強い印象は受ける。まだ少し幼いが相当な美少女だというのが分かる。


 髪の色と同じ鮮やかな赤いドレスを着ており、ダンジョンを歩く姿は少し場違いだ。


 そんな貴族令嬢にも見える少女が、素手でパワー・アントを殴り殺していた。まるで散歩をしているかのように無防備に歩き、襲い掛かるパワー・アントを細い腕を一振りするだけで木端微塵にしていた。


 そんな少女を天井近くから遠巻きに見ていたが、ふと少女が顔を上げてこちらを見つめてきた。偶然目が合っただけだと思ったのだが、少女は一点にこちらを見つめていた。


 俺は戦慄していた。サーチ・モスキートは蚊よりも小さい魔物だ。目視できる距離ではあるが、その存在を気付けるはずがない。


 そして、この少女に見つめられた瞬間、サーチ・モスキートと俺は何一つ身動きできずにいた。まるで、獅子を前にした子羊のように。


「邪魔ね」


 少女は呆れた様子で呟き、こちらに向けて手を開いて腕を突き出した。


 その瞬間サーチ・モスキートとのつながりが消えて、俺の視点は自分自身の視点に切り替わった。


 俺は息を切らしながら、大粒の汗を額に浮かべていた。


「どうかしたんですか、カナデさん」


 そんな俺の様子を心配してアリシアが声をかけてくれた。しかし、俺はすぐに答えられないほど動揺していた。


 あの少女に対して本能が危険信号を発していた。あれはヤバい、今まで見てきた魔物たちとは違う。見ただけで絶望的な差を感じた。


「カナデさん、カナデさん!」


 アリシアが俺の異変を感じて、大声を出しながら体を揺さぶってきた。


「…あ…あぁ、すまない」


 アリシアの声掛けに何とか対応することができた。


「なにがあったんですか」


「…し、侵入者だ。かなり危険な…ヤバい奴だ」


 俺はまだ動揺を抑えられずに、途切れ途切れにしか話せなかった。


「現在の魔物の配置では対応できないようでしたら、迎撃の準備を…」


「待ってくれ…。あれは並の魔物で太刀打ちできる相手じゃない。…Aランクの魔物でも相手になるかどうか」


「なら、どうすれば」


「イブとベルゼブブを連れてこい。今動かせるAランク上位の魔物はあいつらしかいない。俺とあの2体で迎撃する」


 あの少女を相手にして、何とかやりあえるのは、Aランクの中でも上位に位置するものでなければならない。中位や下位では即座にやられるか、逆に邪魔になるだけだ。そう直感的にわからせるだけの力を彼女は持っていた。


「なぜカナデさんまで行くんですか!」


「俺は再生能力のおかげでまず死なない。そして、俺には最高峰の妖刀黒蛍がある。黒蛍ならAランク以上の相手でも傷を与えられる。無視できない囮にはなるはずだ」


「…でしたら、私も行きます。私も仮にもAランク上位の魔物です。相手が単体なら戦力にはなるはずです」


「うっ…」


 アリシアの言うことは正論だ。アリシアは暗殺に特化した魔物だ。俺たちが気を引きつけている間に、不意打ちで倒してくれる可能性は十分にある。


 しかし、本音をいえばアリシアには戦ってもらいたくはなかった。イブやベルゼブブも確かに大切な仲間だが、アリシアは俺にとって特別な存在だ。


「アリシア…お前には…」


 ここで待機していてほしい、そう言おうとしたところでアリシアに止められた。


「カナデさん!」


 アリシアは真っ直ぐに俺を見つめてくる。アリシアの瞳は覚悟を決めた瞳だった。


 しばらく見つめ合ってから、アリシアの覚悟が強がりでないことを確信した。


「わかった。俺とアリシア、イブ、ベルゼブブの4人で戦う」


「はい。分かりました」


 俺とアリシアが戦いの準備をしようとした時に、リムが寝ぼけ眼をこすりながら2階から降りてきた。


「おにいちゃん、おねえちゃん。またどこかに行くの?」


 しまった、起きてきてしまったか。


「ええと…そうだな。ちょっとやらなきゃいけない用事ができてな」


 流石に侵入者を排除しに行くと正直に言うことはできない。


「わたしも行く。一緒に行く」


 リムの応答に俺とアリシアは互いに顔を見合わせる。


「ごめんな、リム。できれば連れて行ってやりだけど、ちょっと危ないかもしれないからな」


 リムの頭を撫でて言い聞かせるように言う。すると、リムは俺たちの異変を感じたのか決心するように目を瞑る。


 そして、目を開け俺たちを見上げた。


「分かった。じゃあ、リムはお留守番しておくね」


 子供に気を使わせてしまった。この埋め合わせはいつかしなければならないな。


 そのためにはまず、家族を守るためにも侵入者を排除しなければいけない。今回は無事では済まないかもしれないが、絶対に撃退して見せる。


「じゃあ、リム行ってくるよ」


「うん、いってらっしゃい」


 リムに手を振り、一時の別れを告げる。


 この時、俺たちは侵入者の排除への緊張とリムへの対応で古龍の卵が激しく胎動していることに気がつかなかった。


最新話の終わりから感想、評価をつけることができます。


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