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第37話・街の異変

 俺は魔物と戦い実戦経験を積みながらリムとも遊ぶ中、レプテンたちの監視も定期的に行なっていた。


 3週間近くの間は街の様子は変わらず、警備が厳しくしてリムを探し回っている様子だった。


 しかし、3週間程経った今回の調査では異変があった。俺はいつものようにサーチ・モスキートを街の監視へと向かわせたのだが、街に入らずともわかる変化があったのだ。


 このルルイエには街へと入るために設けられている門がある。


 その門には街へと入ろうとするものたちを検査する門番がいて、初めてきた時には2人だっだが警備が厳しくなってからは8人程の人数で行なっていた。


 しかしながら、今回は4人の汚れひとつない白い鎧を着た者たちが門番をしていた。問題なのは人数ではなく、その格好だ。


 今までの門番たちは革の鎧、又は年季が入り薄汚れた金属の鎧を着ていた。決して美しいと感じるほどの鎧は身につけていなかった。


 しかし、今回の門番は防具でありながらも美しいとすら思える純白の鎧を身につけている。また、鎧と同色のマントや兜、剣、槍を装備している。


 その姿はまるで聖騎士のようだ。


 このような聖騎士たちが門番をしているということは、異変があったのは明らかだ。問題はそれが俺たちに影響するものかどうかということ。


 その確認をするためにも街の調査は必須だ。


 いつものように外壁を越え、街を上空から見下ろす。すると、街の様子も変わっており、巡回していた兵士が先程と同じ様相の騎士に変わっている。


 規則正しく巡回をしており、どこかしら街民も安心した面持ちだ。


 今までの巡回兵は街民を捉えて事情聴取など行なっていたが、騎士たちは真っ当な警備をしているようだ。


 少なくともレプテンの兵でないことは確実のようだ。だとしたら、レプテンは何をしている。


 あの男のことだ、他人の兵に、にぬけぬけと自分の街を闊歩させるのを許すはずがない。


 あの男のにはダンジョンの存在を隠蔽していたり、エルフの王族であるリムを幽閉していたりといった()()がある。


 その証拠が発見されかねないようなことを許容するわけがない。


 にもかかわらず、現状ではそれが起こっている。その事実が意味するのはレプテンに何かあったということだ。


 俺はサーチ・モスキートに指示を出して、視点を屋敷へと移した。


 屋敷は一見何も変わっていないように見えたが、高度を下げてよく見てみると中庭に人がいるのが見えた。


 3人ほどの男が膝を追って座り込んでおり、その男たちを見下げるように騎士が5人立っている。


 座り込んでいる男たちのほとんどは見覚えがなかったが、1人だけ知った顔がいた。


 この街の領主、レプテンだ。


 ヘプテンは3人の中で派手な服装をしており、目立っていた。


 両腕に手枷がかけられており、逃げないよう拘束されている。その表情は憎悪に満ちており、目の前の騎士を親の仇のごとく睨んでいる。


 睨まれている騎士は他の騎士よりも豪華な装備をしていた。白い鎧なのは変わらないが、他の騎士とは違う輝きを放っているように見える。


 また他の騎士たちよりも鎧の胸部が丸みを帯びており、女性であることがわかる。


 マントは他の騎士が白であるのに対して、真紅のマントを羽織っていた。


 身長は170cm前後で女性にしては高い方だが、他の騎士たちは殆どが男なため騎士の中では頭一つ分ほど低い。


 兜を頭から外して、脇に抱えているためその相貌を確認できた。


 顔立ちは整っており、十分美人と言って良いだろう。翡翠色の瞳は若干垂れ目になっており、温和な印象を受ける。


 透き通るような金髪を肩のあたりまで伸ばし、全体的な印象は鎧を纏いながらも聖女のように見える。


 この女性がおそらく騎士たちのリーダー的存在なのだろう。


 その女騎士はレプテンの恨みのこもった視線を全く気にすることはなく、どこ吹く風といった様子で佇んでいる。


 レプテンはそんな騎士の様子を見て、ますます憎悪の感情が膨らんでいるように見える。


 一体これはどういうことなのか。仮にもレプテンはこの街の領主であり、貴族だ。


 そのレプテンを拘束して、なおかつ街の権限を奪い取っているあの騎士たちは何者なんだろうか。


 上空から観察し始めてしばらくすると、屋敷の中から一人の騎士が出てきた。


 その騎士は中庭へと向かい先程の女性の騎士へと耳打ちをした。


 女騎士は報告を聞き終わると、一度咳払いをしてレプテンへと言った。


「コホン、レプテン・コールマン子爵。貴方をダンジョンの隠蔽及び私物化の罪で王都へと連行します。今しがた証拠も揃ったため貴方に拒否権はありません。よろしいですね?」


 女騎士は透き通った声でレプテンへとの罪状を伝え、その応答を待った。


 そんな女騎士に対して、レプテンは女騎士をますます憎々しげに睨んで発言した。


「フン、愚王の犬めが、図に乗りおって!私をこんな目に合わせたことを後悔させてやるからな。間抜けな飼い主共々待って…」


 レプテンは途中で発言を途切れさせた。それは女騎士がレプテンの首元へと、帯剣していた剣を抜き押し当てていたからだ。


「口を慎んだ方がよろしいかと…。今ここで王に対する不敬罪で首を飛ばされたくはないでしょう?」


 女騎士は先ほどとは打って変わって、その容姿に見合わない冷たい声でレプテンへと警告した。


「うっ…」


 流石にレプテンもこれには思わず息を呑んだ。


「さて、静かになりましたし、早速連行しましょう。罪人を馬車へと移動させてください」


 女騎士の指示を受け、中庭にいた残りの騎士たちが拘束されたレプテンの脇を抱えて屋敷柵の外へと連れ出した。


 屋敷の様子に気を取られて気がつかなかったが、屋敷の入り口あたりに馬車が止めてあった。かなり堅牢な作りで、物々しい雰囲気だ。


 騎士はレプテンをその馬車へと押し込めて、扉に鍵をかけた。さらに、その扉へ鉄の閂を3本ほどはめた。


 逃げ出さないようにかなり厳重にしているようだ。馬車そのものが留置所のようになっている。


 馬車は小さな窓はあるようだが、鉄格子がはめられており中からの脱出は不可能だろう。


 留置所の馬車へと入れられたレプテンは何やら叫んで騒いでいるが、女騎士はそんな声を気にも留めずに次の行動を始めていた。


「今回の事件に関わった他の罪人や容疑者は、後ほど連行しますので、先にあの男だけ王都へと輸送してください。くれぐれも逃さぬように、お願いしますよ」


「はっ、了解しました。イレーネ騎士副団長」


 女騎士の指示を受けて、その場にいた騎士たちが馬車とともに街の出入り口へと向かって行った。


 このとき俺は油断していた。今まで蚊の魔物を認識できた者はいない。故に完全に慢心して、サーチ・モスキートに高度を下げさせていた。


 騎士たちの会話を鮮明に聞くために、高位の騎士であろう騎士副団長とやらの容姿をより近くで見るために、それが危険を招いた。


「さて、これで一段落着きましたね。次は…」


 女騎士は突然発言を止めたかと思うと、腰につけた剣の柄へと手をかけた。


 俺が見えたのはそこまでだった。突然視界が揺らぎ、耳元で風切り音が聞こえる。


 視界が目まぐるしく変わりながらも、急速に上空へと移動しているのが分かる。


 俺がサーチ・モスキートへと指示を出したわけではない。つまりこの異変はサーチ・モスキートが独自に行動した結果ということだ。


 基本的に俺の支配下にあるサーチ・モスキートは勝手な行動はしない。しかし、それにも例外は存在する。


 それは自己の防衛行動だ。考えよりも体が先に動く、反射行動は俺の指示なく行われる。


 眷属支配のスキルを使えばそれすらも支配できるが、そこまでは支配していない。


 俺の予想ができない攻撃をサーチ・モスキート自身に対処してもらうためだ。


 今回その行動が起こったということはサーチ・モスキートが攻撃を受けたということだ。


 サーチ・モスキートが追撃を避けるために上空高くへと移動して、地上を見下ろす。


 ようやく安定した視界にはあの女騎士の姿が映っていた。柄へと手をかけた位置から数歩先まで移動しており、剣を振り切った状態で静止していた。


 その様子は敵の気配を探っているように感じる。しばらくその状態で動かなかったが、やがて体勢を変えて剣を鞘へと納めた。


「おかしいですね、何やら気配を感じたのですが…。気のせいでしたか」


 女騎士はそう呟いて、屋敷の中へと入って行った。


 先ほどの言動からサーチ・モスキートへと攻撃を仕掛けたのは間違いなく女騎士だ。


 サーチ・モスキートはその攻撃を寸前で躱したようだが、今まで誰にも捉えられなかった魔物の存在を感知したのだ。騎士副団長の名は伊達ではないのだろう。


 もしかしたら、実力は以前の冒険者よりも上かもしれない。あの女は警戒する必要がありそうだ。


 こうしてみると、魔物と同じで人間も強いものから弱いものまでピンキリのようだ。


 この世界で俺が警戒すべきなのは雑兵の群よりも一騎の精鋭だ。あの女騎士は後者に当たる。


 レプテンが追放された以上、その代わりが来るまでの間はあの女騎士がこの街の管理をするのだろう。


 街の偵察は大事だが、あの女騎士には気をつけなければいけないな。

最新話の終わりから感想、評価をつけることができます。


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