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§.26 【あの日の答え】

 それは遙か遠い過去。


「私は王だ。貴様の邪念ぐらい、見抜けないと思ったか?」


 オウルの声が響いた。

 場所はランザリア王都にある城のバルコニーである。戴冠式を終え、ちょうどオウルが王として即位したところだった。


「貴様はこの小国で強くなりすぎた。まともに剣を打ちかわせる相手は、最早私ぐらいだろう」

(こうして、この過去でオウルの話を聞くのは何度目だろうか?)


 そんなことをクロノは考える。


「世界を巡り、まだ見ぬ強者と戦いたいのだろう? そのような邪念のある者に王の警護という要職は務まらん。貴様は王家に不要だ」

(なぜ、俺はこの時間を選んだのだろうか?)


 自ら過去に戻りながら、クロノは自問する。確かな根拠はなにもない。確かめるために戻らなければと思った。気がつけば、この日に戻っていたのだ。

 

「そうまで言われて、そりが合わない王に仕える義理はないな」

「だろうな。そういうところだ」


 突き放すように言った後、オウルは穏やかな表情を浮かべる。


「一つだけ、貴様に命令を下す」

「ランザリアに危機が迫った時は、なにがあろうと戻ってくる」


 過去をなぞるように、クロノはそう返事をしていた。


(なにかを変えなければならない。確かめるために戻ってきたのだ)


 クロノはオウルに強い視線を向ける。


(お前は俺を、なんだと思っていたのか?)


 だが、その問いが、どうしても喉に引っかかって出て来なかった。


「それでいいか?」


 フッとオウルは笑みを覗かせた。


「じゃあな。良い国を作れ」


 クロノがそう口にすると、


「さっさと行け、戦闘狂が」


 まるで小競り合いでもするように、オウルが悪態をつく。

 

(なにかを言わなければ、また同じことが繰り返される)


 ギルムとバライザのように。

 シャルとリュカのように。


 違う結末を彼は願った。なのに、なにも言葉出て来ない。オウルを前にした時、全能の力は役に立たず、全知の頭に考えが浮かばなくなる。


 ――それは頑張りが足りないんだよっ!


 脳裏に響いたのは、シャルの叱咤だ。


 ――クロノ君は全知全能なんだから、怖がらないで頑張ればきっとできるよっ!


(ああ……そうか。わかったかもしれない。なぜシャルの言葉が俺に響いたのか。俺に足りなかったのは――)


 クロノは足を前へ踏み出し、オウルの隣に並ぶ。

彼が王都に視線を向ければ、オウルは不思議そうにそちらを見た。


「かつて、ここでお前とこの王都を眺めた」

「……ああ」

「お前は夢を語った。この貧しい国を豊かにしたい、と」


 そして、クロノは自分こそがランザリアの王になると言い放った。

 オウルとはそりが合わず、なにより乗り越えるべき大きな壁だった。あの頃は本当にそう思っていたのだ。


 くつくつと腹の底からクロノの笑いがこぼれ落ちた。


「急にどうした?」


 オウルが問う。

 クロノは言った。


「オウル。この敵だらけのランザリアで、お前だけが唯一、俺の友達だったよ」


 そのことに、ずっと気がついていなかった。

フッとオウルは笑った。


「ずいぶんと遠回りをしたな、クロノ」


 クロノはなにかが違う気がした。

 この時のオウルとは、雰囲気が異なる。まるで達観したような顔で彼は王都を眺めていた。

 クロノにはわかった。彼は、あの日、虐殺王として自分が殺したオウルだ。


「待っていたのか?」

「いいや」


 オウルは答えた。

 あの時、答えられなかった問いに。


「信じていたのだ。貴様が来てくれると」

「だとすれば、長く待たせた」

「本当だ」


 とどのつまり、全知全能であるクロノに不可能がある理由は一つしかない。彼が答えを知るのを恐れていた。そういうことだろう。

 オウルは友だったのか? 友と思ってくれていたのか? その答えを知るのがどうしようもなく怖かった。だから、できなかった。やれなかったのだ。


「まったく。だが、貴様のように奇特な奴でもなければ、私の友は務まらんのであろう」


 ずっと、それが聞きたかった。

 そのために、意味も無く遠回りをしていた。

 いや、きっと、意味はあったのだ。


「オウル」


 クロノは手を差し出す。オウルはそれを握った。クロノの体から光が立ち上り、それがオウルに移っていく。

 全知全能の力を半分、彼に譲り渡しているのだ。


「ランザリアを復興するか?」


 クロノは尋ねた。


「過ぎた時代を復元すれば、今ある未来の全てが消え去るであろう。それをするには時が経ちすぎた」


 オウルは言う。


「貴様が今生きている時代に連れて行ってくれ」

「わかった」


 二人は光に包まれ、そしてそのまま消え去ったのだった。

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