§.エピローグ 【友達】
ノワール学院。校舎前。
制服を着た二人が登校してきている。クロノとオウルだった。
「――しかし、肝心なところがわからない」
「肝心なところ?」
二人は歩きながらも、話し込んでいた。
「お前はどこで全知全能の力を手に入れたのだ?」
クロノは問う。
「王家の決闘で霊廟に行ったであろう? 禁呪の光玉を手にした時、墓に眠っていた何者かが目覚めた」
「確かに強い魔力を感じた。しかし、すぐに消えた」
こくりとオウルはうなずいた。
「あそこに何者がいたのではないかと気になり、私は確かめに行った。眠っていたのは全知全能だった者のなれの果てだ。あの禁呪はその者が自らの全知全能を封印するために施されたものだった」
「話したのか?」
「いいや。彼も過去の私と同じだった。私以上に、全知全能という現象に成り果てていた。全てのことが等しく感じられていたのであろう。会話をすることはできず、彼は私に全知全能の力を継承した」
一瞬、クロノは考える。
「……なぜ力を継承したのだろうな?」
「予想でしかないが、譲り渡したい気持ちは理解できる。全てがあるということは、全てが無いことと同じだ。なにを成そうと、なにが起ころうと、全てが虚無だ。それを終わらせたかったのだろう」
だからこそ、オウルはランザリアの民を滅ぼすという凶行を実行できてしまった。クロノも強くなるという目標を失うこととなった。
「私が思うに、この力は世界を生み出した神が与えたものなのだ。誰か一人を全知全能にすることで、世界には無限の可能性が得られる。なにが起ころうとも、その者ならば、世界を復興することができる」
「滅ぼすこともできるだろう」
そうクロノは言った。
「永遠に滅びるわけではない。いずれ、気まぐれを起こして、元に戻すのを待てばいいであろう。だが、その役目を押しつけられた者は、狂うことになるのだろうがな。いや、狂う、という表現は相応しくないのかもしれないな」
オウルは改めて言い直した。
「もはや、人ではなく、全知全能という現象に成り果ててしまう。一人を犠牲に、世界を半永久的に存続させる。恐らくは、それが神の定めた世界の理、あるいは神がこの世界に与えた希望なのだろう」
「希望……か。犠牲になった者はたまったものではないのだ」
「まったくだ」
「だが、俺たちは克服した」
クロノの言葉に、オウルは軽く首を捻った。
「どうだろうな? いくら、半分に分けたとはいえ、人には過ぎた力だ。私たちも、いずれどうなるかはわからない」
「大丈夫だ」
「なぜ言い切れる?」
妙に自信ありげなクロノが、オウルには不思議だった。
「俺にはお前がいる。お前には俺がいるからだ」
クロノの真顔を見て、フッとオウルは笑みをこぼす。
「これだから、貴様といるのは飽きないのだ」
そんな二人を数歩離れた位置からじーっと見つめている少女がいた。
「うー……」
シャルである。
「なんか、二人友情強くない?」
訝しげな表情で彼女は隣にいるリュカに同意を求める。
「そうですね」
「そうですね、じゃないっ。これじゃ、アタシたちの入り込む余地ないじゃんっ!」
両拳を握りしめ、力強くシャルが訴える。
「たちって、言われても……」
「じゃ、なにっ? リュカはクロノ君をオウル君にとられちゃってもいいのっ?」
「それは……困ります」
若干考えた後に、リュカは鋭い視線を放つ。
よし、とうなずき、シャルはクロノの隣まで駆けていく。
「クロノ君!」
と、彼の腕をとる。
「今日の放課後、一緒に友情のオムレツを作ろうよっ!」
シャルはなりふり構わず、友情から入ることにした。
「お兄さん、少し後でお話しいいですか? お兄さんに血を吸われてから、なんだか体が変なんです」
「えっ? なにそれ? どういうことっ!?」
びっくりしたようにシャルが食いついた。
「秘密です」
リュカは人差し指を唇の前でそっと立てた。
「えーっ……! 教えてくれてもいいじゃんっ!」
「クロノ」
オウルは言った。
「この街で一番面白いものはなんだ?」
「いいところがある。今から行こう」
くるりと踵を返し、クロノとオウルは校舎とは逆方向へ歩いていく。
「え?」
「お兄さん、授業始まりますけど?」
「記念にサボる」
そう口にして、クロノはオウルを連れて学院の敷地を出ていった。
「どこに行くのかな?」
「……どこでしょうね……? お兄さんがこの街で一番面白いって思ってるところって……」
シャルとリュカが顔を見合わせる。
「決めたっ! アタシもサボる!」
「シャル? ちょっと……」
リュカが止めるよりも先に、シャルはクロノたちを追いかけていた。
「……もうっ、私もいきますっ!」
彼女もシャルに続き、クロノたちを追いかけていく。
「クロノ君っ、待ってっ。アタシたちも行くっ!」
「いいことだ!」
いつになく気合いの入った顔で彼は言った。
「わかるか? オウル」
「わからぬ。なんの話だ?」
「学院をサボって遊びに行く。これこそが友情なのだ!」
極端な思想を披露しながら、歩いていくクロノ。その後ろにオウル、シャル、リュカと続く。
彼ら四人の友情はまだまだ始まったばかりであった――




