§.10 【尊き友情】
「……病気を治すって……ギルムの病気は疫鬼王様の病魔が原因だから、そんなの不可能なんだけど……!」
シャルの提案を否定したのは、彼女を仲間に加えたいはずのユーリだった。それほど病魔というのは治療が困難なのだ。疫鬼王クラスの魔族が扱う代物となれば、確かに不可能といっても過言ではない。
「そうですよ。シャル、どういうつもりは知りませんけど、ユーリとは関わらない方がいいんです」
「でも、リュカはユーリちゃんを助けたいって思ってるんじゃん」
こともなげにシャルは言った。
驚いたのはリュカだけではなく、ユーリも目を丸くしていた。
「なにを言ってるんですか」
「だって、そうじゃない? 助けたいけど、リュカはもう争うことはやめたから、力になれないんでしょ。だったら、病気を治しちゃえば争わなくてもいいし、ユーリちゃんも助けられるし、完璧じゃん」
リュカは返事に迷った。彼女の言う通りだったからだろう。
「……それができれば苦労しません」
「俺はいい話だと思う。感動した」
まったく感動したようには見えない無表情でやってきたのはクロノである。カルロも一緒だが、ミレアたち魔族の女たちの姿は見当たらない。
「お兄さんまで……そもそも状況がわかってるんですか?」
「俺は全知全能だ」
「とか言って、大体知ろうとしてませんよね?」
ジトッとリュカが横目で睨む。正しかった。
「いいじゃん。クロノ君もついてきてくれる?」
「無論だ。カルロも行くそうだ」
「はっ? 言ってないけどっ!?」
急に頭数に入れられているのを知り、彼は驚いたように声を上げた。
「カルロはどっちでもいいけど、クロノ君も来るなら問題ないじゃんね?」
「俺はどっちでもいいって、ひどくないか……?」
カルロが小声でぼやいている。
「……お兄さんがそれでいいなら、いいですけども……」
少々ばつが悪そうにしながらも、リュカは承諾した。
「ということになった。ユーリ、ギルム・ヴォーザーのいるところへ行こう」
「え……? い、今から……?」
「そうだ」
「……だって……ギルム・ヴォーザーがいるのは竜人の国アムルテムズの最重要拠点、あの白の竜王がいる白竜城だよ」
「場所がわかっているのなら行きやすくていいだろう」
白の竜王に対してクロノはまったく動じていない。
「お兄ちゃんって、もしかして頭おかしくない?」
「そうなのか?」
「うん。でも、いいや。ユーリは頭おかしい人の方が好きだもん」
嬉しそうに彼女はクロノの腕に抱きついた。
「あーっ! 勝手に触ったらだめじゃんっ!」
奪い返そうとするようにシャルはクロノの反対の腕をとった。
「シャルちゃんも勝手に触ってるくせに」
「アタシはクロノ君が嫌がってないからいいの!」
「ユーリだって嫌がられてないもんっ!」
クロノを間に挟み、二人はバチバチと視線の火花を散らしている。
「アムルテムズにはどうやって行くのだ?」
「お前よくそんな無視して話進められるな……」
シャルとユーリの小競り合いをまったく意に介さないクロノに、カルロは呆れた様子であった。
「まあ、ここからだと船がいいんじゃないかな。近くの港街から定期的に貨物船が出てるから、乗せてもらえるはずだ」
◇
大型貨物船リュージアス。竜人の国アムルテムズが所有する水竜を模した船であり、鉱石など武具の原料となるものを運んでいる。客を乗せるスペースも用意されており、クロノたちはそれを利用することにした。
船の甲板でリュカとシャルが並んで、海を眺めている。
「あぁっ、海の中に竜いるじゃーんっ。すごいすごいっ、なんか、ずっとついてきてるっ」
海中をゆうゆうと泳ぐ巨大な竜を初めて見て、シャルは興奮したように瞳を輝かせていた。
「アムルテムズの貨物船は、水竜が護衛してくれるそうですよ」
そうリュカが説明した。
「すごっ。じゃ、あの水竜は港に着くまでずっとついてきてくれるんだ?」
「そうなりますね」
感心したような表情を浮かべるシャルを、リュカは愛でるように見つめた。
「え? な、なに? なんかついてる?」
「シャル。どうしてあんなことを言い出したんですか?」
「あんなこと?」
一瞬考えた後、シャルは思いついたように人差し指を立てた。
得意げに彼女は言う。
「ユーリちゃんのことだぁ」
「……争いはユーリ自身が招いたこととはいえ、確かにわたしは彼女を見捨てることに抵抗がありました。けれど、それはシャルを危険に曝してまでしたいことではなかったんです」
あっけらかんとシャルは答えた。
「アタシ、あんまり難しいこと考えるのは苦手じゃん? でも、子どもの頃にリュカが助けてくれたでしょ。だから、アタシもリュカのことを助けられたらって思っただけ」
「……でも、シャルは全知法廷を探し出してくれて、もう私を助けてくれたじゃないですか」
「えー、だって、リュカはアタシが困ってたら、もう助けない? 二度目でも三度目でも絶対助けるじゃん」
リュカは当然といった表情でそう説明した。
「……それはそうですけど」
「じゃ、アタシも同じじゃん」
「……それは……そうですけど」
あははっ、とシャルが笑った。
「それはそうですけどしか、言ってないじゃん」
「……それはそうですけど――」
言った瞬間、リュカは「あ」と声を上げ、誤魔化すように膨れた。
「か、からかわないでください」
リュカはぷいっとそっぽを向く。シャルに助けられっぱなしなのを申し訳なく思っているのだろう。
「友情とは美しいものだ」
二人の様子を見守っていたクロノが言った。
「ど、どしたの、クロノ君、急に?」
少しはにかみながら、シャルが聞く。
「シャルとリュカを見ていて改めてそう思ったのだ。お互いに思い合っているからこそ、友情というのは眩しいものなのだ、と」
「あははっ。そんなこと言われたら照れるじゃんっ」
笑顔でシャルは言う。
リュカは彼女の隣で目を細めていた。
「クロノ君もそういう友達がいたんじゃないの?」
「いない」
即答したクロノは、普段とは違い、少し寂しそうに見えた。全知全能の王たる風格などどこにもなく、年相応の少年のようだ。
「あれ? だけど、オウル君とは友達だったんでしょ?」
シャルが当たり前のようにそう聞いたからか、クロノは珍しく驚いたような表情を覗かせた。
「あれ? 変なこと言った、アタシ?」
「あいつとは仲が悪かったのだ」
クロノの答えに、シャルは意外そうな表情を見せる。
「そうなんだ。アタシ、てっきり」
「聞かせてもらえませんか?」
リュカが言った。
「お兄さんと本当の虐殺王の話」
「……そうだな。言葉で伝えるのは少し難しいが」
クロノはそう前置きをして、こともなげに提案した。
「見に行くか?」
「……え?」
意味がわからなかったか、リュカが疑問の声をこぼす。
「どこに?」
「過去にだ」




