§.6 【虐殺王の企み】
四王会議。
円卓に座しているのは、獅子の皇帝ランデューク、始まりの教皇ソル、白の竜王アガド、そして魔神王ゴルロアーズである。中央には魔法映像が映し出されている。カルロの姿だ。
世界最高の武力と叡智を結集した円卓の間が、今、異様な緊張感で張り詰めていた。
「どういうことか説明してもらおうか、魔神王ゴルロアーズ」
そう口火を切ったのはランデュークである。
「なんの話だ?」
「とぼけるなっ! 貴様がコルンツェルに潜入させていた法賢者ミシェルだっ!」
ランデュークが鋭く追及すると、ソルがそれに続いた。
「教会が調べたところ、ミシェルは人間や魔族、竜人を合成させた万能生物を生み出そうとしていました。なんでも、それは魔神王ゴルロアーズの命令だとか?」
冷たい視線がゴルロアーズに突き刺さる。
「ゴルロアーズ。そなたはここにいる四王全員を敵に回す行為を行ったということぞ」
そうアガドが凄む。
自らの同胞を合成させられていたのだ。彼ら三人の怒りは凄まじい。
だが、ゴルロアーズはこう一蹴した。
「なにかと思えば、くだらん話だ」
「なっ!?」
「くだらんだと!? 貴様、我らが同胞に手を出しておきながら!!」
ランデュークとアガドが烈火の如く、ゴルロアーズを睨めつける。
「甘い。クリームブリュレの生クリーム添えよりも甘い連中だ」
ゴルロアーズはどこ吹く風で平然と言い返した。
「この四王会議が仲良しこよしの同盟だとでも思っていたか? 余と貴様らはそもそも敵同士、人間や竜人の一匹や二匹、処分したからといってなんだと言うのだ? むしろ、万能生物誕生の礎となったのだから、感謝してもらいたいものだ」
「貴様……ゴルロアーズ……」
ランデュークの目が怒りに燃え、殺気を放っていた。
「勘違いしてくれるなよ。我ら四王がこの場に集ったのは、全知全能たる彼の王を止めるためだ。それ以外のことなど、すべてが些末。あえて言おうか。知ったことではないわ」
ランデュークたちを完全に見下すその姿は、まさに魔族の神と呼ばれるに相応しい風格と威厳である。
四者の睨み合いが火花を散らす中、泰然とゴルロアーズは命じた。
「いいから報告を続けろ、人間の小僧」
「は、はい。つまり、法賢者ミシェルの行為は結果として虐殺王が本物の全知法廷というとんでもない代物を持ち出すこととなりました」
「うっ!!」
一瞬にして威厳の消え失せたゴルロアーズは、痛いところを突かれたといった顔をしている。
「その上、真祖のヴァンパイア、リュカが過去改変によって蘇生され、虐殺王の友達となった模様です」
「とっ、友達にっ!!!?」
先程まで同格の四王すら見下していたとは思えないほどの三下感を覗かせ、ゴルロアーズはわなわなと震えている。
「それはまさか貴様……大虐殺の準備が一歩進んでしまったということか?」
カルロは目を伏せて、まさに苦渋といった表情を浮かべた。
「残念ながら」
バンッとランデュークが円卓を叩く。ここぞとばかりに畳みかけるように舌鋒鋭く彼は切り込んだ。
「魔神王ゴルロアーズ、貴様の軽率な行いが大虐殺を進めたのだぞっ。これは責任をとってもらわねばなるまいっ!!」
「腹を切れ、腹を。二度目なのだから、さぞ切りやすいだろう」
責め立てるようにアガドも言った。
「お二方とも、落ち着いてください」
憤る人間の王と竜人の王を諫めたのは教皇ソルであった。
「落ち着けだとっ!? 太陽の民たる人間が、魔族に辱められたのだぞっ。そなたも同じ人間ならば気持ちがわかるはずだ」
「まさか、ソル教皇、貴様はゴルロアーズの肩を持つわけではあるまいな? 魔族に寝返ったのか?」
すぐさま、矛先がソルに向かう。
「わかりませんか? あんな安い腹を何度切ったところで面白くもなんともないと言っているのですよ」
「……確かに、安いか」
「ああ、安い」
さらりとゴルロアーズを揶揄した言葉に、ランデュークとアガドが同意を示す。
「では、そなたの考えを聞こう、ソル教皇」
ランデュークが問う。
「私が重要だと考えているのは、最初の友達……すなわち最初の配下に真祖のヴァンパイア、リュカを選んだ理由です」
ランデューク、アガドがはっとした。
「彼の王はなぜリュカを配下に?」
円卓の間が静まりかえった。皆、真剣な面持ちで考え込んでいる。
最初に口を開いたのはソルだった。
「真祖のヴァンパイアということでしたら、やはり眷属を作るのが目的と考えるのが妥当でしょうね。たとえば、世界の全人口をヴァンパイアにしてしまうおつもりとか?」
「ぜ、全人口をっ? そんなことが可能なのかっ!?」
ランデュークが怒気を発しながらも、疑問を呈する。
「できなくはあるまい。かつての大虐殺では世界の七割を滅ぼした。それぐらいは容易かろう」
そうゴルロアーズが答えたが、彼は眉根を寄せている
「しかし、腑に落ちんな。仮に世界中の全ての生物がヴァンパイアになったところで、死ぬわけではない。伝承にあった大虐殺に比べれば、生ぬるいぐらいだ」
「それもそうですね。元々ヴァンパイアではない彼の王が、ヴァンパイアの眷属を増やす理由もありません」
ソルが同意を示す。
「カルロ。なにか他にはないのか? そのリュカという女の情報は?」
ランデュークの問いに、カルロは答えた。
「大した情報はまだなにも。ただ法賢者を目指しており、法学の成績は優秀です」
「法学か。それもあまり関係がなさそうだが?」
ゴルロアーズが言うと、再び四王は思考を巡らせ始める。
やがて、ぽつりとアガドが言った。
「王政の破壊……」
ランデューク、ゴルロアーズ、ソルが即座に目を剥いた。
「なにっ……!?」
「まさか……」
「今、なんと言ったのだ、竜王アガドッ!!!?」
動揺をあらわにする三者に対して、冷静にアガドは答えた。
「考えてみれば、至極当然のことよ。人間の国ハレスティアは獅子の皇帝ランデュークが、魔族の国ドムドラッドは魔神王ゴルロアーズが、そして竜人の国アムルテムズをこの俺、竜王アガドが治めている」
ここにいる四王たちが世界の殆どを掌握しているといっても過言ではない。
「絶対なる権力を持つ王による統治。これがこの世界の言わば常識と言えよう。虐殺王は中立都市コルンツェルの法律を他の国に広め、王の権力を奪おうとしているのだ」
「……なんのためにだ?」
ランデュークが問う
「なんのため? たわけたことを聞くな、人間」
口を挟んだのはゴルロアーズである。
「なんだと?」
「法治国家になるということは、国を統治するのは愚民たちではないか。あんな愚か者たちに国を好きにさせれば、真綿に首を絞められるようにじわじわと退廃していくのみ」
「衆愚による政治。それによって、王国を崩壊させるのが虐殺王の狙いですか。ずいぶんと悪趣味な手段を考えたものです」
「ふん。他人事のように言うが、そなたとて暢気に構えていられんよ、ソル教皇」
鋭い口調でアガドが指摘する。
「どういうことですか?」
「恐らく虐殺王は法律で信仰を禁止するつもりだ」
「……っ!? なんですって……!?」
眼球が飛び出るのではと思うほど、ソルは目を見開き、驚きと憤りをあらわにした。
「聖ハルケマス教会が多くの信者を抱え、時に国家以上の権力を発揮することができるのは、多くの国で信仰の自由が保証されているからよ。それが禁止されれば時とともに、人々は神への祈りを忘れてゆくであろう」
「……なんという非道な行いを……たとえ、なにを失おうとそれだけは止めなければなりません。神への信仰こそ、絶望の中に輝く最後の希望になるのですからっ!」
力強くソルが言い放つ。
「口にするだけならば簡単だ。それで、具体的にどうやって止めるのだ?」
ゴルロアーズが冷酷な眼差しをソルに向けた。
「その前にもう一つ、お耳に入れておきたいことが」
と、カルロが言った。
「話すがよい」
ランデュークがそう促す。
「はい。実はユーリという真祖のヴァンパイア……すなわち魔族が虐殺王に接触を図ったという情報を入手しました」
カルロの報告を受け、四王たちは皆、険しい表情をした。しかし、ゴルロアーズだけはその険しさの質が異なっている。
「ほう。魔族がな」
ランデュークが言う。
「また魔族か」
「偶然とは思えませんね」
アガドとソルがそれに続き、皆、横目でジロリと魔族の王ゴルロアーズを見た。
「しっ、知らぬっ! 余はなにもあずかり知らぬっ! 大体、貴様らもいちいち自分の国の民がなにをしているか完全に把握しているのかっ? いったい、どれだけの民がいると思っているのだっ!? 余は神ではないのだぞっ」
「では魔神王は返上しろ、恥ずかしい」
的確にアガドはつっこんだ。
「よくわかった。ユーリという者は、貴様にはまったく関係ないということだな、ゴルロアーズ」
念を押すようにランデュークが言う。
「その通りだ」
「では、仮にその者が死んだとしても貴様はまったく困らないということか?」
「無論だ。彼の王に近づくような馬鹿な魔族ならば、むしろ死んだ方が都合がいい」
「よかろう。では、ユーリを利用して虐殺王に近づくのはどうあろうか?」
ランデュークが四王たちにそう問うた。
「非常に良い策かと。上手くすれば、虐殺王が企む王政破壊を止めるヒントがつかめるかもしれません」
ソルが同意を示す。
「同じ真祖のヴァンパイアならば、リュカの方を探る手もあろう。場合によっては、そちらを始末させれば、少なくとも計画を遅らせることはできようぞ」
同じくアガドも賛同した。
「悪くはない。だが、貴様たちの案にはいつも具体性が欠ける。どうやってユーリを利用し、どのように彼の王に近づくつもりだ?」
ゴルロアーズが疑問を投げかけた瞬間、三人の視線が彼に集中した。
「なっ、なんのつもりだ?」
ランデュークは言った。
「同じ魔族だ。任せたぞ、ゴルロアーズ」
ソルとアガドがこくりと頷き、ゴルロアーズに圧をかけていた。




