1話 静かなる夜
「街に着きましたね」
「ああ、そうだな」
時刻は大体夕方真っ盛り。辺りがオレンジ色の、綺麗な景色へと変わっていた。
「恐らくあそこが門です。わたしは大丈夫なんですが……」
「……そうだよなぁ」
今現在の近直状況を説明しよう。
まず、俺の隣にいるのは、リアナという14歳ほどの少女だ。淡黄蘗の髪を長く伸ばし、いかにも良いとこ育ちのオーラが出ている。
対して俺、八尋運河は、転生時に風呂場にいたため服がなく、彼女の服を借りた露出趣味変態女装姿となっている。
「じぁあ、さっきのあの話、ちょっとやってみてよ」
このままでは恐らく門番に捕まるため、ここにくるまでの時間で話した、お互いの長所を生かすことにする。
「催眠術で気を緩めると同時に、カナルくんがわたしを抱えてダッシュするんですね」
俺は体力、リアナは魔術や魔法を得意とするらしい。
もう少しいい案がありそうだが、この案でも十分中には入れるだろう。中に入ってさえしまえば、リアナが魔法でなにかしてくれると言っていた。先ほど見た魔法も凄かったため、どうにかしてくれるのだろう。
「では、行ってくるので、カナルくんはちょっとだけ離れててください。巻き込まれますよ」
「はいはい。気をつけてな」
壁に隠れるようにして様子を伺う。
時間帯がちょうど夕方なだけあって、冒険者と思われる格好の人たちが次々と帰ってきていた。
「……なんですけど」
近くにいないため、リアナの声もほとんど聞こえない。何か言っているようだが、なにを始めるのだろうか。
「お、おい! やめ」
門番がなにが騒いだと同時に、俺もスタートを切る。門番の声も一瞬のうちに聞こえなくなったことから、リアナの術は成功したんだろう。
「捕まれ!」
「はい!」
リアナを抱えて、街へと入る。
「カナルくん、目を瞑ってください」
「へ? こんな時に無茶を……くッ!」
リアナの手が淡く輝き、その手を中心として光が放出される。
「目眩しです。今のうちに路地裏へかくれてください」
「こんな眩しい中どうやって歩けばいいんですか⁈」
「大丈夫です。今は誰にも見られてません」
「俺が見えないって言ってんだよ!」
そんなわいわいと騒ぎながら、壁をつたって路地裏へ隠れる。
俺たちは光に包まれながら、街への潜入に成功した。
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「教官! ただいまの光についてですが」
「分かっています。下がってなさい」
ここはとある建物の最上階。一面ガラス張りの部屋であり、青年はその高さに少々の恐怖を感じた。
「……それより」
教官と呼ばれた女性は後ろを向いており、こちらから顔色を伺うことはできない。声からも、喜怒哀楽が全く読み取れなかった。
「あなた、第何期生ですか?」
「わ、私は、第57期生のフェイトと申します」
「ああ、新しく入ったっていう……」
警察の入社試験にはたくさんの壁があり、受かるものは年に10人未満。今年入ってきた者は、第57期生と呼ばれている。
「では、あなた。今日で警察をクビにします」
「な……!」
唐突に、教官は青年に対してそう言った。
「待って下さい! 僕……いえ私は、そのようになるようなことは一切していないと」
「そのように思っている時点で駄目なのです。下へ準備させます。明日以降、ここへは来ないように。以上、下がりなさい」
青年は口をパクパクさせたのち、首をガクッと傾けて扉を出て行く。
それと入れ替わるように、お盆にお茶を乗せたスーツ姿の女性が入ってきた。
「教官、またですか」
彼女は、お茶を教官の前まで持っていく。
「今の彼は、いったいなにをしたんです? これで四度目ですよ、やり過ぎには注意してください」
「まあ、分かってはいるんだが」
彼女は警官ではない。ここで秘書として働く、唯一の人間である。
少し詳しく話すと、この二人は小さい頃からの幼馴染みであり、お互いに信頼し合う中でもある。教官がタメ口を許容する、ごく稀な存在であった。
「規律を守らない輩が最近は増えている。今のは扉をノックしなかったんだ。いくら私を心配してのことだったとはいえ、このくらいが守れないようであればここに入らない」
「またまた、厳しいんだから」
「厳しくないぞ。ただノックするだけだ。そんなことができないようであれば、今後重大な事件の時に任せられなくなる」
持ってきてくれたお茶に手を伸ばし、見事な作法でそれを飲み干す。
「……美味い。すまんが、先ほど連絡が来た。ルイからだ。お前にも働いてもらうぞ」
「はいはい。今度はどんな内容で?」
「彼女が言うには——」
太陽が沈み始め、時間と共に辺りが暗くなってくる。今頃、悪い大人たちは行動を開始するのだろう。
カナルたちも、彼女たちにとっては悪い人間と思われている。着々と準備が進み、すぐに街を歩けなくなることだろう。
「さて、今度は何日で捕まるのやら」
彼女に届いた問題は、どんなものでも解決される。果たして彼らはどうなるのやら。
——今はまだ、安全な夜を過ごしていた。




