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裸転生~あなた、それは犯罪です!~  作者: ハル
第一章 ~怒濤の始まり~
14/15

9話 スタート

「……なぁ、リアナ」


「なんでしょうか、カナルさん」


「それ、それについてちょっと言いたいことがあるんだ。強要するわけではないんだが……」


「……? なんのことでしょうか。わたしがカナルさんに言われることなんて、なにもしていないはずですが」


「なんていうかな……。はっきり言って、俺の呼び方を変えてもらいたいんだ」


「呼び方、ですか? ご主人様の時といい今回の時といい、カナルさんは呼ばれ方にこだわるんですね」


「別にこだわってるつもりもないんだけどな。その『カナルさん』っていうのは、なんか二人の距離が離れてる感じがするんだよ。そろそろそういう関係でもないんだから、せっかくならこの機に変えようぜ、って話」


「では、どういった呼ばれ方がお望みですか? 単にくん付けや、カナルっていう名前からニックネームを考えたり、なんなら好きなように呼ばせていただいても構いませんよ」


「んー、そうだな。……ニックネーム、って言ったらなんて呼ぶ?」


「カナルさんの本名は、確かヤヒロ・カナルでしたよね。だったら……カナっち、なんてのはどうでしょか」


「カナっち、ねぇ……」


「むぅ……お気に召しませんでしたか?」


「カナっちはなぁ。なんかちょっと子供っぽすぎね? 悪いとは言わんけど、できれば他当たりたい」


「じゃあシンプルにくん付けで行きます? カナルくん……ほら、結構良さげですよ」


「ならそうしよっかな。俺のことはカナルくん、以後そう呼んでくれ」


「カナルくんカナルくんカナルくん……はい。もう大丈夫です。では、これからはカナルくんと呼ばせていただきますね」


「ん、よろしく」

――――――――――――――――――――――――――――

「いてて……」


 転移が起きてすぐ、放り出される感覚とともにリアナは顔をしかめる。


「ここは……あ!」


 隣を見ると、少し前まで暮らしていた大きな大きな塔が見える。どうやら、あの転送アイテムの到着先はここにセットされているようだった。


「ん……私はなにを……」


 横にいるのは、このアイテムの所有者だった綺麗な女性。衝撃の影響で、深い眠りからも覚めてしまったようだ。


「あ、あの……」


 恐る恐る声をかけるとその女性も気付いたようで、辺りを見渡し話しかけてきた。


「あなた、私のアイテム使っちゃった?」


「す、すみません! そこにいるカナルくんがつい……」


 言いながら気づく。


 隣にいたはずの彼がいないことに。


「? ここには私たち二人しかいないけど、そのカナルくんとやらはどうしたの」


「えっと……たぶん、アイテムの使用範囲外にいたのかもしれません。アイテムは、今度弁償しますので」


「いいわよ弁償なんて。……それよりも」


 体を立ち上がらせ、彼女は問う。


「あなた、さっき私を一瞬で無力化させたけど、なにかすごい能力でも持ってるわけ? それともなにか秘密でも隠してるの?」


「い、いえ。あれは魔術によるものです。催眠術という魔法も使えましたが、よくわからない相手にはこちらのほうが慣れてるので」


「魔術? 珍しい人もいたものね。どのくらい使えるわけ?」


「全部、ですかね」


「全部? この世界には無限と言えるほどの魔法があるけど、魔術も相当量あるはずでしょう? それを全部使えるって言うわけ? その年齢で」


「その年齢と言っても、私は1200歳超えてるんですよ」


 は、という声が静かな森にこだまする。


 1200歳だ。想像外の発言に、彼女の瞳が疑問に変わる。


「あなた、ここでなにをしてるの。そんなすごいなら、ここからちょっと離れてるけど王都に行くべきよ。そこでなら、たぶん国の重要人物にでもなれるはずよ」


「大丈夫です。わたしはカナルくんの付添人ですから。それ以上は何も望みません」


 あまりにあっさりとした答えに、彼女はまたしても目が点になる。


 ――この世界において、1200年とは相当のものである。


 この世界の始まりは、今でもなお崇め続けられる『創造神アルファ』というものの誕生から始まった。そしてそれは今からおよそ3000年前の話であり、人間の誕生は1600年前と言われている。


 その1600年前、アルファは人間というものを作り出し、その人間は異常な速さで成長していった。遥かに予想を超えた成長に、アルファの『創造』という能力では何もできなかった。『破壊』という能力が必要となった。


 アルファはすぐに『破壊神シルヴァ』というものを創り上げた。しかしこちらも予想外、あまりにも壊しすぎていくのだ。アルファがどれだけ創ろうと、同じレベルどうしでは絶対に終わりが来ない。また、創造より破壊のほうが簡単なため、じりじりとこの世界が壊れ始めたのだ。


 そこでアルファは決心した。シルヴァは止められない。なら、それ以上の力で抑え込めばいいと。


 そして、『維持神ビジュラス』という己の力を遥かに超えたものを創り上げた。その後、すぐに世界は平和になった、と言われている。


 平和になった時、これが900年前だ。1200年前だと、まだその頃は世界が崩壊していっている真っ最中である。


 1200年前とはそういうことだ。


「……あなた、何者なの?」


 考えれば考えるほど、今隣にいる少女の存在がぼやけて見える。


 ――自分という存在がおかしくなったようだ。


 何を目的としてここにいるのか。その奥底にある自分の悪に、どう向き合っていけばいいのか。


「わたしはリアナ。カナルくんの下僕しもべであり、この塔の管理人です。それ以上のことは、まだなにもありません」


 隣の少女は、迷いなくはっきりとそう言った。生きていた1200年を迷いなく放棄し、今ここにいない男にすべてを預けていた。


 喉の奥が、叫び出したい心の中を締め付けている。


「あなた、狂ってるわよ……」


「そう思われるようなことは、まれて一度もやったことがないですけどね」


 迷いなき笑顔で、多少の悪意も跳ね除ける。


「……私、これからの用のために、この塔の中に行かないといけないんだけど」


 頭を支配してくる光の感情に、無理矢理悪の感情を作り上げて相殺する。しかし、全ては殺しきれなかったようで、勝手に口が話していた。


「あなた、私のために手を貸してくれない?」

――――――――――――――――――――――――――――

 光が収まると、さっきまで目の前にいたはずの二人がいなくなっていた。


「あれ? 俺だけ取り残されてるんだけど」


 光への脊髄反射で目を隠していた右手をどける。


「あれー? リアナの転移系ってのは合ってんだろうけど、俺は転移できねぇのかよ。範囲50センチにも入ってる俺と範囲1メートルに全身入ってなかったあの女で、俺のほうがだめだってか?」


 どういう理屈かわからない。ただ、こういう結果になったということは、そうなるだけの理由があるということだ。


「うーん……わから」


「そこのお前! 両手を上げて膝をつけ!」


 考えている最中さなか、一人の警官が大声とともに突入してきた。


「げ!」


「無駄な抵抗はよせ。逃げようとすると、こちらも容赦しないぞ」


 反射的に逃げようと裏へ進もうとするが、そちらからも一人の警官が現れた。


 いわゆるこれは――、


「――絶体絶命ってヤツ……!」


「なにをぶつぶつ言っている。投降するなら優しく連れていく。しないというのなら多少の攻撃も辞さない。どうするかは三秒以内に選べ」


「3……」とカウントダウンを口ずさむと同時、杖の先端を向け、こちらへの攻撃を示唆する

「2……」と言うと同時、向けてきた杖の先が紫色に輝き始める。


 ――もちろん、直撃すればひとたまりもないことは分かっている。


 あのとき、少なからず自身のある体力をもってして、女警官にも勝つことのできなかった俺だ。ましてや、今現状で逃げ場もなく男警官に挟まれ、どうやって逃げることが可能なのだろうか。


『任せて下さい。危ないことがあれば、命がけでも助けてあげますよ』


 ふいに、先程まで隣にいたリアナとの会話が頭に浮かぶ。


『おはようございます、カナルくん。よく眠れましたか?』


 いつも笑顔で、


『いくらご主人様命令といっても、さすがにこれはいけませんよ!』


 悪いことには腹を立て、


『どうしました? 怖い夢でも思い出しましたか?』


 いつも俺のことを心配してくれて、


『はい、おやすみなさい』


 いつのまにか俺の隣にいてくれて、


『楽しみですね』


 ――そして、これからのことを、俺よりも楽しそうに考えてくれていた。


「1……」


 警官のカウントが終わりに近づく。


 同時、俺は駆け出した。


「ゼロ!」


 逃げ出す俺に向かい、二人の魔法が直撃する。


 走り出した右足に恐怖はない。リズムを刻み、大通りへと逃げ出していく。


「どういうことだ! 魔法が効かないだと?!」


 目の前の警官を跳ね除け、大通りへ。


 騒がしい野次馬の渦に身を通し、いつ追手が来てもいいように縦横無尽に駆け回る。


「誰か! そいつを捕まえてくれ!」


 警官が叫ぶも、そこにはもう俺の姿はない。


 対面の壁を伝って再び裏道へ。どこに行ったかわからないリアナを探して、俺はこの街を駆け回る。


 ――俺はリアナを探すと同時、これより、警官との鬼ごっこが開始された。

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